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しおりを挟む二人三脚の魔法訓練もだいぶ進み、3か月ほどでセドリックは4属性の下級魔法までは使えるようになった。
魔力を失いすぎないように気を付けてではあったが、基礎魔法をマスターした後のセドリックは筋がよく、あっという間に魔力制御や操作も覚えてしまった。
もはやチート野郎と言っても過言ではない。
10歳児だけど。
めちゃくちゃ天使だから何でも許すけど。
ちなみにこの世界の魔法に詠唱破棄とか無詠唱なんてものはない。
魔法の名前自体が長ったらしくないので覚えてしまえばそれほど使うのに時間はかからないが、それでも詠唱は必要になる。
その中で俺が使う魔法ははた目からすると詠唱なしに見えるので、注意して使うようにお母さまからは注意された。
ちなみに魔力消費的には俺が使おうとセドリックが使おうと関係ないようだ。
セドリックが使いたい魔法名を呟く→俺が詠唱唱える→その間にセドリックが魔力をためてドーンって感じで、セドリック単体で光風魔法使うより早いのが特徴。
セドリックが意識しなくても方向とかは俺が決められるので剣を使いながらでも魔法が突然身体のどこからか出てくるってかなりのアドバンテージだよな。
ますますチート疑惑が加速している。
そんなある日、お父さまが帰宅すると暗い顔でお母さまにこう告げた。
「急いで支度してくれ。領都へ戻る」
「! まさか……」
「ああ。城へ緊急の便りが来た」
『?』
この家は王都よりほど近い、公爵領にある。
移動は魔法なのか何か知らんけどお父さまは毎日帰ってくるし、王都はさほど遠くないのは知っていた。
だが、領都は別で、そちらは今はお母さまの父親が隠居後も面倒を見ているという話は聞いていたが……。
この良くない雰囲気を見ると、領都で何かあったんだろうか?
遠出(?)とはいえども、同じ領内のため特に護衛などはいらないらしい。
さっと外出着に着替えさせられたセドリックとメイドとともにお父さまについていくと、程なくして離宮のような小さな建物にたどり着いた。
ちなみに敷地内である。
門番らしき人に声をかけ中に入ると、そこには床に描かれた魔法陣と、働いている使用人らしき人がちらほら見えた。
あ、これ俺知ってる奴だ。
あれだろ、移動用の転移魔法陣とかいうやつだ。
セドの勉強でもちらっと聞いた覚えがあるので、きっとお父さまはこれを使って王都に通っているのだろう。
当然ながら領都もこれで行くに違いない。
って俺ついていけるんかなこれ?
内心焦りながらセドにくっついて魔法陣を抜けると、そこは同じような部屋の中だった。
使用人らしき人にまた声をかけ室内を出ると、そこにあるのはさっきとは違う風景。
間近に見えるのは屋敷じゃなくて城である。でっか!
さすが領都、お屋敷じゃなくて城なんだな……距離はさほど遠くない位置にあるので、この転移魔法陣は身内用みたいなもんなんだろうか。
転移魔法陣の門番らしき人のところに執事とメイドが迎えに来ていたので、お父さまと一緒にその人についていく。
執事もメイドも暗い顔をしているので、良くないことが起こっているのは間違いないようだが……。
暗黙の了解なのか誰も説明してくれないので、セドリックが困ったようにお母さまにと手をつないで歩いている。
セドが知らない内容は俺も知らないので、何が起こっているのかさっぱりわからないのだ。
思ったより長い通路を抜け、たどり着いた先は奥まった部屋だった。
扉に装飾はないが、周りの様子から言ってたぶん領主の部屋……恐らくは寝室だろうか。
使用人に声をかけると、扉が開け放たれる。
そこにいたのは―――。
でっかい蛇だった。
いやちょっと待って!?
☆
声を出さなかったのが不思議なほどでっかい蛇がベッドに鎮座していて、俺は思わず腰が引けた。
いや転移魔法陣の時からセドリックにくっついたままだったからずるずると中に入っていったけどな!
空中に浮いている時にセドリックについていくのを意識していると、勝手に一定距離を保ったまま運ばれるのである。
ずぼらー的には移動をいちいち意識しなくていいので楽なのだが、今回はそれがあだとなった。
セドもお父さまも何事もなかったように入っていくけど、近づいてくる蛇でっかい。
まじ蛇でっかい!
なんでベッドに2mは超える蛇が寝てるんですかね怖いよ!
室内はなかなかに広い主寝室のようで、バスケットコート並みに広いへやにぽつんとベッドがあってそこに何人かいるのは見えるのだが、蛇のインパクトが強すぎて何も見えない。
しかもなんか蛇こっち見てませんかね。
赤黒いウロコの蛇なんだが、とぐろ巻いてででーんと鎮座してるし、目は真っ赤でちろちろと赤い舌が見え隠れしている。
どうみても食われそうです、本当にありがとうございます。
『うっひぃぃぃ……』
カタカタしながら俺より小さいセドリックに必死でまとわりつく俺。
だって怖いもん!
セドが動くたび首がこっちに向かってくるもん絶対喰われるってこれ!
「義母上、お加減はいかがですか?」
蛇があと数M、といったところでお父さまが止まる。
そして蛇に向かって言った言葉はこれである。
え、ははうえ?
ってあの蛇、お祖母さまなの?
「よく来たな……カリーヌ、パトリックとグレイスが来たぞ」
「……」
蛇に向かって声をかけ始めるダンディなお爺さん。
こっちはお母さまに似ているのできっと、お祖父さまに違いない。
これは顔見ればわかる。
問題は蛇である。
蛇がお祖母さまってどういうことやねん?
「……グレ……ス……」
か細い女性の声が、蛇の下から聞こえる。
ん?
よく見たら、蛇の下にもしかして人いる???
蛇がでかすぎて見えなかったというより、蛇がその人に巻きついていて状況が見えないというのが正しそう。
って、え??
いや、なんで蛇そのままにしてベッドにねてるん?
「義母上……!」
「お母さま!」
か細い声に呼応するように近づくお父さまとお母さま。
あ、危ない、と言おうと思ったが近づくお父さまには蛇は反応せず、お父さまは蛇の下にいるお祖母さまの手を握り締めたようだった。
お父さまの手に重ねられた手は驚くほど細く白い。
それは俺がこの世界に来た時に感じた、セドリックに感じた死期と同じようなもので―――。
ああそうか、と俺は唐突に理解した。
お祖母さまの死期が近いと、お父さまとお母さまが見舞いに来た状態なのだ、今は。
何故蛇が上に乗っているのかはさっぱりわからないが、周りの様子を見るに俺以外は蛇など見えていない。
泣きそうになっているメイドたちや、お母さまの様子を見るに命は風前の灯……といった状況なのだと思う。
そんな中、セドリックが動いた。
「おばーさま?」
「セドリック、おいで」
元々病弱で敷地内をほとんど出ていないセドリックは、俺が知る限りではお祖母さまに会うのは初めてだ。
だが父親の様子とお祖母さまの状態を見れば、死期が近いのは誰より死期が近かったセドリックにはわかるのだろう。
沈痛な面持ちで、セドリックがお父さまと蛇に近づいていく。
その、時。
『危ない!?』
蛇が、動いた。
お父さまには動かなかったのに、何故かセドリックには反応して動いたのだ。
セドリックが近づけば俺は自動的に動くので、蛇とセドの間に俺が挟まっていたのが幸いした。
とっさに突き出された口に、思いっきり抱きつくことができたのだ。
「え? ……ひ!?」
風がうごいたのか、セドリックが俺の方を見て悲鳴を上げる。
もしかして喰われるかもと思って必死に抱きつくが、この蛇思ったより口の動き強い!
ばったんばったんと放せと言わんばかりに首を振り回されるが、元々浮いているんで俺壁に当たっても抜けるだけなんだよね!
むしろ蛇触れたことにびっくりだけど、叩きつけられないなら別に痛くないしくっついてられるぜ!
「どうした? セドリック」
突然悲鳴を上げたセドリックに、お父さまが困惑した顔で呟く。
セドリックは必死でこちらを見ているので、何が見えてるんだろうと思った矢先。
「お、おとうさま、くろいの。黒いのがいます!」
「黒いの……?」
「暴れてる!」
どうやら俺は見えていないが、蛇がばったんばったんしているのは見えるらしい。
蛇って言葉が出てこないが、セドリックにはどう見えてるんだろう?
とりあえずそこに何かがいる、ってことが伝わればまぁいいと思うが。
「黒いのが、暴れている」
「守護者さまが止めてるんです! こっち見てる!」
「!」
お父さまが何かに気付いたのか、セドリックの手を掴んだ。
「セドリック、その黒いのはどのあたりだ!」
「お祖母さまより少し上……あっち!」
「わかった。セド、私と詠唱を合わせなさい。お前には少し早いかもしれないが、下級魔法が使えるならば発動するかもしれない。それが届けば……!」
蛇は動かせるのは首だけなのか、なんとかセドリックにまでは届かないようだ。
俺自身がセドリックにちょこちょこぶつかってる気はするが、元々何度か通り抜けてるからいつも通りだよね。
っていうか振り回されて目が回ってる気がする―早くなんとかしてー!
程なくしてお父さまとセドリックから眩しい光が放たれた。
詠唱は聞いていなかったが、セドリックの感覚が伝わってくるところを見ると浄化っぽい感じの光魔法っぽい?
お父さまの放った光は的がでかいのに何故か当たらなかったが、セドリックは見えているだけあって蛇に小さい光がぶち当たる。
そして当たった瞬間、蛇がめちゃくちゃひるむのが見えた。
っていうかめちゃくちゃ暴れられてポイ捨てされた。うえーい。
「! そこか! セドリックもう一度だ!」
「はい!」
あからさまに蛇の調子が弱まったせいで、黒いのはお父さまにも見えるようになったらしい。
っていうか蛇縮んだっぽい?
程なくして極太の光が蛇を貫き、ミミズくらいのサイズになったのでひとまず俺が捕まえることにした。
消滅しないなこれ?
ミミズサイズならさすがに怖くないので、ぴろーんとさせたまま肩で息をしているお父さまとセドを見る。
よこでポカーンとしていたお祖父さまであるが、突然の光魔法に我に返ったのか、お祖母さまの様子を慌てて見始めた。
「あなた……?」
「カリーヌ?」
あ、蛇に隠れてたお祖母さま見えました。
思ったより顔色も悪くないし、なんなら頬も少し赤くなってる……?
これ、セドの時と同じ感じじゃないか?
「義母上」
「パトリック、来てくれていたのね? ごめんなさい、少し意識がぼやけていて……」
「いえ、大丈夫です義母上。私は義母上が健在でいてくれればそれで良いのです」
「まぁ。あら、グレイスもセドリックも来てくれていたのね……大きくなったわね……」
和やかに会話は進むが、メイドさんとお祖父さまがたぶんおいて行かれているぞ。
意識を取り戻したお祖母さまの手前、聞きたいけれど聞けない……といったように口をつぐんでいるが。
あとお母さまは泣き通しで言葉すら出ていない。
涙を流す娘に困惑しつつも、お祖母さまはお母さまの手をゆっくりと撫でている。
その様子は、先ほど死にかけていたとは思えないくらいしっかりだ。
程なくして疲れた、と眠るお祖母さまを見て一息。
お祖父さまはこう、呟いた。
「あまり離れるのは得策ではないが……隣へ行こう」
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