上 下
49 / 69
見聞録

観光できる地下世界 ⑧

しおりを挟む
 エヴラールたちと別れてから、リースたちはマーキスたちの掘った穴の中に進んだ。その途中、一行はマーキスたちが掘っていない穴の中を突き進む。
 その穴は、短時間でエリチョク・妖精たちのタッグで急遽掘られた道だ。リースの身長に合わせ、その穴は作られている。
 エリチョクたちの案内で、リースは黙々と地下世界の奥へと誘われた。

「絵に描いたような世界だ」

 途中のぽっかりと開けた小さな空間では、暗闇の中で虫やきのこが淡く光っていた。発光する虫の光は、蛍のそれに近しい。きのこ類は、黄色の粒子をまき散らしたり、蛍光色の光を点滅したりする。
 中々お目にかかれない光景に、リースはつい日本語で感嘆してしまった次第である。
 観光地でも、幻想的な苔むした場所にある湧き水や、ガラス細工のような花が咲き誇る場所もあった。自然にできた面白い形の柱では、みな思い思いにどんな形に見えるかで楽しみもした。

「地面って、想像以上に不思議な光景が広がってるんだな」

 リースの小さな独り言は、すぐに穴の中で消えていく。


 * * *


 それから、一行は更に奥へと進み、大きく開けた空間へと出た。
 真っ暗闇の中を、リースの周囲に浮遊する魔道具の人工の明かりが薄暗く照らす。それでも、リースには空間中央に鎮座するものが、十分把握できた。

 エヴラールとリースは、観光地であるここ付近にこれ・・が隠されているという噂を聞きつけ、わざわざやって来たのだ。
 観光地を巡っても見つけられなかったものを、リースはようやく発見した。

 エリチョク・妖精たちは、中央に位置するそれの気を嫌がり、決して近づこうとしない。
 リースだけが単身で、迷いなくそれ・・に近づいた。

 リースの薄葡萄色の瞳が映し出すは、暗闇の中ですら異質な黒を纏う、大きな石のようなものだった。高さはリース三人分ほどだろうか。横幅も、リースが手を広げるより少しある。
 間近になればなるほど、禍々しさを感じる物体だ。
 これこそ、暗黒時代と呼ばれた先の時代の負の遺産であった。「魔瘴」と称される、この世界にかつて多大なる悪影響を及ぼした代物である。
 それが、悪影響を外に生じさせないよう、このような形で封印されていた。そうするしか、魔瘴の悪影響を食い止める手段はなかったのである。

 近づくことすら躊躇われるそれに、リースはまさかの行動に出た。その魔瘴を封じた結界に、直接手を触れたのである。
 間もなく、リースが触れている部分から、その封印結界は淡い黄色の光を作り始めた。やがて全体が発光し、輝きを帯びる。ときどき、蛍の光に似た粒子が舞った。

 数分後、魔瘴の封印結界は、跡形もなく消えていた。
 大きく開けた空間には、もはや何もない。

 自身の果たすべきことを終えたリースは、栄養ドリンクのような小瓶をぐいと煽っていた。飲み終わり、ぷはあと満足そうにしている。まるで、湯上がりで牛乳瓶を飲み干したかのようだ。

「任務完了」

 満足そうに笑みを湛えるリースに、彼女に手を貸したエリチョク・妖精たちも喜色満面である。


 * * *


 リースたちは、そのまままっすぐ同じ道を辿って元の場所に戻らなかった。
 途中、エリチョクたちがリースを違う道に案内したからである。行き止まりに思えたその道で、エリチョクたちはそこら辺の石をリースに持ってきて見せた。
 リースは首を傾げながら、エリチョクたちがそれぞれ頭の上に掲げるその石をじっと見つめる。そして、その石の中に、リースは思いがけないものが含まれていることを知った。

「なるほど。確かにこれは、見つけてからのお楽しみ、ですね」

 リースは日本語で語りながら、マーキスの言葉を思い出し笑顔になる。
 
「みんな、本当にいろいろとありがとうございます。おかげで、いい言い訳報告ができます」

 リースの感謝に、エリチョクたちは素直に嬉しそうだった。
 そうして、リースたちはそれら鉱石を持ち帰り、エヴラールたちが待つ場所へ戻ったのである。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

僕の家族は母様と母様の子供の弟妹達と使い魔達だけだよ?

闇夜の現し人(ヤミヨノウツシビト)
ファンタジー
ー 母さんは、「絶世の美女」と呼ばれるほど美しく、国の中で最も権力の強い貴族と呼ばれる公爵様の寵姫だった。 しかし、それをよく思わない正妻やその親戚たちに毒を盛られてしまった。 幸い発熱だけですんだがお腹に子が出来てしまった以上ここにいては危険だと判断し、仲の良かった侍女数名に「ここを離れる」と言い残し公爵家を後にした。 お母さん大好きっ子な主人公は、毒を盛られるという失態をおかした父親や毒を盛った親戚たちを嫌悪するがお母さんが日々、「家族で暮らしたい」と話していたため、ある出来事をきっかけに一緒に暮らし始めた。 しかし、自分が家族だと認めた者がいれば初めて見た者は跪くと言われる程の華の顔(カンバセ)を綻ばせ笑うが、家族がいなければ心底どうでもいいというような表情をしていて、人形の方がまだ表情があると言われていた。 『無能で無価値の稚拙な愚父共が僕の家族を名乗る資格なんて無いんだよ?』 さぁ、ここに超絶チートを持つ自分が認めた家族以外の生き物全てを嫌う主人公の物語が始まる。 〈念の為〉 稚拙→ちせつ 愚父→ぐふ ⚠︎注意⚠︎ 不定期更新です。作者の妄想をつぎ込んだ作品です。

王が気づいたのはあれから十年後

基本二度寝
恋愛
王太子は妃の肩を抱き、反対の手には息子の手を握る。 妃はまだ小さい娘を抱えて、夫に寄り添っていた。 仲睦まじいその王族家族の姿は、国民にも評判がよかった。 側室を取ることもなく、子に恵まれた王家。 王太子は妃を優しく見つめ、妃も王太子を愛しく見つめ返す。 王太子は今日、父から王の座を譲り受けた。 新たな国王の誕生だった。

(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」

音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。 本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。 しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。 *6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。

王太子の子を孕まされてました

杏仁豆腐
恋愛
遊び人の王太子に無理やり犯され『私の子を孕んでくれ』と言われ……。しかし王太子には既に婚約者が……侍女だった私がその後執拗な虐めを受けるので、仕返しをしたいと思っています。 ※不定期更新予定です。一話完結型です。苛め、暴力表現、性描写の表現がありますのでR指定しました。宜しくお願い致します。ノリノリの場合は大量更新したいなと思っております。

初夜に「俺がお前を抱く事は無い!」と叫んだら長年の婚約者だった新妻に「気持ち悪い」と言われた上に父にも予想外の事を言われた男とその浮気女の話

ラララキヲ
恋愛
 長年の婚約者を欺いて平民女と浮気していた侯爵家長男。3年後の白い結婚での離婚を浮気女に約束して、新妻の寝室へと向かう。  初夜に「俺がお前を抱く事は無い!」と愛する夫から宣言された無様な女を嘲笑う為だけに。  しかし寝室に居た妻は……  希望通りの白い結婚と愛人との未来輝く生活の筈が……全てを周りに知られていた上に自分の父親である侯爵家当主から言われた言葉は──  一人の女性を蹴落として掴んだ彼らの未来は……── <【ざまぁ編】【イリーナ編】【コザック第二の人生編(ザマァ有)】となりました> ◇テンプレ浮気クソ男女。 ◇軽い触れ合い表現があるのでR15に ◇ふんわり世界観。ゆるふわ設定。 ◇ご都合展開。矛盾は察して下さい… ◇なろうにも上げてます。 ※HOTランキング入り(1位)!?[恋愛::3位]ありがとうございます!恐縮です!期待に添えればよいのですがッ!!(;><)

【完結】義妹とやらが現れましたが認めません。〜断罪劇の次世代たち〜

福田 杜季
ファンタジー
侯爵令嬢のセシリアのもとに、ある日突然、義妹だという少女が現れた。 彼女はメリル。父親の友人であった彼女の父が不幸に見舞われ、親族に虐げられていたところを父が引き取ったらしい。 だがこの女、セシリアの父に欲しいものを買わせまくったり、人の婚約者に媚を打ったり、夜会で非常識な言動をくり返して顰蹙を買ったりと、どうしようもない。 「お義姉さま!」           . . 「姉などと呼ばないでください、メリルさん」 しかし、今はまだ辛抱のとき。 セシリアは来たるべき時へ向け、画策する。 ──これは、20年前の断罪劇の続き。 喜劇がくり返されたとき、いま一度鉄槌は振り下ろされるのだ。 ※ご指摘を受けて題名を変更しました。作者の見通しが甘くてご迷惑をおかけいたします。 旧題『義妹ができましたが大嫌いです。〜断罪劇の次世代たち〜』 ※初投稿です。話に粗やご都合主義的な部分があるかもしれません。生あたたかい目で見守ってください。 ※本編完結済みで、毎日1話ずつ投稿していきます。

愚かな父にサヨナラと《完結》

アーエル
ファンタジー
「フラン。お前の方が年上なのだから、妹のために我慢しなさい」 父の言葉は最後の一線を越えてしまった。 その言葉が、続く悲劇を招く結果となったけど・・・ 悲劇の本当の始まりはもっと昔から。 言えることはただひとつ 私の幸せに貴方はいりません ✈他社にも同時公開

寵愛のいる旦那様との結婚生活が終わる。もし、次があるのなら緩やかに、優しい人と恋がしたい。

にのまえ
恋愛
リルガルド国。公爵令嬢リイーヤ・ロイアルは令嬢ながら、剣に明け暮れていた。 父に頼まれて参加をした王女のデビュタントの舞踏会で、伯爵家コール・デトロイトと知り合い恋に落ちる。 恋に浮かれて、剣を捨た。 コールと結婚をして初夜を迎えた。 リイーヤはナイトドレスを身に付け、鼓動を高鳴らせて旦那様を待っていた。しかし寝室に訪れた旦那から出た言葉は「私は君を抱くことはない」「私には心から愛する人がいる」だった。 ショックを受けて、旦那には愛してもられないと知る。しかし離縁したくてもリルガルド国では離縁は許されない。しかしリイーヤは二年待ち子供がいなければ離縁できると知る。 結婚二周年の食事の席で、旦那は義理両親にリイーヤに子供ができたと言い出した。それに反論して自分は生娘だと医師の診断書を見せる。 混乱した食堂を後にして、リイーヤは馬に乗り伯爵家から出て行き国境を越え違う国へと向かう。 もし、次があるのなら優しい人と恋がしたいと…… お読みいただき、ありがとうございます。 エブリスタで四月に『完結』した話に差し替えいたいと思っております。内容はさほど、変わっておりません。 それにあたり、栞を挟んでいただいている方、すみません。

処理中です...