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見聞録
キュウテオ国編 ~特別な猫の尻尾⑪~
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夕方、雨がひとしきり降って満足した直後、リアトリスとオスカーは図書館から足早に滞在先まで戻ってきた。ぬかるんだ坂に足を取られないように、泥はねしないようにしながらの帰り道は、中々に苦労したが達成感も生じた。
泥を落として身ぎれいにしてから建物に入ろうとする前、近くでオスカーではないモンスターたちの鳴き声が耳に入る。
彼らの右、建物の東側の森へと続く方向を見れば、この国に住まう野生のモンスターたちが数匹木陰から顔を覗かせている。
リアトリスとオスカーは互いに顔を見合わせ、彼らに近づいて行った。
近づくも、モンスターたちは逃げるでも襲いかかるでもなく、その場にじっとしている。非常に落ち着いた様子だ。敵意も恐怖も互いに感じない。
彼らを呼び寄せたのは、二足歩行できる亀っぽいモンスターのタフティ・飛べないが泳げる鴨に似たモンスターのキャナフ・サワガニっぽいモンスターのダハニであった。水がきれいそうな場所を好むモンスターばかりである。
みな中型犬ほどの大きさで、いずれもぬいぐるみ感否めない外見をしていた。
オスカーと彼らが会話をしばし交えた後、三匹はくるくるとリアトリスの周囲を歩く。彼女は慣れた様子でじっと突っ立っていた。
三匹が回るのを止めると、オスカーと三匹はまた話し出す。リアトリスは彼らの言葉が分からないが、その光景を大人しく見守っていた。
『ちょっと散策してくる。夕飯には戻るから、部屋で待ってて』
オスカーは例の如く手記でリアトリスにそう教えた。
「一緒に行かなくていいの?」
リアトリスが問えば、オスカーだけでなく三匹も首を縦に振る。まるで、彼女はついて行かずに待っていろと諭すように。
リアトリスはモンスターにも事情があるのだろうと、それに従ってその場から彼らを見送った。また、オスカーの目的も勘づいているからこそ、彼らに従わざるを得ない。彼女の心配そうな眼差しに彼らが映らなくなると、リアトリスはくるり踵を返す。
「わっ!」
リアトリスは小さな悲鳴を上げる。
彼女の背後には、大きな猫がいたからだ。気配など微塵も感じられず、振り向いてそこにいたので、彼女は驚いてしまったのである。
彼女の驚きの声に逃げ出しそうなものだが、その猫は逃げ出すことなくその場に留まっていた。
体長はリアトリスとさほど変わらないんじゃないかと思われる大きな猫は、上半身部分はこげ茶で、下半身部分は白色の面積が多い。顔は精悍なハンサムだ。
「失礼。お嬢さん。まさかここまで驚いてくれるとは思わなくてね。年寄りの悪戯心と思って許してくれ」
「・・・・・・はあ」
猫の口が言葉を紡ぐ。リアトリスはびっくりした波が引かず、間抜けな返事しかできなかった。
声色からして、男性だろう。話しているのが世界共通語であることから、混乱気味なリアトリスですら、彼が獣人族もしくは獣人族の血が入った混血なのだと推測する。
「ここで何をしていたんだい?」
「えっと、この奥に住まうらしい野生のモンスターたちと軽く交流していました」
下手に誤魔化しても面倒になりそうな気がすると予感し、リアトリスはありのままを伝えた。
彼は納得したように、静かに頷く。
「それで、私に何か用でしょうか?」
「いや。特に重大な用はなかったのだが、こんな所で一体何をしているのか気になって近づいただけだよ」
「そうでしたか」
彼は清々しいほど闊達に笑って述べる。
それで驚かされる結果になったのかと思うと、なんとも心臓に悪い話だと、リアトリスは少しうんざりした心持ちとなった。
「では、もう用事がないようでしたら、お暇してもよろしいでしょうか?」
リアトリスはがくりとうなだれるような胸中で、目の前の彼に確認を取る。明日の「継承試練の儀」に関して書物を読み漁り頭を使い、昼間はミネットに妙な勘繰りをされ、彼女は心身ともに疲れていた。しばし一人になって休みたい思いが、彼女の中で強く募る。
「寂しい老人の話し相手になってはくれはしないかい? 私はそこの建物に住んでいるのだが、おいしい茶と菓子を出してもらえるよ」
そんな事情など知る由もない彼は、リアトリスを一人にする気はないようだ。じっと黒光りする瞳が、リアトリスの答えを待っている。
「私で宜しければ、喜んで」
「それは良かった。さあ、行こう」
国長の住まう建物に住む御仁の誘いを、リアトリスは断われようもない。義兄の仕事相手の可能性だってある。遠慮がちにほほ笑んで、彼女には誘いに応じる以外の選択肢はなかった。
彼は猫らしい柔らかな体をくねらせて、建物へとゆっくりと歩く。ピンと垂直に立った彼の尻尾を見ながら、リアトリスも彼の歩調に合わせて後を追った。
* * *
彼に案内されて到着した場所は、建物西側にある庭だった。
芝生の間に大きな平たい石で作られた道があり、猫姿の彼とリアトリスはそこに沿って進む。
野良らしい猫たちが庭に入り込んでいて、まだ雨露に濡れている所が多いだろうに、自由に寛いでいた。
「さあ、ここでしばし語らおうじゃないか」
黒色のガゼボに着くと、彼はテーブルの傍にある木製のロッキングチェアに腰かける。彼専用にあつらえたかのようなロッキングチェアは、座り心地が良さそうだ。
彼に促されるまま、リアトリスは近くに置かれた普通の木製の椅子に腰かける。そして、彼女は既に白いテーブルの上に用意されたお茶とお茶菓子を見て、頬が引きつりそうになるのを堪えた。
ここに至るまで、誰一人にも遭遇していない。彼が誰かにお茶やお茶菓子の手配を伝える様子などなかった。
それにも関わらず、まるで全てお見通しだと言わんばかりに、こうしてタイミング良く整っている意味を、今までの経験上リアトリスは嫌と言うほど身に染みている。
だからこそ、気さくな彼の正体を大体予測し、その予測があっていることなど絶対に知りたくはないと、リアトリスは途方に暮れた。
「遠慮せずお茶を飲んでくれ。私の好物のブランデーケーキもおいしいよ」
「はい。ありがたく、頂戴します」
彼は器用にカップを持ってお茶を飲む。
リアトリスは不安に苛まれながら、それを努めて顔に出すことなく、彼の厚意に感謝した。
温かな赤茶色のお茶は、そば茶の味に近い。体がじんわりと温まるようで、ほっと一息できる。
「リースは、ここには『継承試練の儀』に参加するために訪れたのかい?」
「いいえでもあり、はいでもあります。キュウテオ国へは見聞を広めるために義兄に同行し、ちょうど明日の『継承試練の儀』と訪問日が重なったため、義兄たちに記念に参加するよう促されたのです」
「そうかそうか」
リアトリスは一応嘘はついていない。コンラッドのような態度を取られるかとひやひやしたが、彼は楽しそうに頷くだけだった。それには彼女は安心の息をそっと吐きだす。
直後、先ほど生じた疑問をリアトリスは彼に訊ねることにする。
「あの、どうして私の名を知っていらっしゃるのでしょうか?」
「ああ。ここにいる者たちに聞いたのさ。スフェンと一緒に可愛いティーグフとお嬢さんがやって来たとね」
「・・・・・・そうでしたか。ご紹介が遅くなりましたが、ご存知の通り、リースと申します」
「気にせんでもいいさ。私はファリスだ。この国に長く住まう年寄りだよ」
カップを少し掲げ、茶目っ気溢れるファリスの振る舞いに、リアトリスは彼の寛大さを知る。
「お心遣いありがとうございます」
「そう畏まらなくてもいい。私に訊きたいことがあれば、遠慮せず訊ねてくれたまえ。個人的なことでも、明日のことでもね」
「それでしたら・・・・・・、長く住んでいらっしゃると言いますが、どれくらいになるのですか?」
「ふむ。中々難しい質問だな。一時期ここを離れて旅をしていた期間を抜かせば、ざっと百五十年ほどだろうか」
返ってきた答えに、リアトリスはこの世界には長寿の種族がいることを理解しているとはいえ、驚いた。それほど長い間、ファリスはこの国に身を置いてきたことを思うと、感慨深い気持ちすら彼女は抱く。
「私には、とても長い時間、この国で日々を送っていらしたのだと、思えます」
「そうかもしれないね。目まぐるしい時代もあったが、中々の期間この国のため粉骨砕身したものだ。だが、それも直に終わる。そろそろ老後を楽しもうと思っていてね。また諸国漫遊するつもりなのだよ」
「そうですか。いいご計画ですね」
「そうだろう」
目まぐるしい時代の一つに見当がつき、リアトリスはさっと顔を曇らせた。それを悟らせ要らぬ心配をかけたくない思いが働き、そっと目を伏せて少し口角をあげたリアトリスに、ファリスは目尻の皺を寄せる。
「ところで、お嬢さんから見てこの国はどうだった?」
「素敵な国ですね。きれいな海、それにこのキュウテオ山を始めとする自然も、涼しい気候を活かした生物の営みも、たくさんの猫たちも、たくさんの素敵がこの国に詰まっています。のんびりとした時間が流れるかのようなこちらでは、心洗われることも多いかと思われます」
「ずっと住まいたくなるほどに?」
「それは、難しいですね」
リアトリスは申し訳なさそうな顔つきになった。
称賛した国に住むのは難しいとする事情を知りたくて、ファリスの瞳の奥が光る。
「おや、それは何故だい?」
「この国は勿論素敵です。けれど、この世界には、まだまだ私の知らない素敵な国がたくさんあります。私は、そんな各国を巡ることを楽しみにしているんです。それに何よりも、私には帰るべき場所もありますし、この国に永住はできません」
「そうか」
「はい」
かつて各国を旅した経験のあり、故郷を慈しむファリスは、リアトリスの理由に深く頷いた。だから彼は、決して残念だと彼女に口にすることはなかった。
泥を落として身ぎれいにしてから建物に入ろうとする前、近くでオスカーではないモンスターたちの鳴き声が耳に入る。
彼らの右、建物の東側の森へと続く方向を見れば、この国に住まう野生のモンスターたちが数匹木陰から顔を覗かせている。
リアトリスとオスカーは互いに顔を見合わせ、彼らに近づいて行った。
近づくも、モンスターたちは逃げるでも襲いかかるでもなく、その場にじっとしている。非常に落ち着いた様子だ。敵意も恐怖も互いに感じない。
彼らを呼び寄せたのは、二足歩行できる亀っぽいモンスターのタフティ・飛べないが泳げる鴨に似たモンスターのキャナフ・サワガニっぽいモンスターのダハニであった。水がきれいそうな場所を好むモンスターばかりである。
みな中型犬ほどの大きさで、いずれもぬいぐるみ感否めない外見をしていた。
オスカーと彼らが会話をしばし交えた後、三匹はくるくるとリアトリスの周囲を歩く。彼女は慣れた様子でじっと突っ立っていた。
三匹が回るのを止めると、オスカーと三匹はまた話し出す。リアトリスは彼らの言葉が分からないが、その光景を大人しく見守っていた。
『ちょっと散策してくる。夕飯には戻るから、部屋で待ってて』
オスカーは例の如く手記でリアトリスにそう教えた。
「一緒に行かなくていいの?」
リアトリスが問えば、オスカーだけでなく三匹も首を縦に振る。まるで、彼女はついて行かずに待っていろと諭すように。
リアトリスはモンスターにも事情があるのだろうと、それに従ってその場から彼らを見送った。また、オスカーの目的も勘づいているからこそ、彼らに従わざるを得ない。彼女の心配そうな眼差しに彼らが映らなくなると、リアトリスはくるり踵を返す。
「わっ!」
リアトリスは小さな悲鳴を上げる。
彼女の背後には、大きな猫がいたからだ。気配など微塵も感じられず、振り向いてそこにいたので、彼女は驚いてしまったのである。
彼女の驚きの声に逃げ出しそうなものだが、その猫は逃げ出すことなくその場に留まっていた。
体長はリアトリスとさほど変わらないんじゃないかと思われる大きな猫は、上半身部分はこげ茶で、下半身部分は白色の面積が多い。顔は精悍なハンサムだ。
「失礼。お嬢さん。まさかここまで驚いてくれるとは思わなくてね。年寄りの悪戯心と思って許してくれ」
「・・・・・・はあ」
猫の口が言葉を紡ぐ。リアトリスはびっくりした波が引かず、間抜けな返事しかできなかった。
声色からして、男性だろう。話しているのが世界共通語であることから、混乱気味なリアトリスですら、彼が獣人族もしくは獣人族の血が入った混血なのだと推測する。
「ここで何をしていたんだい?」
「えっと、この奥に住まうらしい野生のモンスターたちと軽く交流していました」
下手に誤魔化しても面倒になりそうな気がすると予感し、リアトリスはありのままを伝えた。
彼は納得したように、静かに頷く。
「それで、私に何か用でしょうか?」
「いや。特に重大な用はなかったのだが、こんな所で一体何をしているのか気になって近づいただけだよ」
「そうでしたか」
彼は清々しいほど闊達に笑って述べる。
それで驚かされる結果になったのかと思うと、なんとも心臓に悪い話だと、リアトリスは少しうんざりした心持ちとなった。
「では、もう用事がないようでしたら、お暇してもよろしいでしょうか?」
リアトリスはがくりとうなだれるような胸中で、目の前の彼に確認を取る。明日の「継承試練の儀」に関して書物を読み漁り頭を使い、昼間はミネットに妙な勘繰りをされ、彼女は心身ともに疲れていた。しばし一人になって休みたい思いが、彼女の中で強く募る。
「寂しい老人の話し相手になってはくれはしないかい? 私はそこの建物に住んでいるのだが、おいしい茶と菓子を出してもらえるよ」
そんな事情など知る由もない彼は、リアトリスを一人にする気はないようだ。じっと黒光りする瞳が、リアトリスの答えを待っている。
「私で宜しければ、喜んで」
「それは良かった。さあ、行こう」
国長の住まう建物に住む御仁の誘いを、リアトリスは断われようもない。義兄の仕事相手の可能性だってある。遠慮がちにほほ笑んで、彼女には誘いに応じる以外の選択肢はなかった。
彼は猫らしい柔らかな体をくねらせて、建物へとゆっくりと歩く。ピンと垂直に立った彼の尻尾を見ながら、リアトリスも彼の歩調に合わせて後を追った。
* * *
彼に案内されて到着した場所は、建物西側にある庭だった。
芝生の間に大きな平たい石で作られた道があり、猫姿の彼とリアトリスはそこに沿って進む。
野良らしい猫たちが庭に入り込んでいて、まだ雨露に濡れている所が多いだろうに、自由に寛いでいた。
「さあ、ここでしばし語らおうじゃないか」
黒色のガゼボに着くと、彼はテーブルの傍にある木製のロッキングチェアに腰かける。彼専用にあつらえたかのようなロッキングチェアは、座り心地が良さそうだ。
彼に促されるまま、リアトリスは近くに置かれた普通の木製の椅子に腰かける。そして、彼女は既に白いテーブルの上に用意されたお茶とお茶菓子を見て、頬が引きつりそうになるのを堪えた。
ここに至るまで、誰一人にも遭遇していない。彼が誰かにお茶やお茶菓子の手配を伝える様子などなかった。
それにも関わらず、まるで全てお見通しだと言わんばかりに、こうしてタイミング良く整っている意味を、今までの経験上リアトリスは嫌と言うほど身に染みている。
だからこそ、気さくな彼の正体を大体予測し、その予測があっていることなど絶対に知りたくはないと、リアトリスは途方に暮れた。
「遠慮せずお茶を飲んでくれ。私の好物のブランデーケーキもおいしいよ」
「はい。ありがたく、頂戴します」
彼は器用にカップを持ってお茶を飲む。
リアトリスは不安に苛まれながら、それを努めて顔に出すことなく、彼の厚意に感謝した。
温かな赤茶色のお茶は、そば茶の味に近い。体がじんわりと温まるようで、ほっと一息できる。
「リースは、ここには『継承試練の儀』に参加するために訪れたのかい?」
「いいえでもあり、はいでもあります。キュウテオ国へは見聞を広めるために義兄に同行し、ちょうど明日の『継承試練の儀』と訪問日が重なったため、義兄たちに記念に参加するよう促されたのです」
「そうかそうか」
リアトリスは一応嘘はついていない。コンラッドのような態度を取られるかとひやひやしたが、彼は楽しそうに頷くだけだった。それには彼女は安心の息をそっと吐きだす。
直後、先ほど生じた疑問をリアトリスは彼に訊ねることにする。
「あの、どうして私の名を知っていらっしゃるのでしょうか?」
「ああ。ここにいる者たちに聞いたのさ。スフェンと一緒に可愛いティーグフとお嬢さんがやって来たとね」
「・・・・・・そうでしたか。ご紹介が遅くなりましたが、ご存知の通り、リースと申します」
「気にせんでもいいさ。私はファリスだ。この国に長く住まう年寄りだよ」
カップを少し掲げ、茶目っ気溢れるファリスの振る舞いに、リアトリスは彼の寛大さを知る。
「お心遣いありがとうございます」
「そう畏まらなくてもいい。私に訊きたいことがあれば、遠慮せず訊ねてくれたまえ。個人的なことでも、明日のことでもね」
「それでしたら・・・・・・、長く住んでいらっしゃると言いますが、どれくらいになるのですか?」
「ふむ。中々難しい質問だな。一時期ここを離れて旅をしていた期間を抜かせば、ざっと百五十年ほどだろうか」
返ってきた答えに、リアトリスはこの世界には長寿の種族がいることを理解しているとはいえ、驚いた。それほど長い間、ファリスはこの国に身を置いてきたことを思うと、感慨深い気持ちすら彼女は抱く。
「私には、とても長い時間、この国で日々を送っていらしたのだと、思えます」
「そうかもしれないね。目まぐるしい時代もあったが、中々の期間この国のため粉骨砕身したものだ。だが、それも直に終わる。そろそろ老後を楽しもうと思っていてね。また諸国漫遊するつもりなのだよ」
「そうですか。いいご計画ですね」
「そうだろう」
目まぐるしい時代の一つに見当がつき、リアトリスはさっと顔を曇らせた。それを悟らせ要らぬ心配をかけたくない思いが働き、そっと目を伏せて少し口角をあげたリアトリスに、ファリスは目尻の皺を寄せる。
「ところで、お嬢さんから見てこの国はどうだった?」
「素敵な国ですね。きれいな海、それにこのキュウテオ山を始めとする自然も、涼しい気候を活かした生物の営みも、たくさんの猫たちも、たくさんの素敵がこの国に詰まっています。のんびりとした時間が流れるかのようなこちらでは、心洗われることも多いかと思われます」
「ずっと住まいたくなるほどに?」
「それは、難しいですね」
リアトリスは申し訳なさそうな顔つきになった。
称賛した国に住むのは難しいとする事情を知りたくて、ファリスの瞳の奥が光る。
「おや、それは何故だい?」
「この国は勿論素敵です。けれど、この世界には、まだまだ私の知らない素敵な国がたくさんあります。私は、そんな各国を巡ることを楽しみにしているんです。それに何よりも、私には帰るべき場所もありますし、この国に永住はできません」
「そうか」
「はい」
かつて各国を旅した経験のあり、故郷を慈しむファリスは、リアトリスの理由に深く頷いた。だから彼は、決して残念だと彼女に口にすることはなかった。
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