56 / 69
見聞録
嘘つきさんは甘い蜜を吸っていたい ⑤
しおりを挟む
注文し提供された品々を、エリー・テネヴ・例の少女が大変満足しながら完食終えた後。
時刻は十六時、【ムーンダスト】はいつも通り営業準備中となった。十七時になれば、再び夜の営業に入る。
【ムーンダスト】の店内は、客がいなくなり、がらんとしていた。
店内に残っているのは、店員とエリーとテネヴ、そして件の少女だけである。
少女の目的であった、【ムーンダスト】の期間限定の菓子類。十六時少し前に、きちんと少女とエリーはそれらを買い終え、会計を済ませていた。
本来であれば、少女が【ムーンダスト】に残る理由はもうない。
けれども、少女が予想だにしなかった異例の事態により、そうもいかなくなってしまった。
初対面であるソランジュたちが、少女の守り通したかった嘘を既に見抜いていたこと。また、少女自身、偽っていることをソランジュたちに正直に認めてしまった。
少女にとってそれ以上に最悪だったのが、少女を邪魔に思っている連中の魔の手が迫っていたことである。
それらの事態を、少女が全く予測していなかったわけではない。少女とて、遅かれ早かれいずれはそうなると踏んでいた。
「魔瘴の消滅」。
そんな神業ができると、大勢の目を欺く。
それは、大芝居を打つようなもの。だから、そのリスクを背負う覚悟は、少女なりに持ってはいたのである。
ただ、少女の予想に反して、危機が迫るのが思いの外早かった。そのため、少女はエリーやソランジュたちに「偽物」呼ばわりされて、動揺を隠せなかったのだ。
少女は移動したテーブル席で、頭を悩ませている。
ソランジュもエリーもテネヴも、少女と同席していた。
ソランジュ以外の店員たちは、彼女たちをさして気にする様子もない。
コカトリスたちモンスター店員に至っては、思い思いの場所で賄いを食べて寛いでいた。
店主たちも似たようなもので、カウンター席で一息ついている。
そんな店員たちが聞き耳だけはそれとなく立てる姿勢でいることなど、自分のことで頭がいっぱいな少女が気づけるはずもない。
「これからどうするつもり? まだあんな馬鹿げたこと続ける気なの?」
右腕で頬杖をつきながら、ソランジュが呆れた口調で少女に問う。
少女は首をゆっくりと横に振るも、難しい顔をしていた。
「まさか。私だって・・・・・・いつかは終わりが来ることくらい、終わらせなきゃいけないことくらい、覚悟してた。こんな嘘ずっと隠し通せるわけないし、一生続けられるなんて夢を見てはいなかったわよ」
「でしょうね」
ソランジュだけでなく、エリーもテネヴも、少女の言葉に大きく頷く。
そして少女は、深い溜息をもらした。
「でも、今すぐやめるわけにはいかない。いえ、そんなことできないわ」
膝の上でこぶしを固く握りしめたまま、少女は真剣な口調で覚悟を示す。
少女のそんな様子は、彼女が訳ありだからこそあんな愚行をしていることを、ありありと物語っていた。
エリーとテネヴは、そんな少女をじっと無言で見つめている。
ソランジュといえば、何やら考え込んでいるようだった。
数分後に口を開いたのは、ソランジュである。
「確認したいことがあるんだけど、いいかしら?」
「・・・・・・どうぞ」
「あんな馬鹿げたこと、バレるまでやり抜こうなんて本当に思ってない?」
「思ってないわ」
ソランジュから目を逸らすことなく、少女ははっきりと即答する。
「そう。今すぐやめられない事情があるみたいだけど、いつか本気でやめる気はあったのね? いえ、あるのね?」
「そう言っているでしょ」
再確認するソランジュ。
少女は質問に対してくどいと示唆する気持ちと、今後の不安が募り、それらの感情がごちゃ混ぜになったのだろう。やや覇気に乏しい返事をした。
ソランジュは少女を見定めるように見ながら、にやりと笑う。
「あなた、次を最後に道化をきちんと演じ切って、そこそこきれいに退場しちゃわない?」
「へ?」
ソランジュの提案に、少女は間抜けな声を出した。
それを聞いた【ムーンダスト】の店主夫妻は、ふっとほほ笑みを浮かべる。
困惑する少女に、ソランジュはにんまりとした笑顔で話しかけた。
「それが最善だと思うわよ。嘘とはいえ、あなたたちが表立って魔瘴を消していくように見せかける行為を、これ以上良しとしない連中が動き出してる。あの国の奴らは、あなたの命を奪う気満々よ~。だったら、殺される前に、あなたの方で先に表舞台から消えてしまえばいい」
「つまり、次で逃げろと?」
「まあ、そうなるわね」
恐る恐るといった感じの少女の確認に、ソランジュはあっけらかんと肯定する。
少女はぎゅっと唇を結びながら、顔面が絶望の色に染まりつつあった。
「できるなら、私だってそうしたい・・・・・・。でも、無理よ。そんなの、不可能だわ」
「不可能じゃあないわよ。なんたって、こっちには各国の有力者たちの援助がついてるんだから」
「はあ?」
ソランジュの発言は、少女にとって絵空事に等しかった。
少女は訳が分からないと訴えんばかりに、素っ頓狂な声を上げる。
大きく目を見開き怪訝な顔をする少女を見て、ソランジュは体を震わせて笑っていた。
「あなた、ほんっとうにな~んにも知らずにここに来たのね」
「どういう、ことよ」
揶揄うソランジュに、少女はむっとなる。
「その答えは、私たちから説明した方が早いわね」
「ああ、そうだな」
そうして、カウンター席にいた【ムーンダスト】の店主夫妻が、ソランジュたちに近づいた。
突然会話に加わってきた二人を、少女はまじまじと見る。しばらくして、少女の顔はどんどん恐怖に染まっていった。
「初めまして。もうお気づきのように、私はエルネスティーヌよ」
「そして俺は彼女の夫のファブラスだ」
仲睦まじい夫婦は、少女ににっこりと笑顔を向ける。
かつて暗黒時代を終幕に導いた英雄五人のうちの二人と、夫妻の名前と容姿は同じだった。
少女は椅子を突き飛ばす勢いで立ち上がり、すぐさま二人の前で土下座する。
「す、すみませんでしたっ!」
あっというような謝罪だった。
のしかかる罪悪感と恐怖に苛まれ、少女はびくつき怯え切っている。額を床につけたまま、頭を上げようともしない。
それには、夫婦は申し訳なさそうな顔を見合わせていた。
「驚かすつもりはあったけど、そこまで怖がらせるつもりはなかったのよ。頭を上げてちょうだい、謝罪もいいから」
エルネスティーヌが優しく促すも、少女は頭を一向に上げない。
それには、夫妻はますます困ってしまう。
そんな様子を見かねて、エリーとテネヴ、コカトリス数匹が少女の傍らに来た。彼らは「大丈夫、怖がることはない」と少女に繰り返し語りかけ、やっとこさ少女の顔を上げさせることに成功する。
顔を上げた少女は、涙でぐちゃぐちゃの顔になっていた。見るも無残な少女の顔の変貌に、エリーとコカトリスからハンカチとティッシュが少女に手渡される。
その後、少女をなんとか元の椅子に座らせた。店主夫妻も、ソランジュたちと同席する。
「誠に、申し訳、ございませんでした・・・・・・」
消え入りそうな声で、少女は再び謝罪の言葉を口にした。
「そこまで謝らなくていいわ。私たちはあなたを怒ってもいないし、責めるつもりもないの」
「ああ」
夫妻は威圧的にならないよう、努めて気遣わし気に少女に本音を明かした。
しかしながら、少女がそれで完全に納得した様子は感じられない。
「ですが、皆様方は本物の偉業を成し遂げている方をご存じで、そのお方の援助をしていらっしゃるはずです。だからこそ、私のような偽物の存在は、やはり、到底許されないのではないでしょうか?」
涙声で少女が放った言葉に、今度はソランジュたちが面食らった。
すぐに、エルネスティーヌが静かに少女に問いかける。
「どうして、私たちが本物を知っていると思ったの?」
「・・・・・・まず、英雄の皆様方が、誰一人私に接触なさらなかったからです。皆様方が私に会いに来られないのはもちろんのこと、私たち側から謁見を申し込んでも、ご存知の通り断られました。それらに関し、皆様は一線を退いたがために、偽物である私に期待し全てを任せているなどと情報操作されています。そして、皆様は誰一人として、その流言を真っ向から否定せずにいらっしゃいます」
少女は鼻をすすりながら、自分の考えを述べ続けた。
「それで、私は気づいたのです。皆様方は、本物をご存じでいらっしゃる。私が偽物だと確信しているがゆえに、私に関わる気がないのだと。そしてなんらかの意図があり、私たちを見逃してくださっている。そうでなければ、皆様全員が高貴な身分といえど、誰一人として私に関わろうとしないのはいくらなんでもおかしすぎます」
「なるほどね」
「なるほどな」
ぐすぐすと鼻を鳴らし少女が言い終えると、エルネスティーヌとファブラスは小さく納得する。
少女は【ムーンダスト】の店員たちが思っていたより、浅はかな娘ではないようである。今までの少女の言動から、店員たちはその思いがより強まった。
少しの間静観していたソランジュは、何気なく少女に確認することにした。
「・・・・・・それ、あなたのお仲間も全員知ってるの?」
「さあ? 冗談でもそういう話をしてはいけない雰囲気だから、分からないわ。でも・・・・・・私だってそんな風な考えに至ったのだもの、気づいてる者もいるはずよ」
「そうよね・・・・・・。ちなみに、あなたのお仲間は、あなたが偽物だって全員知っているの?」
「半々、かしら? ホラッパって奴は確実に気づいてる上で、私を利用してるけど」
「ふうん、なるほどなるほど」
ソランジュは右人差し指でテーブルをトントンと叩きながら、何かの算段をつけているようだ。
計画を練り上げている様相のソランジュを見て、少女は未だぐずつきながら不安がよぎる。
「ねえ。さっき言ってたこと、本当に、本当にできるっていうの?」
「できる。絶対にね」
弱気な少女の問いかけに、ソランジュは語気を強めて返事をした。
少女の不安を払拭するかのごとく、ソランジュは勝気な笑みを浮かべて念押しする。
「言ったでしょ? こっちには各国の要人たちが味方についてるのよ。だから、ね。できるできないの問題じゃない。生き延びるために、あんたはやるしかないのよ」
時刻は十六時、【ムーンダスト】はいつも通り営業準備中となった。十七時になれば、再び夜の営業に入る。
【ムーンダスト】の店内は、客がいなくなり、がらんとしていた。
店内に残っているのは、店員とエリーとテネヴ、そして件の少女だけである。
少女の目的であった、【ムーンダスト】の期間限定の菓子類。十六時少し前に、きちんと少女とエリーはそれらを買い終え、会計を済ませていた。
本来であれば、少女が【ムーンダスト】に残る理由はもうない。
けれども、少女が予想だにしなかった異例の事態により、そうもいかなくなってしまった。
初対面であるソランジュたちが、少女の守り通したかった嘘を既に見抜いていたこと。また、少女自身、偽っていることをソランジュたちに正直に認めてしまった。
少女にとってそれ以上に最悪だったのが、少女を邪魔に思っている連中の魔の手が迫っていたことである。
それらの事態を、少女が全く予測していなかったわけではない。少女とて、遅かれ早かれいずれはそうなると踏んでいた。
「魔瘴の消滅」。
そんな神業ができると、大勢の目を欺く。
それは、大芝居を打つようなもの。だから、そのリスクを背負う覚悟は、少女なりに持ってはいたのである。
ただ、少女の予想に反して、危機が迫るのが思いの外早かった。そのため、少女はエリーやソランジュたちに「偽物」呼ばわりされて、動揺を隠せなかったのだ。
少女は移動したテーブル席で、頭を悩ませている。
ソランジュもエリーもテネヴも、少女と同席していた。
ソランジュ以外の店員たちは、彼女たちをさして気にする様子もない。
コカトリスたちモンスター店員に至っては、思い思いの場所で賄いを食べて寛いでいた。
店主たちも似たようなもので、カウンター席で一息ついている。
そんな店員たちが聞き耳だけはそれとなく立てる姿勢でいることなど、自分のことで頭がいっぱいな少女が気づけるはずもない。
「これからどうするつもり? まだあんな馬鹿げたこと続ける気なの?」
右腕で頬杖をつきながら、ソランジュが呆れた口調で少女に問う。
少女は首をゆっくりと横に振るも、難しい顔をしていた。
「まさか。私だって・・・・・・いつかは終わりが来ることくらい、終わらせなきゃいけないことくらい、覚悟してた。こんな嘘ずっと隠し通せるわけないし、一生続けられるなんて夢を見てはいなかったわよ」
「でしょうね」
ソランジュだけでなく、エリーもテネヴも、少女の言葉に大きく頷く。
そして少女は、深い溜息をもらした。
「でも、今すぐやめるわけにはいかない。いえ、そんなことできないわ」
膝の上でこぶしを固く握りしめたまま、少女は真剣な口調で覚悟を示す。
少女のそんな様子は、彼女が訳ありだからこそあんな愚行をしていることを、ありありと物語っていた。
エリーとテネヴは、そんな少女をじっと無言で見つめている。
ソランジュといえば、何やら考え込んでいるようだった。
数分後に口を開いたのは、ソランジュである。
「確認したいことがあるんだけど、いいかしら?」
「・・・・・・どうぞ」
「あんな馬鹿げたこと、バレるまでやり抜こうなんて本当に思ってない?」
「思ってないわ」
ソランジュから目を逸らすことなく、少女ははっきりと即答する。
「そう。今すぐやめられない事情があるみたいだけど、いつか本気でやめる気はあったのね? いえ、あるのね?」
「そう言っているでしょ」
再確認するソランジュ。
少女は質問に対してくどいと示唆する気持ちと、今後の不安が募り、それらの感情がごちゃ混ぜになったのだろう。やや覇気に乏しい返事をした。
ソランジュは少女を見定めるように見ながら、にやりと笑う。
「あなた、次を最後に道化をきちんと演じ切って、そこそこきれいに退場しちゃわない?」
「へ?」
ソランジュの提案に、少女は間抜けな声を出した。
それを聞いた【ムーンダスト】の店主夫妻は、ふっとほほ笑みを浮かべる。
困惑する少女に、ソランジュはにんまりとした笑顔で話しかけた。
「それが最善だと思うわよ。嘘とはいえ、あなたたちが表立って魔瘴を消していくように見せかける行為を、これ以上良しとしない連中が動き出してる。あの国の奴らは、あなたの命を奪う気満々よ~。だったら、殺される前に、あなたの方で先に表舞台から消えてしまえばいい」
「つまり、次で逃げろと?」
「まあ、そうなるわね」
恐る恐るといった感じの少女の確認に、ソランジュはあっけらかんと肯定する。
少女はぎゅっと唇を結びながら、顔面が絶望の色に染まりつつあった。
「できるなら、私だってそうしたい・・・・・・。でも、無理よ。そんなの、不可能だわ」
「不可能じゃあないわよ。なんたって、こっちには各国の有力者たちの援助がついてるんだから」
「はあ?」
ソランジュの発言は、少女にとって絵空事に等しかった。
少女は訳が分からないと訴えんばかりに、素っ頓狂な声を上げる。
大きく目を見開き怪訝な顔をする少女を見て、ソランジュは体を震わせて笑っていた。
「あなた、ほんっとうにな~んにも知らずにここに来たのね」
「どういう、ことよ」
揶揄うソランジュに、少女はむっとなる。
「その答えは、私たちから説明した方が早いわね」
「ああ、そうだな」
そうして、カウンター席にいた【ムーンダスト】の店主夫妻が、ソランジュたちに近づいた。
突然会話に加わってきた二人を、少女はまじまじと見る。しばらくして、少女の顔はどんどん恐怖に染まっていった。
「初めまして。もうお気づきのように、私はエルネスティーヌよ」
「そして俺は彼女の夫のファブラスだ」
仲睦まじい夫婦は、少女ににっこりと笑顔を向ける。
かつて暗黒時代を終幕に導いた英雄五人のうちの二人と、夫妻の名前と容姿は同じだった。
少女は椅子を突き飛ばす勢いで立ち上がり、すぐさま二人の前で土下座する。
「す、すみませんでしたっ!」
あっというような謝罪だった。
のしかかる罪悪感と恐怖に苛まれ、少女はびくつき怯え切っている。額を床につけたまま、頭を上げようともしない。
それには、夫婦は申し訳なさそうな顔を見合わせていた。
「驚かすつもりはあったけど、そこまで怖がらせるつもりはなかったのよ。頭を上げてちょうだい、謝罪もいいから」
エルネスティーヌが優しく促すも、少女は頭を一向に上げない。
それには、夫妻はますます困ってしまう。
そんな様子を見かねて、エリーとテネヴ、コカトリス数匹が少女の傍らに来た。彼らは「大丈夫、怖がることはない」と少女に繰り返し語りかけ、やっとこさ少女の顔を上げさせることに成功する。
顔を上げた少女は、涙でぐちゃぐちゃの顔になっていた。見るも無残な少女の顔の変貌に、エリーとコカトリスからハンカチとティッシュが少女に手渡される。
その後、少女をなんとか元の椅子に座らせた。店主夫妻も、ソランジュたちと同席する。
「誠に、申し訳、ございませんでした・・・・・・」
消え入りそうな声で、少女は再び謝罪の言葉を口にした。
「そこまで謝らなくていいわ。私たちはあなたを怒ってもいないし、責めるつもりもないの」
「ああ」
夫妻は威圧的にならないよう、努めて気遣わし気に少女に本音を明かした。
しかしながら、少女がそれで完全に納得した様子は感じられない。
「ですが、皆様方は本物の偉業を成し遂げている方をご存じで、そのお方の援助をしていらっしゃるはずです。だからこそ、私のような偽物の存在は、やはり、到底許されないのではないでしょうか?」
涙声で少女が放った言葉に、今度はソランジュたちが面食らった。
すぐに、エルネスティーヌが静かに少女に問いかける。
「どうして、私たちが本物を知っていると思ったの?」
「・・・・・・まず、英雄の皆様方が、誰一人私に接触なさらなかったからです。皆様方が私に会いに来られないのはもちろんのこと、私たち側から謁見を申し込んでも、ご存知の通り断られました。それらに関し、皆様は一線を退いたがために、偽物である私に期待し全てを任せているなどと情報操作されています。そして、皆様は誰一人として、その流言を真っ向から否定せずにいらっしゃいます」
少女は鼻をすすりながら、自分の考えを述べ続けた。
「それで、私は気づいたのです。皆様方は、本物をご存じでいらっしゃる。私が偽物だと確信しているがゆえに、私に関わる気がないのだと。そしてなんらかの意図があり、私たちを見逃してくださっている。そうでなければ、皆様全員が高貴な身分といえど、誰一人として私に関わろうとしないのはいくらなんでもおかしすぎます」
「なるほどね」
「なるほどな」
ぐすぐすと鼻を鳴らし少女が言い終えると、エルネスティーヌとファブラスは小さく納得する。
少女は【ムーンダスト】の店員たちが思っていたより、浅はかな娘ではないようである。今までの少女の言動から、店員たちはその思いがより強まった。
少しの間静観していたソランジュは、何気なく少女に確認することにした。
「・・・・・・それ、あなたのお仲間も全員知ってるの?」
「さあ? 冗談でもそういう話をしてはいけない雰囲気だから、分からないわ。でも・・・・・・私だってそんな風な考えに至ったのだもの、気づいてる者もいるはずよ」
「そうよね・・・・・・。ちなみに、あなたのお仲間は、あなたが偽物だって全員知っているの?」
「半々、かしら? ホラッパって奴は確実に気づいてる上で、私を利用してるけど」
「ふうん、なるほどなるほど」
ソランジュは右人差し指でテーブルをトントンと叩きながら、何かの算段をつけているようだ。
計画を練り上げている様相のソランジュを見て、少女は未だぐずつきながら不安がよぎる。
「ねえ。さっき言ってたこと、本当に、本当にできるっていうの?」
「できる。絶対にね」
弱気な少女の問いかけに、ソランジュは語気を強めて返事をした。
少女の不安を払拭するかのごとく、ソランジュは勝気な笑みを浮かべて念押しする。
「言ったでしょ? こっちには各国の要人たちが味方についてるのよ。だから、ね。できるできないの問題じゃない。生き延びるために、あんたはやるしかないのよ」
0
お気に入りに追加
413
あなたにおすすめの小説
僕の家族は母様と母様の子供の弟妹達と使い魔達だけだよ?
闇夜の現し人(ヤミヨノウツシビト)
ファンタジー
ー 母さんは、「絶世の美女」と呼ばれるほど美しく、国の中で最も権力の強い貴族と呼ばれる公爵様の寵姫だった。
しかし、それをよく思わない正妻やその親戚たちに毒を盛られてしまった。
幸い発熱だけですんだがお腹に子が出来てしまった以上ここにいては危険だと判断し、仲の良かった侍女数名に「ここを離れる」と言い残し公爵家を後にした。
お母さん大好きっ子な主人公は、毒を盛られるという失態をおかした父親や毒を盛った親戚たちを嫌悪するがお母さんが日々、「家族で暮らしたい」と話していたため、ある出来事をきっかけに一緒に暮らし始めた。
しかし、自分が家族だと認めた者がいれば初めて見た者は跪くと言われる程の華の顔(カンバセ)を綻ばせ笑うが、家族がいなければ心底どうでもいいというような表情をしていて、人形の方がまだ表情があると言われていた。
『無能で無価値の稚拙な愚父共が僕の家族を名乗る資格なんて無いんだよ?』
さぁ、ここに超絶チートを持つ自分が認めた家族以外の生き物全てを嫌う主人公の物語が始まる。
〈念の為〉
稚拙→ちせつ
愚父→ぐふ
⚠︎注意⚠︎
不定期更新です。作者の妄想をつぎ込んだ作品です。
王が気づいたのはあれから十年後
基本二度寝
恋愛
王太子は妃の肩を抱き、反対の手には息子の手を握る。
妃はまだ小さい娘を抱えて、夫に寄り添っていた。
仲睦まじいその王族家族の姿は、国民にも評判がよかった。
側室を取ることもなく、子に恵まれた王家。
王太子は妃を優しく見つめ、妃も王太子を愛しく見つめ返す。
王太子は今日、父から王の座を譲り受けた。
新たな国王の誕生だった。
美しい姉と痩せこけた妹
サイコちゃん
ファンタジー
若き公爵は虐待を受けた姉妹を引き取ることにした。やがて訪れたのは美しい姉と痩せこけた妹だった。姉が夢中でケーキを食べる中、妹はそれがケーキだと分からない。姉がドレスのプレゼントに喜ぶ中、妹はそれがドレスだと分からない。公爵はあまりに差のある姉妹に疑念を抱いた――
王太子の子を孕まされてました
杏仁豆腐
恋愛
遊び人の王太子に無理やり犯され『私の子を孕んでくれ』と言われ……。しかし王太子には既に婚約者が……侍女だった私がその後執拗な虐めを受けるので、仕返しをしたいと思っています。
※不定期更新予定です。一話完結型です。苛め、暴力表現、性描写の表現がありますのでR指定しました。宜しくお願い致します。ノリノリの場合は大量更新したいなと思っております。
初夜に「俺がお前を抱く事は無い!」と叫んだら長年の婚約者だった新妻に「気持ち悪い」と言われた上に父にも予想外の事を言われた男とその浮気女の話
ラララキヲ
恋愛
長年の婚約者を欺いて平民女と浮気していた侯爵家長男。3年後の白い結婚での離婚を浮気女に約束して、新妻の寝室へと向かう。
初夜に「俺がお前を抱く事は無い!」と愛する夫から宣言された無様な女を嘲笑う為だけに。
しかし寝室に居た妻は……
希望通りの白い結婚と愛人との未来輝く生活の筈が……全てを周りに知られていた上に自分の父親である侯爵家当主から言われた言葉は──
一人の女性を蹴落として掴んだ彼らの未来は……──
<【ざまぁ編】【イリーナ編】【コザック第二の人生編(ザマァ有)】となりました>
◇テンプレ浮気クソ男女。
◇軽い触れ合い表現があるのでR15に
◇ふんわり世界観。ゆるふわ設定。
◇ご都合展開。矛盾は察して下さい…
◇なろうにも上げてます。
※HOTランキング入り(1位)!?[恋愛::3位]ありがとうございます!恐縮です!期待に添えればよいのですがッ!!(;><)
【完結】義妹とやらが現れましたが認めません。〜断罪劇の次世代たち〜
福田 杜季
ファンタジー
侯爵令嬢のセシリアのもとに、ある日突然、義妹だという少女が現れた。
彼女はメリル。父親の友人であった彼女の父が不幸に見舞われ、親族に虐げられていたところを父が引き取ったらしい。
だがこの女、セシリアの父に欲しいものを買わせまくったり、人の婚約者に媚を打ったり、夜会で非常識な言動をくり返して顰蹙を買ったりと、どうしようもない。
「お義姉さま!」 . .
「姉などと呼ばないでください、メリルさん」
しかし、今はまだ辛抱のとき。
セシリアは来たるべき時へ向け、画策する。
──これは、20年前の断罪劇の続き。
喜劇がくり返されたとき、いま一度鉄槌は振り下ろされるのだ。
※ご指摘を受けて題名を変更しました。作者の見通しが甘くてご迷惑をおかけいたします。
旧題『義妹ができましたが大嫌いです。〜断罪劇の次世代たち〜』
※初投稿です。話に粗やご都合主義的な部分があるかもしれません。生あたたかい目で見守ってください。
※本編完結済みで、毎日1話ずつ投稿していきます。
愚かな父にサヨナラと《完結》
アーエル
ファンタジー
「フラン。お前の方が年上なのだから、妹のために我慢しなさい」
父の言葉は最後の一線を越えてしまった。
その言葉が、続く悲劇を招く結果となったけど・・・
悲劇の本当の始まりはもっと昔から。
言えることはただひとつ
私の幸せに貴方はいりません
✈他社にも同時公開
寵愛のいる旦那様との結婚生活が終わる。もし、次があるのなら緩やかに、優しい人と恋がしたい。
にのまえ
恋愛
リルガルド国。公爵令嬢リイーヤ・ロイアルは令嬢ながら、剣に明け暮れていた。
父に頼まれて参加をした王女のデビュタントの舞踏会で、伯爵家コール・デトロイトと知り合い恋に落ちる。
恋に浮かれて、剣を捨た。
コールと結婚をして初夜を迎えた。
リイーヤはナイトドレスを身に付け、鼓動を高鳴らせて旦那様を待っていた。しかし寝室に訪れた旦那から出た言葉は「私は君を抱くことはない」「私には心から愛する人がいる」だった。
ショックを受けて、旦那には愛してもられないと知る。しかし離縁したくてもリルガルド国では離縁は許されない。しかしリイーヤは二年待ち子供がいなければ離縁できると知る。
結婚二周年の食事の席で、旦那は義理両親にリイーヤに子供ができたと言い出した。それに反論して自分は生娘だと医師の診断書を見せる。
混乱した食堂を後にして、リイーヤは馬に乗り伯爵家から出て行き国境を越え違う国へと向かう。
もし、次があるのなら優しい人と恋がしたいと……
お読みいただき、ありがとうございます。
エブリスタで四月に『完結』した話に差し替えいたいと思っております。内容はさほど、変わっておりません。
それにあたり、栞を挟んでいただいている方、すみません。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる