魔法使いの同居人

たむら

文字の大きさ
上 下
28 / 52
この中に魔女がいる

11話

しおりを挟む
 鏡音とアリスは床に座ってモノポリーをしていた。

 どちらが勝っているかは一目瞭然だ。鏡音を称えるアリスと、自分の前に積まれた札束を凝視しながら首を傾げる鏡音。ゲームは違えど、その光景は昨日と変わりなかった。

 鏡音は胸に某スポーツブランドのロゴがあしらわれた、灰色のジャージ姿だ。彼がジャージ以外を着ているところは見たことがなかったが、同じジャージを着ているところも見たことがなかった。彼なりのこだわりがあるみたいだ。

 一方のアリスは昨日と同じ服装をしていた。彼女はいつも同じ上下黒一色の格好だ。

「また勝っちまったぜ。これまでのモノポリーでの戦績はどんなんだっけ?」
「兄様の三十八連勝ですね。さすがです」

 鏡音は両手を上げて伸びをすると、そのまま背中から床に寝そべった。

「それで何の用だ? 今日も人が死んだってことは、午前中にお前から聞いて知ってるぜ」

 寝たままの格好で鏡音が聞く。

「相談があるんだ」
「兄様に相談? 身の程をわきまえなさい」

 鏡音は毒づくアリスを片手で制する。

「聞くだけ聞くぜ」
「これ以上の殺人を止めてほしい」
「無理だな」

 即答だった。一考すらする気はないみたいだ。

「もう十分だ。これ以上犠牲者を出すことは俺の本位じゃない」
「だから無理だって。事前に俺の殺し方については説明しただろ。一度始まったら、もう止められない」

 鏡音の言う通り、俺はすべてを理解したうえで彼に殺しを依頼をした。自分の運命を変えるため、他人を踏みにじることを自らの意志で選んだのだ。だけど、短い間とはいえ交流を持った人たちが目の前で死んでいくことに、心が動かなかったはずがなかった。中途半端と蔑まれようとも、これ以上の犠牲はなんとしても喰い止めたい。それが俺の本心だった。

「どうしてもダメなのか?」
「どうしてもダメだな」
「金なら出す」
「そういう問題じゃない」

 鏡音が呆れ顔で言い捨てた。聞き分けのない依頼人にうんざりしているようだった。

「今さらどうしたんだ? お前が望んだことだろうが」
「次に殺されるのは、きっと楓夜子だ」
「だったら何だってんだよ」

 俺は答えることができなかった。自分でもどうしてそんなことを言ったのかがわからなかった。

 俺はただ黙って鏡音を見据える。

「勝手な真似はするなよ」

 鏡音は珍しく真剣な顔をしている。
 懇願でも忠告でもなく、脅迫だった。

「以前した助言を繰り返し言っておく」

 鏡音は口元に笑みを浮かべる。

「俺から五メートル以内にいる間は、お前の命は俺たちが保証する。だがそれ以上離れたら、俺はもう知らない」
「俺が死んだら、後払いになっている成功報酬は入らないぜ」
「そのときはただ働きってことになるな。よくあることだ、気にするな」

 しばし視線がぶつかった後、俺は逃げるように背中を向ける。それっきりなにも言ってこない鏡音と、初めから俺に対する興味を欠片も感じられないアリスを置いて俺は部屋を後にした。

 廊下に出た俺は一度立ち止まる。

「夜子が死んだからと言ってなんだというのだ」

 さっきからその質問が頭の中で繰り返している。別にどうってことはない。たとえお互い生きて島から出たとしても、二度と会うことはないだろう。それに魔女である彼女が死ねば、新たな犠牲者が生まれることがなくなる。それはいいことのはずだ。

 しかし俺は見てしまった。未来が楽しみだと無邪気に笑う夜子の顔を。こんな絶望的な状況でも面白そうに駆け回る姿を。

 彼女は俺と違い、光り輝く未来があるのだ。

 気づけば俺は階段を降りていた。勢いそのまま夜子の部屋へと向かう。

 ノックをすると相手が誰かも確認せずに扉が開いた。いくらなんでも不用心すぎるのではないかと心配になってしまう。数百年の生涯を送ると、人は警戒心が希薄になってしまうのだろうか。

 顔を覗かせた夜子は突然の訪問に驚いきの表情を浮かべた。しかしすぐにいたずらっぽい笑みを浮かべると「そろそろ来る頃だと思ってましたよ」とうそぶいた。

「犯人を止めたい。協力してもらえないか」

 夜子は斜め上に視線を上げて何かを思案した後、右手でピースサインを作った。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

極上の一夜で懐妊したらエリートパイロットの溺愛新婚生活がはじまりました

白妙スイ@書籍&電子書籍発刊!
恋愛
早瀬 果歩はごく普通のOL。 あるとき、元カレに酷く振られて、1人でハワイへ傷心旅行をすることに。 そこで逢見 翔というパイロットと知り合った。 翔は果歩に素敵な時間をくれて、やがて2人は一夜を過ごす。 しかし翌朝、翔は果歩の前から消えてしまって……。 ********** ●早瀬 果歩(はやせ かほ) 25歳、OL 元カレに酷く振られた傷心旅行先のハワイで、翔と運命的に出会う。 ●逢見 翔(おうみ しょう) 28歳、パイロット 世界を飛び回るエリートパイロット。 ハワイへのフライト後、果歩と出会い、一夜を過ごすがその後、消えてしまう。 翌朝いなくなってしまったことには、なにか理由があるようで……? ●航(わたる) 1歳半 果歩と翔の息子。飛行機が好き。 ※表記年齢は初登場です ********** webコンテンツ大賞【恋愛小説大賞】にエントリー中です! 完結しました!

悪役貴族の四男に転生した俺は、怠惰で自由な生活がしたいので、自由気ままな冒険者生活(スローライフ)を始めたかった。

SOU 5月17日10作同時連載開始❗❗
ファンタジー
俺は何もしてないのに兄達のせいで悪役貴族扱いされているんだが…… アーノルドは名門貴族クローリー家の四男に転生した。家の掲げる独立独行の家訓のため、剣技に魔術果ては鍛冶師の技術を身に着けた。 そして15歳となった現在。アーノルドは、魔剣士を育成する教育機関に入学するのだが、親戚や上の兄達のせいで悪役扱いをされ、付いた渾名は【悪役公子】。  実家ではやりたくもない【付与魔術】をやらされ、学園に通っていても心の無い言葉を投げかけられる日々に嫌気がさした俺は、自由を求めて冒険者になる事にした。  剣術ではなく刀を打ち刀を使う彼は、憧れの自由と、美味いメシとスローライフを求めて、時に戦い。時にメシを食らい、時に剣を打つ。  アーノルドの第二の人生が幕を開ける。しかし、同級生で仲の悪いメイザース家の娘ミナに学園での態度が演技だと知られてしまい。アーノルドの理想の生活は、ハチャメチャなものになって行く。

ヘリオポリスー九柱の神々ー

soltydog369
ミステリー
古代エジプト 名君オシリスが治めるその国は長らく平和な日々が続いていた——。 しかし「ある事件」によってその均衡は突如崩れた。 突如奪われた王の命。 取り残された兄弟は父の無念を晴らすべく熾烈な争いに身を投じていく。 それぞれの思いが交錯する中、2人が選ぶ未来とは——。 バトル×ミステリー 新感覚叙事詩、2人の復讐劇が幕を開ける。

わけありのイケメン捜査官は英国名家の御曹司、潜入先のロンドンで絶縁していた家族が事件に

川喜多アンヌ
ミステリー
あのイケメンが捜査官? 話せば長~いわけありで。 もしあなたの同僚が、潜入捜査官だったら? こんな人がいるんです。 ホークは十四歳で家出した。名門の家も学校も捨てた。以来ずっと偽名で生きている。だから他人に化ける演技は超一流。証券会社に潜入するのは問題ない……のはずだったんだけど――。 なりきり過ぎる捜査官の、どっちが本業かわからない潜入捜査。怒涛のような業務と客に振り回されて、任務を遂行できるのか? そんな中、家族を巻き込む事件に遭遇し……。 リアルなオフィスのあるあるに笑ってください。 主人公は4話目から登場します。表紙は自作です。 主な登場人物 ホーク……米国歳入庁(IRS)特別捜査官である主人公の暗号名。今回潜入中の名前はアラン・キャンベル。恋人の前ではデイヴィッド・コリンズ。 トニー・リナルディ……米国歳入庁の主任特別捜査官。ホークの上司。 メイリード・コリンズ……ワシントンでホークが同棲する恋人。 カルロ・バルディーニ……米国歳入庁捜査局ロンドン支部のリーダー。ホークのロンドンでの上司。 アダム・グリーンバーグ……LB証券でのホークの同僚。欧州株式営業部。 イーサン、ライアン、ルパート、ジョルジオ……同。 パメラ……同。営業アシスタント。 レイチェル・ハリー……同。審査部次長。 エディ・ミケルソン……同。株式部COO。 ハル・タキガワ……同。人事部スタッフ。東京支店のリストラでロンドンに転勤中。 ジェイミー・トールマン……LB証券でのホークの上司。株式営業本部長。 トマシュ・レコフ……ロマネスク海運の社長。ホークの客。 アンドレ・ブルラク……ロマネスク海運の財務担当者。 マリー・ラクロワ……トマシュ・レコフの愛人。ホークの客。 マーク・スチュアート……資産運用会社『セブンオークス』の社長。ホークの叔父。 グレン・スチュアート……マークの息子。

【完結済】頭に咲く白い花は幸せの象徴か

鹿嶋 雲丹
ミステリー
君の深い苦しみや悲しみは私が背負うから、君は休んでいいんだよ? さあ、どうする? 虫と幼なじみを賭けてゲームをする女子高生・エリカのお話と、虫と冷戦中の恋人を賭けてゲームをするOL・汐里の物語。 白鳥エリカと香川圭介は、同じ団地に住む幼なじみ。 年齢が同じ二人は、保育園から高校まで同じ場所に通っている。高校2年生の今は、クラスまで一緒だ。 大人しくて暗い雰囲気を漂わせていた圭介が、ある日を境に爽やか笑顔を振りまく明るい男子高校生になる。 だが、不自然なのはそれだけではなかった。圭介の頭には、エリカにしか見えない白い花が咲いていたのだ。 圭介はなぜ変わったのか、白い花はなぜエリカにしか見えないのか? 決められた期限内にゲームの勝利条件をクリアできなければ、圭介の、亮太の、それぞれの意思は完全になくなってしまう。 勝ちたい。勝って取り戻す、必ず。 奮闘する女子高生エリカと、その数年後のエリカの友人、OLの汐里の物語。

怪奇探偵・藤宮ひとねの怪奇譚

ナガカタサンゴウ
ミステリー
とあるマンホールの下に広がっていた地下図書館。そこの住人であるひとねは健斗に対して突拍子もない事をいいだした。 「私は死なないわ」 不死鳥に取り憑かれた少女が地下図書館の知識を持って挑む怪奇現象! 怪奇ライトミステリ、開幕! SC(第二部)あらすじ 藤宮ひとねの怪奇譚から少しばかり時は過ぎ、健斗は高校二年生となった。 どういうわけかひとねが後輩になり、舞台は高校に!? しかして続く怪奇探偵への依頼、新たに仲間を加えて事件を解決していくひとねの前に現れたのは…… 怪奇ライトミステリ、再度到来!

アルファポリスとカクヨムってどっちが稼げるの?

無責任
エッセイ・ノンフィクション
基本的にはアルファポリスとカクヨムで執筆活動をしています。 どっちが稼げるのだろう? いろんな方の想いがあるのかと・・・。 2021年4月からカクヨムで、2021年5月からアルファポリスで執筆を開始しました。 あくまで、僕の場合ですが、実データを元に・・・。

人狼ゲーム『Selfishly -エリカの礎-』

半沢柚々
ミステリー
「誰が……誰が人狼なんだよ!?」 「用心棒の人、頼む、今晩は俺を守ってくれ」 「違う! うちは村人だよ!!」  『汝は人狼なりや?』  ――――Are You a Werewolf?  ――――ゲームスタート 「あたしはね、商品だったのよ? この顔も、髪も、体も。……でもね、心は、売らない」 「…………人狼として、処刑する」  人気上昇の人狼ゲームをモチーフにしたデスゲーム。  全会話形式で進行します。  この作品は『村人』視点で読者様も一緒に推理できるような公正になっております。同時進行で『人狼』視点の物も書いているので、完結したら『暴露モード』と言う形で公開します。プロット的にはかなり違う物語になる予定です。 ▼この作品は【自サイト】、【小説家になろう】、【ハーメルン】、【comico】にて多重投稿されております。

処理中です...