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プロローグ

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 そこは白い部屋だった。
 天井も、床も、なにもかもが白。
 目がおかしくなるほどの純白空間だ。

 真ん中にはちゃぶ台があった。
 周りが白いのに、それだけは何故だか木質を失わせない色のままである。

「………この紙は?」

 ちゃぶ台には置き手紙があった。
 表には〇〇と俺宛の名前が書かれていた。

 中身を確認する。
 綺麗な文字で書かれている内容を読む。

『————』

 紙を封筒に戻す。
 内容は、見覚えのあるものだった。
 読むだけですべてを悟った。

 周囲をまた見渡す。
 すると、無かったはずの場所に扉が突然現れた。

 なんの躊躇いもなくドアノブを回す。
 そして扉を開き、白い部屋の外へと出た。


 そこは異世界だった。






 ————




 俺の人生は、田舎村の赤ん坊から始まった。
 名前は『キュリム・アランソン』
 四つん這い歩きしか出来ない赤ん坊である。

 前世は25歳のニート。
 金持ち一家で親のスネをかじる生活をした結果、追い出されてしまった。
 そのまま途方にくれていたら車に轢かれて死んだ。

「あー、あー!」

 家はとある王国の辺境にあった。
 両親、二人とも元はベテラン冒険者。
 母親はまだ子供っぽい見た目だ。
 たぶん、父はロリコンなので目をつけたのだろう。
 だけど成人なんて遥か前の話らしいので、うちの母親はいわば合法ロリなのだ。

「俺らの息子も、将来は冒険者だな」

 父は俺を膝の上に乗せながら言う。
 おいおい、将来冒険者って危険極まりないか。

 日本人と比べたら、中世ヨーロッパに限らず海外は家族をなにより大切にする習慣があるって聞く。
 なので子離れ、親離れをせず同居することが多いっていうのに早々に旅立たせるのかよ。

「そうね、私たちの息子だもん。きっと立派な冒険者になって帰ってくるわ」

 母も同意の様子だ。
 不安だ、冒険者になりたいわけではないし出来れば楽に生きていきたい。
 異世界なら魔物と戦うんだよな。
 痛いのはヤダな。

 今のうちに鍛えとくべきか。
 そうすれば良いラインまで行ける気がする。
 前世はなにかある度に挫折してあきらめてきていたが、今回はスケールが全くの別物。
 死ぬのが、あまりにも安易な世界なのだ。


 ―――



 一年後、冬。
 家は二階建てで敷地が広い方。
 庭には気が生えており枝にブランコが繋がれていた。
 父が調子にでものって作ってくれたのだろう。

 窓の外では雪かきをする父がいた。
 度々、家を通過する人と仲良さげに挨拶している。
 さてはこの村の人気者だな、このこの。

 冗談はさておき、父や母は本当に人気者である。
 どんな仕事をいまやっているのかは分からないが。
 夜になると、たまに父は剣のような武器を手に持ってから家の外で待っている大勢の男たちと何処かにいってしまったりする。

 返ってくる時はいつもボロボロだ。
 まるで何かと戦ってきたような負傷を受けて朝、帰宅してくるのだ。
 心配そうにしていた母とキスをしてから、父は俺を見て泣きそうな顔をしながら抱きしめてくれる。
 父の体はたまに鉄臭い。
 なにをしてきたのかは大体想像できる。

 村のために、家族のために戦ってきたのだ。
 妻がいるというのに、子供が産まれてきたのに戦い続けているのだ。
 人を疑ってばかりの俺は、初めて人に尊敬の感情を抱いた。

 かっこいい。
 ある程度大きくなったら父に剣を教えてもらおう。
 将来の目標はイケメン剣士だ!


 と張り切ったものの魔法にも興味を持つようになった。
 たまに家に訪ねてくる若そうな女性がいた。
 母の古き友人で魔術師らしい。

 迷うな……。
 そっちもかっこいいし、どっちの職業にもなりたい。


 あれから三年後。
 四歳になった。
 誕生日には剣を貰った。
 やはり剣士こそ男のロマン。


 ―――



 庭にあるブランコに座る。
 俺がまず、するべきことは情報収集だ。
 なんにも知らないまま、この世界で生きていくのはマズい。
 攻略サイトを見なければクリアできないクエストだってある。
 どれだけ凄腕のプロだろうと事前情報がなければ筋肉もただの肉塊である。

 前世、アプリゲームで遊んだ引っ張ってぶつけるゲームもそうだった。
 ましてやここは現実世界。
 死ねばコンティニューなんてものは無い。

 よって専念しなければならない。

 家の本棚から持ってきた本を手に取る。
 読み書きは母が教えてくれたおかげである程度は読めた。

 簡単な歴史本である。

 魔力を宿す『魔族』、魔力をまだ宿していなかった『人族』が分断された時代が始まり。
 魔族は『精霊大陸』を人族は『アズベル大陸』支配領域していた。
 人族は権力、資源をめぐって当たり前のように領土同士争い傷つけあっていた。
 比べて魔族は平和な種族である。
 獣人、小人、エルフ、龍、精霊、巨人、悪鬼《ゴブリン》等々。
 互いの領域には最低限の干渉を果たさない。
 そんなルールがあった。
 おかげで争い事は長年も起きていない。
 平和な大陸だ。

 そんな大陸に一人の白髪の少女が産まれた。
 母親が魔族、父親が人族である。
 そのせいで物心ついた時まで誰からも真に愛されたことがない。
 外を出歩くだけで白い目を向けられる。
 いじめられ、悪口を言われてしまう。
 ひどい話だ。

 しかし、あるキッカケで少女は誰からも差別を受けなくなったのだ。

 遠い世界。
 ここではない神の世界から女神が降りてきたのだ。それは少女に何でも願いが叶うという種を託すためである。

 少女の願い。
 それは世界が『白くて綺麗で、平和な未来』になること。
 種を大地に植え
 種は大陸の中央土地を覆うほどまでの大木に成長した。
『魔力』と呼ばれる物質を常に撒き散らしておりその範囲は海を越えるほどまでに至り、そのおかげで人族たちも魔力を身に宿すようになったという。

 成長した木は『精霊樹』と命名された。
 その管理者である少女はいつのまにか大陸全土の魔族に愛される存在となり『大賢者ミア』という愛称をつけられたとのことだ。
 少女の名は『ミア・ヴランシュ・アヴニール』である。

 そこからはページが千切られたように失くなっているため、続きが読めなくなっていた。

 これが人族の魔力の起源か。
 奥深いというか、御伽噺《おとぎばなし》のようだな。

 本を閉じて現実に戻る。
 絵本のように簡単な文ばかりだったな。
 さては子供向けの本だなこりゃ。

 ブランコから降りる。
 ちょうどその時、顔になにかが当たった。 

「ぶわっ!?」

 水々しい感覚に、へんな臭い。
 家の敷地の外を見ると子供の集団がいた。

 見るからに悪ガキの烏合の衆だ。
 リーダーらしき男の子の手には泥団子が握られていた。

 あ、転生して最初のイジメに遭ってしまった。

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