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見聞録
キュウテオ国編 ~特別な猫の尻尾⑦~
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あっという間に港町に着くと、早速昼食を取る場所を探すことにした。
オスカーの足取りは軽やかで、上機嫌なのが窺える。浮足立っているのは見て明らかだ。仕舞いには小躍りを始めてしまいそうな勢いすらある。
コンラッドはそれを笑わずにはいられないようで、ずっと顔が綻んでいる。
港町で昼食を取れる飲食店通りを一通り見て、一番そわそわしているオスカーが入りたかった店に入ることにした。尖りすぎていない、緩やかな傾斜の三角屋根の店である。緑の屋根にクリーム色の壁はどこか可愛らしい。
メインは揚げ物のようだ。メニュー表にはずらりと主に魚の揚げ物が並んでいる。主食であるパンは数種類。揚げ物や野菜を挟んだサンドイッチもある。あとは、飲み物・スープ・サラダ・デザートが数種類あるのみだ。
オスカーとコンラッドは、共にサーモンフライのサンドイッチを頼むことに決めた。リアトリスはグラメトなる未知な魚のフライのサンドイッチと、単品のスッサドンなるこれまた謎のフライを注文することにする。後は各々スープやサラダ、飲み物を追加して注文を終えた。
「深海魚が好きなの?」
「え?」
コンラッドの質問の内容に、思わずリアトリスは咄嗟に聞き返してしまう。彼女の様子に、聡い彼はすぐにピンときた。
「注文した品の魚がどれも深海魚だったから、好きなのかと思ったけど、知らなかったみたいだね」
「はい。なんだろうと気になって頼んでしまった形ですね。深海魚でしたか」
合点がいったリアトリスは、困ったように返事をする。
「うん。他国の人は特に好みがあるだろうから、口に合えばいいけど」
「そうなのですか?」
「ああ。まあ、食べてからのお楽しみだね」
まるで吉と出るか凶と出るかと言わんばかりのコンラッドに、そこまで癖のある強者な魚なのかとリアトリスは不安になった。
五分ほどが経ち、注文したものがテーブルに並んでいく。そして実食となった。
まず、リアトリスはグラメトのフライを挟んだサンドイッチからいただくことにする。横に広がった、平べったい四角のパン二枚に具が挟まったバーガーのようなそれは、ナイフとフォークで食べるらしい。一口サイズにカットし、リアトリスはそれを口に運んだ。
何度か咀嚼するも、リアトリスの顔はお世辞にもおいしそうな表情には変化しなかった。
パンとチーズとオーロラソースはおいしいと、リアトリスは素直に思う。おいしさを彷徨わせているのは千切りにされたキャベツ、ではなく、悲しいかな主役のグラメトのフライである。
グラメトの味に癖はなく淡白。ふっくらと厚い見た目だが、食感はやや固めだ。鱈などの白身魚のフライに慣れ親しんだリアトリスの舌には、それが格別においしいとは思えなかった。言うなれば不味くはない普通の味で、もう一度買って食べはしない、彼女にとってはその程度のおいしさである。
そう感じるのも、もしかしたら初めて食べることもあって、リアトリスが味に期待しすぎたせいかもしれない。
リアトリスとは正反対で、オスカーとコンラッドは実に美味しそうにサーモンフライが挟まったサンドイッチを食している。
厚切りのサーモンフライ・スライスオニオン・しゃきっとしたレタスが、パンとソースと絡み合い、絶妙なおいしさを口の中で演出する。タルタルソースにハーブが用いられているようで、その爽やかな風味がサーモンフライによく合う。レモンを絞って果汁をかけて食べてみると、酸味あるまた違った味わいを楽しめる品だ。
リアトリスはサンドイッチを食べる手を止め、スッサドンのフライを食べることにした。開きを揚げたそれを、ナイフで切ろうとするも、中々切れない。四苦八苦してなんとか小さく切って、彼女はそれを食べてみる。
リアトリスは驚愕した。
見た目からこんがりと茶色く揚げられたそれは、固そうだとは思っていた。ナイフで切ることも容易でなく、固いのだとは察していた。けれども、いくら噛んでも噛み切れない硬さだとは、リアトリスは思わなかった。
しかも、これまたお世辞にもおいしいとは言えない味である。噛めども噛めども、揚げすぎで焦げすぎたしょっぱいフライの衣だけを食べているかのような味しかしない。魚の身が、果たして存在しているのかすら謎に思えてくる。
ド根性で何とかごくんと飲み込んで、リアトリスは目を瞬かせた。
その一部始終をちらりと見ていて、コンラッドは苦笑を滲ませる。
「どうだった?」
「実に衝撃的でした」
リアトリスはコンラッドに、彼女なりに言葉を選び抜いた失礼のない感想で返す。
リアトリスの横にいるオスカーは、すっと無言でスッサドンのフライが乗った皿を自身の方に引き寄せた。そして、もう二度とそれらを口にしない彼女の代わりに、それらをオスカーは平らげていく。おまけに、未だ衝撃で放心状態のリアトリスの食べかけのサンドイッチも、勝手にぺろり食してしまった。
オスカーは飲み物で喉を潤しながら、追加注文をする。それには、まだ食べるのかとコンラッドは笑ってしまう。
オスカーが追加で頼んだのは、サーモンフライのサンドイッチだ。それを食べずに、オスカーはリアトリスの目の前に差し出す。「食え」といわんばかりに、彼女の背を右前脚で叩いた。
リアトリスとコンラッドは、オスカーの優しさを知る。
その優しさを無下にはしまいと、リアトリスはそれを食べてみる。
「おいしい」
リアトリスは、ようやく自身の口に合う食事にありつけた。彼女の顔は、生気を取り戻したかのように明るくなる。
リアトリスにとって、挑戦することも大事だが、時には無難な道を選択することの大切さが身に染みた昼食であった。
オスカーの足取りは軽やかで、上機嫌なのが窺える。浮足立っているのは見て明らかだ。仕舞いには小躍りを始めてしまいそうな勢いすらある。
コンラッドはそれを笑わずにはいられないようで、ずっと顔が綻んでいる。
港町で昼食を取れる飲食店通りを一通り見て、一番そわそわしているオスカーが入りたかった店に入ることにした。尖りすぎていない、緩やかな傾斜の三角屋根の店である。緑の屋根にクリーム色の壁はどこか可愛らしい。
メインは揚げ物のようだ。メニュー表にはずらりと主に魚の揚げ物が並んでいる。主食であるパンは数種類。揚げ物や野菜を挟んだサンドイッチもある。あとは、飲み物・スープ・サラダ・デザートが数種類あるのみだ。
オスカーとコンラッドは、共にサーモンフライのサンドイッチを頼むことに決めた。リアトリスはグラメトなる未知な魚のフライのサンドイッチと、単品のスッサドンなるこれまた謎のフライを注文することにする。後は各々スープやサラダ、飲み物を追加して注文を終えた。
「深海魚が好きなの?」
「え?」
コンラッドの質問の内容に、思わずリアトリスは咄嗟に聞き返してしまう。彼女の様子に、聡い彼はすぐにピンときた。
「注文した品の魚がどれも深海魚だったから、好きなのかと思ったけど、知らなかったみたいだね」
「はい。なんだろうと気になって頼んでしまった形ですね。深海魚でしたか」
合点がいったリアトリスは、困ったように返事をする。
「うん。他国の人は特に好みがあるだろうから、口に合えばいいけど」
「そうなのですか?」
「ああ。まあ、食べてからのお楽しみだね」
まるで吉と出るか凶と出るかと言わんばかりのコンラッドに、そこまで癖のある強者な魚なのかとリアトリスは不安になった。
五分ほどが経ち、注文したものがテーブルに並んでいく。そして実食となった。
まず、リアトリスはグラメトのフライを挟んだサンドイッチからいただくことにする。横に広がった、平べったい四角のパン二枚に具が挟まったバーガーのようなそれは、ナイフとフォークで食べるらしい。一口サイズにカットし、リアトリスはそれを口に運んだ。
何度か咀嚼するも、リアトリスの顔はお世辞にもおいしそうな表情には変化しなかった。
パンとチーズとオーロラソースはおいしいと、リアトリスは素直に思う。おいしさを彷徨わせているのは千切りにされたキャベツ、ではなく、悲しいかな主役のグラメトのフライである。
グラメトの味に癖はなく淡白。ふっくらと厚い見た目だが、食感はやや固めだ。鱈などの白身魚のフライに慣れ親しんだリアトリスの舌には、それが格別においしいとは思えなかった。言うなれば不味くはない普通の味で、もう一度買って食べはしない、彼女にとってはその程度のおいしさである。
そう感じるのも、もしかしたら初めて食べることもあって、リアトリスが味に期待しすぎたせいかもしれない。
リアトリスとは正反対で、オスカーとコンラッドは実に美味しそうにサーモンフライが挟まったサンドイッチを食している。
厚切りのサーモンフライ・スライスオニオン・しゃきっとしたレタスが、パンとソースと絡み合い、絶妙なおいしさを口の中で演出する。タルタルソースにハーブが用いられているようで、その爽やかな風味がサーモンフライによく合う。レモンを絞って果汁をかけて食べてみると、酸味あるまた違った味わいを楽しめる品だ。
リアトリスはサンドイッチを食べる手を止め、スッサドンのフライを食べることにした。開きを揚げたそれを、ナイフで切ろうとするも、中々切れない。四苦八苦してなんとか小さく切って、彼女はそれを食べてみる。
リアトリスは驚愕した。
見た目からこんがりと茶色く揚げられたそれは、固そうだとは思っていた。ナイフで切ることも容易でなく、固いのだとは察していた。けれども、いくら噛んでも噛み切れない硬さだとは、リアトリスは思わなかった。
しかも、これまたお世辞にもおいしいとは言えない味である。噛めども噛めども、揚げすぎで焦げすぎたしょっぱいフライの衣だけを食べているかのような味しかしない。魚の身が、果たして存在しているのかすら謎に思えてくる。
ド根性で何とかごくんと飲み込んで、リアトリスは目を瞬かせた。
その一部始終をちらりと見ていて、コンラッドは苦笑を滲ませる。
「どうだった?」
「実に衝撃的でした」
リアトリスはコンラッドに、彼女なりに言葉を選び抜いた失礼のない感想で返す。
リアトリスの横にいるオスカーは、すっと無言でスッサドンのフライが乗った皿を自身の方に引き寄せた。そして、もう二度とそれらを口にしない彼女の代わりに、それらをオスカーは平らげていく。おまけに、未だ衝撃で放心状態のリアトリスの食べかけのサンドイッチも、勝手にぺろり食してしまった。
オスカーは飲み物で喉を潤しながら、追加注文をする。それには、まだ食べるのかとコンラッドは笑ってしまう。
オスカーが追加で頼んだのは、サーモンフライのサンドイッチだ。それを食べずに、オスカーはリアトリスの目の前に差し出す。「食え」といわんばかりに、彼女の背を右前脚で叩いた。
リアトリスとコンラッドは、オスカーの優しさを知る。
その優しさを無下にはしまいと、リアトリスはそれを食べてみる。
「おいしい」
リアトリスは、ようやく自身の口に合う食事にありつけた。彼女の顔は、生気を取り戻したかのように明るくなる。
リアトリスにとって、挑戦することも大事だが、時には無難な道を選択することの大切さが身に染みた昼食であった。
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