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見聞録
魔力制限がある国 ③
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ア=ラウジ国首都の大通りを突っ切り、一行が東に向かっていれば、店のジャンルもガラッと変わっていく。
雑貨屋や洋服屋を売るエリアから、一気に食べ物屋や飲食店が多くなってきた。周囲には、食欲をそそるいい香りが漂ってくる。
リースに付かず離れずで行動するモンスター二匹は、いきなり飛び跳ねて一目散にどこかへ向かう。
それに対して、リースはイーグル・イザベル夫妻に断りを入れてから、すぐに二匹を追いかけた。
二匹が向かった先は、乾物屋に近い店である。店には乾き物が陳列され、売られていた。商品の中には、きのこ類もあり、干しきのこだけでなく、生のきのこも売られている。
どうやら二匹のお目当ては、それらきのこ類らしかった。
モンスターが店内に入るのを良しとしてくれる店らしく、店主の老女は
「中に入って好きに選びな」
店の奥で椅子に座り、二匹に声をかけてきた。
その対応から、店主がモンスターにも理解のある御仁であることが、二匹やリースには理解できた。二匹はそれ幸いと、遠慮なく陳列されたきのこ類を選別する。
リースはわいわいとはしゃぐ二匹を見守りつつ、自身も店内を物色した。
茶色やいぶし銀と例えられる、渋いラインナップの商品が並んでいるが、どれも質はいい。
「あんたら、どこから来たんだい?」
「ルミエル国です」
「ほう。物好きさね、そんな遠くからわざわざ足を運ぶなんて」
店主の意見に、リースは困ったように笑い返す。
そんな中、二匹は購入する品を決めたようで、編み籠いっぱいにきのこを入れて、店主の元に向かった。
リースは会計に至るまでの経過を眺めていると、二匹の選んだ商品の中に小さくて細長い植物のようなものが入っているのに気づく。オタネニンジンのようなそれに、なんだろうかとリースは首を傾げた。
「あの、こちらは一体なんですか?」
探求心が高まり、リースはとうとう店主にその正体を訊ねた。
店主だけでなく、振り返った二匹も、ふふっと意味ありげな笑みをリースに浮かべる。
「簡単に言えば、きのこが虫に寄生したものさ」
「えっ!?」
店主の説明に、リースは素直に頬をひくりと引きつらせた。
直後、店主と二匹は打ち合わせでもしたように、ほぼ同時に笑い声を弾かせる。
「そう敬遠しなさるな。見た目や構造はともかく、滋養強壮剤や薬にも用いられて中々貴重なんだよ」
「そ、そうなんですね」
こちらの世界の冬虫夏草の有効性を語る店主に、二匹は頷き、リースは恐々と相槌を打つ。
会計が済み、踵を返してイーグル・イザベル夫妻の元に戻ろうとするリースたちに、店主が声をかけた。
「そんなにきのこ好きなマイコニドなら、ラウジ湖奥の山に連れて行くといい。あすこは国民が近づきたがらなくなった場所だが、元々はきのこ狩りできるいい場所だった」
店主のくれた情報に、マイコニドと呼ばれる種類のモンスター二匹は、喜びと感謝の鳴き声をあげる。
一方、リースは二匹の浮かれようとは対照的に、冷静な顔つきになる。
「あの、先ほどの話ですと、国民の皆様はあまりよい印象を抱かなくなった場所なんですよね? そうなるに至る理由は、なんだったのですか?」
「・・・・・・行けば分かるよ」
リースの問いに、店主は試すような瞳を向けた。
問いの答えと場の雰囲気で、リースはこれ以上追究しても無駄だと結論を出す。
「分かりました。では、もう一点ご質問してもかまいませんか?」
「いいよ」
「ありがとうございます。お聞きしたいことは、その場所に私たちが行っても、大問題にはならないか、ということです」
無知は罪。世の中には、知らぬが仏の心持ちではいけないことも多い。
その背景もあって、他国民であり、この世界のことにまだまだ疎い若輩者のリースは、あとで痛い目に遭遇したくない思いが働いていた。迂闊な行動をして、奇異の目を向けられて差別されたり、糾弾されたりするのは実に嫌だと捉えている。それで周囲に迷惑をかけるのも、避けたい。
だからこそ、リースは異文化交流と理解に努める姿勢を見せていた。
「そういった心配は要らないよ。言ったろう? 本来は気軽にきのこ狩りに行くような場所だったと。だから、誰に許可を得ることなく、勝手に入ってきのこをとってもかまりゃしない」
リースの抱いていた良からぬ邪推を霧散するように、店主はさっぱりとした口調だ。
店主が嘘をついているようには見えず、リースは安心してほほ笑むことが叶う。
「そうですか。分かりました。機会がありましたら、そちらに伺おうと思います」
「ああ、是非ともそうしておくれ」
それから、マイコニド二匹の要望もあり、そのきのこ狩りの場所の詳しい位置を店主から教えてもらう。
互いに最後は、にこやかに別れを告げた。
「シメジ、アンズ」
イーグル・イザベル夫妻に合流しようと歩みを進める中、リースは前を歩くマイコニド二匹を呼びとめる。名前を呼ばれて、星型を持つシメジと、水玉模様を持つアンズは、くるりと振り向いた。
「さっきのきのこ、本当に食べるの?」
顔に困惑が浮かび、訝し気な眼差しを送るリースに、シメジとアンズは「キュイ」とイエスの鳴き声。
「そう・・・・・・」
嬉しそうな様子の二匹に、リースはそれ以上先ほどの冬虫夏草を考えることを止めた。
雑貨屋や洋服屋を売るエリアから、一気に食べ物屋や飲食店が多くなってきた。周囲には、食欲をそそるいい香りが漂ってくる。
リースに付かず離れずで行動するモンスター二匹は、いきなり飛び跳ねて一目散にどこかへ向かう。
それに対して、リースはイーグル・イザベル夫妻に断りを入れてから、すぐに二匹を追いかけた。
二匹が向かった先は、乾物屋に近い店である。店には乾き物が陳列され、売られていた。商品の中には、きのこ類もあり、干しきのこだけでなく、生のきのこも売られている。
どうやら二匹のお目当ては、それらきのこ類らしかった。
モンスターが店内に入るのを良しとしてくれる店らしく、店主の老女は
「中に入って好きに選びな」
店の奥で椅子に座り、二匹に声をかけてきた。
その対応から、店主がモンスターにも理解のある御仁であることが、二匹やリースには理解できた。二匹はそれ幸いと、遠慮なく陳列されたきのこ類を選別する。
リースはわいわいとはしゃぐ二匹を見守りつつ、自身も店内を物色した。
茶色やいぶし銀と例えられる、渋いラインナップの商品が並んでいるが、どれも質はいい。
「あんたら、どこから来たんだい?」
「ルミエル国です」
「ほう。物好きさね、そんな遠くからわざわざ足を運ぶなんて」
店主の意見に、リースは困ったように笑い返す。
そんな中、二匹は購入する品を決めたようで、編み籠いっぱいにきのこを入れて、店主の元に向かった。
リースは会計に至るまでの経過を眺めていると、二匹の選んだ商品の中に小さくて細長い植物のようなものが入っているのに気づく。オタネニンジンのようなそれに、なんだろうかとリースは首を傾げた。
「あの、こちらは一体なんですか?」
探求心が高まり、リースはとうとう店主にその正体を訊ねた。
店主だけでなく、振り返った二匹も、ふふっと意味ありげな笑みをリースに浮かべる。
「簡単に言えば、きのこが虫に寄生したものさ」
「えっ!?」
店主の説明に、リースは素直に頬をひくりと引きつらせた。
直後、店主と二匹は打ち合わせでもしたように、ほぼ同時に笑い声を弾かせる。
「そう敬遠しなさるな。見た目や構造はともかく、滋養強壮剤や薬にも用いられて中々貴重なんだよ」
「そ、そうなんですね」
こちらの世界の冬虫夏草の有効性を語る店主に、二匹は頷き、リースは恐々と相槌を打つ。
会計が済み、踵を返してイーグル・イザベル夫妻の元に戻ろうとするリースたちに、店主が声をかけた。
「そんなにきのこ好きなマイコニドなら、ラウジ湖奥の山に連れて行くといい。あすこは国民が近づきたがらなくなった場所だが、元々はきのこ狩りできるいい場所だった」
店主のくれた情報に、マイコニドと呼ばれる種類のモンスター二匹は、喜びと感謝の鳴き声をあげる。
一方、リースは二匹の浮かれようとは対照的に、冷静な顔つきになる。
「あの、先ほどの話ですと、国民の皆様はあまりよい印象を抱かなくなった場所なんですよね? そうなるに至る理由は、なんだったのですか?」
「・・・・・・行けば分かるよ」
リースの問いに、店主は試すような瞳を向けた。
問いの答えと場の雰囲気で、リースはこれ以上追究しても無駄だと結論を出す。
「分かりました。では、もう一点ご質問してもかまいませんか?」
「いいよ」
「ありがとうございます。お聞きしたいことは、その場所に私たちが行っても、大問題にはならないか、ということです」
無知は罪。世の中には、知らぬが仏の心持ちではいけないことも多い。
その背景もあって、他国民であり、この世界のことにまだまだ疎い若輩者のリースは、あとで痛い目に遭遇したくない思いが働いていた。迂闊な行動をして、奇異の目を向けられて差別されたり、糾弾されたりするのは実に嫌だと捉えている。それで周囲に迷惑をかけるのも、避けたい。
だからこそ、リースは異文化交流と理解に努める姿勢を見せていた。
「そういった心配は要らないよ。言ったろう? 本来は気軽にきのこ狩りに行くような場所だったと。だから、誰に許可を得ることなく、勝手に入ってきのこをとってもかまりゃしない」
リースの抱いていた良からぬ邪推を霧散するように、店主はさっぱりとした口調だ。
店主が嘘をついているようには見えず、リースは安心してほほ笑むことが叶う。
「そうですか。分かりました。機会がありましたら、そちらに伺おうと思います」
「ああ、是非ともそうしておくれ」
それから、マイコニド二匹の要望もあり、そのきのこ狩りの場所の詳しい位置を店主から教えてもらう。
互いに最後は、にこやかに別れを告げた。
「シメジ、アンズ」
イーグル・イザベル夫妻に合流しようと歩みを進める中、リースは前を歩くマイコニド二匹を呼びとめる。名前を呼ばれて、星型を持つシメジと、水玉模様を持つアンズは、くるりと振り向いた。
「さっきのきのこ、本当に食べるの?」
顔に困惑が浮かび、訝し気な眼差しを送るリースに、シメジとアンズは「キュイ」とイエスの鳴き声。
「そう・・・・・・」
嬉しそうな様子の二匹に、リースはそれ以上先ほどの冬虫夏草を考えることを止めた。
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