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第3話 「魔族の国」
しおりを挟む魔の大陸の首都ヴラッティア。
魔王城が高く聳えており、下町含めてどこも復興の最中である。
豊かな土地だけあってかなり近代化が進んでいた。
魔術なら魔族、技術なら人族という固定概念が存在していたがまさか魔族サイドの方が潤っていたとは。
「あっ、貴方様は!」
都市を囲む防壁の門番がこちらを見る。
ルーディンではなく女の方だ。
彼女がやってくると周辺で復興作業をしていた者達、門番達が一気に敬礼をしてきた。
「ご無事でなによりです!」
「では、そちらにいる方は?」
門番の一人に凝視されるルーディン。
女は頷きながら代わりに彼の紹介をした。
「魔王の盟友になるお方、ルーディン殿だ。かつては敵対関係にあったが人族に罰せられた今、我々が刃をむけるお相手ではないことを断言しよう」
お堅い口調は健在だ。
まさか、かなりお偉い立ち位置の人物なのか。
それにしても、門の端っこで既に複数人もの魔族がルーディンを輝いた瞳で見つめていたが魔王、どれだけ過大評価してくれているのやら。
————
城の敷地で待ち構えいたのは、かつて剣を交えた強者達の面々だった。
魔族の国なのだから当たり前だが別種族の代表的な立場の者たちが並んでいるという図は珍しい。
「おい、テメェら。まだコイツがルーディンだってことがまだ確信した訳じゃねぇのに歓迎雰囲気に浸ってんじゃねぇよ」
中には無論、よく思わない魔族もいる。
若そうな見た目をした筋肉質な青年だ。
性格がかなり荒っぽそうだが、まさか初っ端から疑いをかけるとは。
「リーネス、客人に失礼よ」
案内をしてくれた女が注意をした。
なにが気に食わないのかはルーディンでも身をもって痛感している。
人族側に恨みを持っている奴らは多い。
街中を歩いて分かった事は、歓迎をする者と警戒心を持つ者の二種類だ。
「ロゼッタ! テメェに言われる筋合いは無ぇんだよ!」
この女の人、ロゼッタという名前だったのか。
「俺らの故郷を、ダチも、家族も、兄弟も、愛人を殲滅しようとした連中に変わりねぇんだよ!」
「だとしても、この者との友好関係はこの国の大きな利益となると魔王様がおっしゃってたじゃない。それを覆すってことは例の組織と同じよ」
「ふざけじゃねぇ! そんな野蛮な奴らと一緒にすんな!」
仲間割れをしそうな勢いで睨み合うロゼッタとリーネス。
なのに周囲の魔族たちは呆れ溜息を吐いていた、まるでこの光景を見慣れたかのような反応だ。
「わざわざご足労なさったのに仲間が無礼なことを……」
「いい、蘇生をしてもらった恩もある」
魔族は知的だ。
人間よりも遥かに賢い。
古来から伝承される能力や知識はすべて魔族によって排出され派生してきたものである。
敬意はあった。
しかし敵であれば切るのが生存本能だ。
いまは一人の客人として招かれているようだが、ルーディンはどうしても場の雰囲気には馴染めるような気がしていなかった。
そういえば以前ここに足を運んだ時に、他にも強い魔力を持った魔族が複数いたはずだ。
ルーディンも手惑うほどの力を持った戦士たちが。
「それにつきましては魔王サリエル様が説明をしてくださいます、玉座の間へ」
ロゼッタが最後まで丁寧に頭を下げた。
あとは城内の使用人に案内をされ魔王の元へとむかう。
————
「久しいではないか、元気にしていたか?」
床にひかれた赤い絨毯のむこうには、圧倒的なまでの覇者の風格を漂わせる魔王が座していた。
黒く禍々しい甲冑を身に纏い、赤毛を足元にまで伸ばした少女だ。
風貌は華奢だが、れっきとした魔の根源であることをルーディンは痛感していた。
「自分が信じてやまない者達の手によって制裁を受けた気分はどうじゃ? 憎ましいじゃろ、復讐をしたいじゃろ? どうだ、答えよ!」
「お前も相変わらずなんだな、御託が長いぞ」
話が長くなる。
それを想定していたのかあえてルーディンは質問には答えたりはしなかった。無限のキャッチボールが始まるからだ。
「復活してやったというのになぁ」
「………それは感謝している」
「素直じゃのうー、まっなんじゃ会えて嬉しいぞ。お主があの時、余にトドメを刺していたら余はここにはいない」
「最終的に死んだのは俺だがな」
どこか寂しそうな声でルーディンは言った。
未だに仲間達に裏切られたこと、殺されたことを引きずったままである。すぐに忘れることなんて出来ない、ルーディンは微かながら恨みを抱えていた。
「復讐したいか?」
改めてサリエルは質問する。
ルーディンは深く考え、そして答えた。
「したくないって言ったら嘘になる」
自分の意思を否定した人々達には恨みもある。
ありませんと言ったら単なる気持ちの悪い偽善者だ。
「重荷があったのかもしれない。人々の願望を叶えようという重荷が。俺は自分の本心には従わず、人生の果てまで他人に従い続ける運命だった」
サリエルは大人しく耳を傾けていた。
彼女なりの気遣いだろう。
「殺されて気づいたんだ、それが間違っていることを。救うことだけが—————」
言葉が遮られる。
唐突に脳裏に、見知らぬ人物が語りかけてきた。
「———ようやく、ここまで辿り着いたか英雄よ」
暗闇から、黄金の髪を持つ少年がルーディンを見て言う。
「なに、身構えないで良い。我の体を扱うに値するのか確認しにきただけだ」
(………もしかしてお前は)
「そうだルーディンよ。人間に殺され、魂となっただけの貴様に肉体を貸し与えている者だ」
幼いのに知的だ。
伴い、圧のある視線にルーディンも不意に跪きそうになっていた。
「我の体は便利だぞ。限界にまで熟練され、世で最も最凶と言っても過言ではない。魔力は底を尽きることを知らない、どのような打撃を受けようと通じぬほど屈強だ。体力、俊敏、跳躍、筋力、基礎能力はどれも最強を凌駕した至高のボディだぞ。素直に喜びたまえ! ハハハッ!」
自画自賛の嵐に呆れてしまう。
それほど強大な力を持った肉体なのかとルーディンは舐め回すように体を見る。
(死ね!)
ルーディンは持てるだけの魔力を集中させ環境を歪ませるほどの物理的魔術を放つ。
それは少年の元まで迸るが、
「そう焦るな、まだ笑っている途中だろうが」
放たれた魔術を指で弾き、頭上へと吹き飛ばす。
ルーディンは自分の究極奥義と同等の攻撃がまるで羽虫のように扱われたことに唖然とした。
やはり、と確信した。
こいつの正体は…………
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