魔王を生かしたことでパーティの密告によって死刑された英雄—じつは魔王に惚れられ蘇生してくれたので結婚し、順風満帆な人生を送りたいと思う—

灰色の鼠

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第7話 「花婿修行・前編」

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 魔の大陸が震撼した。
 支配の頂点に君臨する魔の王サリエルが男と縁結びしたのだ。
 気高い魔王が誰かと番になるなんてことは、まずない。

 ただでさえ、人族相手に敗戦した魔王軍のリーダーがそんな余裕を見せるはずないと大陸中の魔族たちが半信半疑になっていた。
 しかし、事実であるとしった魔族たちが武器をとる。



 魔の大陸。
 首都ヴラッティアに各国の武人や戦士たちが集結した。
 魔王の思想に反した組織に加担しだした魔族たちの暴動かもしれないと、ヴラッティアの国民たちに不安が流れる。


 門番たちが山のように他国からやってきた魔族達の対応に追いやられ、その事情の殆どが統一していることに気がついた。

 誰しもが魔王サリエルの縁結び相手を出せと要求していたのだ。




 ———





 玉座に特別、ルーディンは座らせてもらっていた。
 膝の上にはチョコンと座る幼女の姿をした魔王サリエルを乗せながらだ。

 サリエルは皮を剥いた不器用な形をしたリンゴをフォークで、ルーディンの口元まで運んでいた。

「はい! あーん!」

 四六時中からずっと甘えられている。
 そんなに夫婦になることが特別なのかと、未だ感性がずれていたルーディンは運ばれたリンゴを齧りながら考えこむ。

 サリエル、相当妻を演じていたいのか何かあるたびにお節介をかけてくる。
 ほとんどが失敗しているけど直向きな性格なのかサリエルは呆れずにルーディンにくっ付き続けていた。

「どうじゃ、美味いじゃろ?」
「………ああ、うん、悪くないんじゃないか」
「うぅ、相変わらず反応の鈍い奴じゃな。こんなにも可愛いお嫁さんが構ってやっておるというのに。まっ、お主のそういうトコも含めて好きになったんじゃがな!」

 甲高い笑い声が玉座の間に響き渡った。

 ダンッ、と二人っきりしかいない空間に扉の開く音もが響きわたる。

「大変ですよ魔王様!」

 駆け込んできたのは秘書の女の子だ。
 涙目で大慌て、そのせいか絨毯に足を引っ掛けて盛大に転んでしまう。

「なんじゃ、相変わらず忙しい奴じゃな」

 秘書はすぐに床から顔を上げ、慌てていた理由を話す。
 額には角があったが、今にでも折れそうなぐらい不安定だ。

「か、か、各国から、大勢の魔族たちが南の正門に集まってきていまして」

 オロオロと秘書が話しているとサリエルは不機嫌そうに「ハッキリ言え」と、喝のこもった声で注意をした。

「ルーディン様を出すよう要求してきたんですぅ!」

 報告を受けサリエルはニヤッと笑みを浮かべた。
 まるでそれが必然的に起こることを事前に知っていたかのようにサリエルは歓迎そうな反応をしたのだった。

 また面倒ごとか、と諦めてルーディンは肩を落とす。

「原因はサリエルとの縁結びにあるだろう」

 そう言うと秘書は涙目で頷いた。
 まるで子供と接しているようで変な感覚なのだが、ルーディンは彼女に報告をしてくれたことに感謝を告げてからサリエルに向き直る。

「もしかしてだが、俺が目を付けられることを知って各国に公表をしたのか?」
「せーかいじゃ!」

 迷惑な正解なのに、なんというテンション。
 ピョンとルーディンの膝から飛び降り、床に着地するとサリエルは無邪気に笑みを浮かべながら親指を見せてきた。

「元人族のお主が、然う然うと認められるわけも無いしな。ならば、各領地からやってきた魔族どもに力を証明して納得させるのじゃ。世界で最も美しき気高く、清らかな魔王サリエルに相応しき婿であると! なぁ! 良い考えじゃろ!」

 悪い提案ではない。
 自分を過大評価するサリエルが鼻につくが、それはさて置き蘇ってすぐ種族の大半を相手にしなければならないとは本当にどこもかしこも忙しいことばかりだ。

「これなら重労働の方がマシのようにも思えるが………ブランク回避にはいいかもな」

 ここにきてからルーディンはまともに能力を発揮していなかったことにブランクの危機を感じていた。

「秘書、標的は何人だ?」
「標的!? え、えっとですね………私が見た限りは―――――」

 唾を飲み込む、ことはしなかったがルーディンはそれなりの覚悟をしていた。
 いくら英雄だと称えられたところで、それは人間内の領域内での見解だ。
 魔族は古来から、圧倒的な個々の能力を行使してきていた。
 だから生き残れてきたのだ。

「―――一万は軽く超えてるかと」

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