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プロローグ
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しおりを挟む神様の話によると、まず俺が転移した方がいい理由はこうだった。
曰はく、『異世界の人間がいるとそこに風穴があいて魔力の通りがよくなる』。
魔力の通りがよくなるってなんぞ?
と魔力のない世界の俺は思ってしまうわけだが、どうも魔力というのは循環しなくなると淀んで害をなしてしまう存在らしい。
話が難しくなるので端折られたが、端的に言うと異世界人はいるだけで周りに良い変化をもたらす、ということらしい。
「つまり空気清浄機?」
「大体あってるね! どっちかっていうと多機能エアコンかな!」
「エアコン……」
異世界人の存在意義とは。
「いや、でも定期的に存在してくれないと魔王が生まれちゃったり、疫病がはびこっちゃったり大変なんだよ。なので異世界人はすごく貴重ですんごく大事なの!」
「大事にしたい相手に開口一番お前はどういう挨拶してんだ!」
「えへ、つい久しぶりで悪ふざけしたくなっちゃって!」
「……」
神様(?)らしく、非常にかわいい姿であるが幼女萌えは俺にはない。
あと僕っ娘属性もないので性別も聴く気はありません。男の娘っぽいが。
「性別は超越してる存在だからね!」
「うん黙ろうか」
で、そんな感じで貴重な異世界人。
運命のいたずらで寿命が残っているにもかかわらず死んでしまう人間を見つけては、来てくれるように打診しているのが現状……とのことだった。
うん、まぁ俺の残り寿命はそこそこある方なんだろうし、50年あればそ世界が潤うってことなんかな?
もっと若い人間で事故に巻き込まれることも多い気がするんだけどなぁとちらりと見てみれば、神様はため息をついて首を振っていた。
「それがね、あんまり若くない方が滞在期間が長いってわかってるんだよね」
「は? どういうことだよ?」
「聞いてくれる?」
滞在時間は直接生死にかかわりがないというので、じゃあ説明してもらおうかとなったのだが……。
そこから語られた話は聞かなきゃよかったとというひどい話だった。
「まずね、異世界人には丈夫な身体と暮らすのに十分な能力を渡す」
「それって選べるの?」
「もちろんだよ。異世界のものは持ち込めないけど、この世界で暮らすのに不都合があったら困るからね。神棚に金銭を供えられることもあるから、そこから寿命分暮らせるくらいの金銭ももちろん渡す」
「意外と至れり尽くせり」
「あと、こういった転移に選ぶ人間の性格は吟味してるからね。異世界人は特に問題はないんだよ、異世界人は」
「ふむ?」
日本人が多いねーというので、基本的に平和な人間が多そうなのは納得である。
だが、その明るい声に対しての暗い表情は一体何なのか。
「問題があるのは僕の世界の人間なんだ……」
「なんだ……と?」
こういうラノベの定番って、だいたい転移した人間がやらかすもんじゃないの?
なんでそうなった?
「異世界人はね、傍にいるだけですごく気持ちいいんだ」
「エアコンがすぐそばに。そら快適だわな」
「うん。そのせいで人がすぐ集まるし、転移してすぐに関しては特に問題があることは少ない。でもね、滞在日数が増えれば増えるほど、空気がよくなっていく。そのせいでどんだけ見た目を変えても手段を尽くしても、遅かれ早かれ魔力が高い人間は気づくんだよね、異世界の人間がいるって」
「ふむふむ」
「でね、僕の世界の魔力の高い人間ってね。――――権力者なんだ」
「をう」
読めてきました。
なんかダメ転生テンプレな感じがすっごいしてきました。
「囲うくらいなら、まぁギリギリセーフだと思うんだ。過去には王配になって幸せに寿命尽きるまで国に尽くした異世界人もいる」
「うむ」
「でも無茶をし始めたり、独占をし始めたり、最悪意思を無視し始めたりするとね……異世界人が……」
「異世界人が?」
「自殺する」
おうヘビー。
「異世界人は加護があるから、僕の世界の人間に殺されることはないんだけど」
「うん」
「自殺は止められない。寿命をこちらが分けてもらってる側だから、それを断つといわれたらこちらでは対処できないんだ。なのに、どう頑張っても力がある限り異世界人は理不尽な目にあいやすいんだよ……」
「そうか……」
まぁ力があるってそういうことだよなぁ。
「それに僕の世界では気づかれてないんだけど、異世界人の気持ち一つで清浄の仕方が変わるんだよね」
「気持ち一つ?」
「端的にいうと、幸せなら周りにも幸せをふりまいてくれる」
「不幸せだと」
「国が最悪滅ぶ」
おうヘビー。
「神託で授けるにも限界があるし、そもそも異世界人に何故手を出してはいけないのかが、大きな力を持っている人にはわからないんだよね。異世界人はただ存在して、ちょっと幸せになって暮らしてくれるだけで良いのにさ……」
「お前も苦労してるんだな……」
で、それが何故若くない方がいいにつながるのか? というと?
「君の前にいた異世界人は、60の爺様だったんだよね」
「元気だな爺ちゃん」
「寿命は20年ほどだったんだけど、その前の異世界人が17で転移してわずか5年で世界を亡ぼす規模でこの世界を呪って自殺したから緊急でね……急いで頼んだんだけど、20年平和だったんだ。だからある程度大人の方が楽かなって……」
「待って? その前の17歳の少年の行方が不穏!」
それ聞き逃しちゃいけないやつだから!
☆
誤魔化されなかった俺はまず50年前だという少年の話を聞いた。
17歳という若さでバス事故に巻き込まれた彼は、とても穏やかな少年で長い寿命が残っていた。
なので神様は万全の態勢で希望を聞き、送り出したのだという。
ところが。
「……若すぎて、人に騙されまくって一文無しになって」
「あうち」
「しまいには最初に出会った女性に再度騙されて奴隷レベルの借金背負って奴隷商人に売られて」
「なんてこった」
「隷属とかできないから諦めればいいのだろうけど、商人がsランクの戦闘能力を持っていたのが不幸だったんだ。結果、隷属が出来なくても洗脳が効いた。若い子だったから、状態異常じゃなくて純粋に思い込まされる系には対応できなかったんだ……」
「こわ!?」
「さすがに痛覚遮断とかしたら人間じゃないしね。人を傷つけられない穏やかな少年だったことが災いした……。逃げればよかったのに。責任感が強すぎたあの子は、逃げもせず痛め続けられた」
うわぁ……無理やん。
やめて純粋な少年が可哀そうすぎて泣けてくる!
その気になれば国ぐらい亡ぼせるレベルで強かったのに、搾取され続けて神経がマヒったのか。
「そのうち国が暗雲を背負うようになり」
「うん」
「僕もこれはやばいとその国の王族に神託を出したんだけど、救えじゃなくて神子を捕まえろになってしまって」
「踏んだり蹴ったり」
「最後は騙してきた女に種明かしされて絶望して、国ごと巻き込んで滅んだ。あの子を最初に騙したのは、その国の手癖の悪い王女だったんだよ……僕は王女を罰しろといったのに。あの国は親バカの王によって滅びの道を進んだんだ」
「オンナコワイ」
「それなのにあの子は僕に最後に謝ってきてね……もうね、涙が止まらなかったよ。一度世界に渡してしまうと僕は手出しは出来ないから……もっとできることがあったんじゃないかって僕は今でも思ってる」
「辛かったな」
少年も神様もこればっかりは悪くないよ。
むしろよく5年持ったよ……かわいそうだよ……。
「なのに国を滅ぼした異世界人が悪いみたいな風潮が生まれてね。僕は激怒して神託を10年控えた」
「そうか」
「神殿は大混乱、魔王は生まれるわ他の良い国も暗くなるわ……さすがに無視できなくなって、こっそり呼んだのがお爺さんだった。優しい人でね。空気が変わったから異世界人がいるとはみんなわかっていたんだけど、ついぞ見つからなかった。そりゃそうだよね、今にも死にそうな年齢のお爺さんだとは思わないし、空気に触れても優しいお爺さんだからで通じちゃったんだよね。平和だったー」
「ほんわか爺さんって和むよな、気持ちはとてもよくわかる」
で、俺の話である。
「まぁそんなわけで、若い子を送ると大惨事が引き続く可能性がある」
「国を滅ぼした子の話が残ってるから?」
「うん。自業自得だって言うのに、執拗に言い続ける馬鹿がいるんだよね。神託が聴けない時点で悪いのはどちらかなんて明らかなのに。なるべく無関係な国に送りたいけれど、下手に遠いと逆にいたりして身の安全が保障できない。だから、まず外見で判断されず、大人の考えが出来て、それでいて寿命がそれなりに残っている人。そういう意味であなたに声をかけたんだ。納得できた?」
「おう」
納得したので、前向きに考えることにした。
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