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見聞録
キュウテオ国編 ~特別な猫の尻尾③~
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リースとオスカーは、案内された部屋の中にいた。勿論、隣がスフェンに用意された部屋である。
少女とティーグフだけにしては広すぎる部屋を一通り見て回ると、満足したのか一人は大きくてふかふかのベッドに腰かける。
オスカーは床に座ったまま、右前脚を少しだけあげる。そして、おいでおいでと小さく招く仕草をすると、彼の目の前に真っ白なメモ用紙とペンが出現した。
魔法のようなその現象は、この世界ではごくありきたりなことだ。
この世界に生きる者は大抵、ものを出し入れできる亜空間倉庫を有している。その便利な道具入れは、通称「道具」と称され、大抵のものは手に触れてその中に入れと念じれば、すぐさま目の前から消えて「道具」に保管されていくのだ。
ただ、取り出すときには、慣れるまで収納するときよりも手間がかかる。
まず、自身の個人情報などが詰まったステータス画面を、頭の中で念じることが最初の手順だ。
ステータス画面と念じれば、不思議なことに念じた者の個人情報満載の、どこかのゲームのようなその画面の映像が、目の前に浮かび上がる。これまた、どこぞのゲームのように、その画面に表示されているメニュー欄をぽちぽちと手動で操作していけば、自分が今まで収納したもので取り出したいものを選択し、オスカーが起こしたような先ほどの現象でもって目の前にそれが現れるのである。
ものを入れる時よりも出す時の方が確かに時間はかかるし、面倒ではある。ただ慣れとは恐ろしいもので、それが日常茶飯事であるこの世界の住人からすれば、ものを取り出す際、収納するときとほぼ同じかそれよりも時間がかからなくなる者も稀にいることも確かだ。
ちなみに、この世界の住人やモンスターは「道具」に収納できない。けれども、それ以外の有機体、自身の収穫物と見なされた動植物は、生死を問わずに「道具」の中に収納することが可能だ。店で売られているものも、万引き防止用に「道具」に収納できないよう、この世界の適切な処置が施されている。
このように制限はあるが、無限にものを収納できる「道具」はとても便利なものだ。
更に付け加えると、本来であればモンスターはこの「道具」を有しない。とある特殊な事情でオスカーは「道具」を有し、制限はあるがそれを使いこなしているといったところである。
オスカーは、操作魔法でペンを操作しながら、メモ用紙に流暢な文字をさらさらと書き綴る。傍目には、ペンが勝手に動いているようにしか思われない。文字を書き終えると、リースに操作魔法を駆使して、メモ用紙をふわりと宙に飛ばして渡した。
リースはそれを軽やかな手つきで受け取り、驚きと困惑と不安がないまぜになった表情をする。それをどうしようもないと訴えるように、彼女は諦観の笑みをオスカーに向けた。
メモ用紙には、この世界の共通語で、こう書かれている。
『ここに着いてから、あまり良くない感情を持つ男に監視されているよ。会話も常に聞かれていると思って。多分、イオの妻のリアトリスだってこともばれてる。気をつけた方がいいね』
彼女は、お手上げだと言わんばかりの仕草をした。続け様、この世界の共通語ではない言語を語りだす。
「まあ、仕方ないよね。ばれちゃったもんはどうしようもない。その上で、本当に隠したいことをばれないように頑張るだけだ」
覇気に欠ける口調で、愛称がリースであるリアトリスは、小さな右拳を天井に向かってゆっくりと突き出したのであった。
* * *
スフェンが予測したように、もてなされた夕食は、海の幸がふんだんに使用された美味なものだった。それには、リアトリス以上にオスカーが大満足した次第だ。
それから夜もぐんと更け、聞こえてくるは虫や鳥や猫の声ばかりになる頃。
部屋の浴室で湯浴みもすませ、さっぱりすると、オスカーは早々にベッドの中に潜り込んで眠りにつく。
オスカーの傍らでリアトリスも同様にそうしたかったが、すぐに寝つけはしなかった。普段寝つきはいい彼女は、この国を訪問するまでの経緯を思い返している。
『特別な猫の尻尾、ですか?』
数か月前に、間抜けな声で聞き返した頃が、リアトリスは非常に懐かしく感じられた。
ロムト国の城に呼び出され、義理の兄三人と、彼女の家族が揃っている場で、とある目的のためにこのキュウテオ国を訪問しないか打診された。
結果、今に至る。
外交関係の仕事でキュウテオ国を訪れるスフェンに、リアトリスも重要な任務を秘密裏に遂行すべく、今回同行した。
けれど、それには厄介な事を勝手に付随された。
『せっかく継承試練の頃に訪問するのに、参加しないのも勿体無いと思ってね。リースの参加をこちらで申し込んでおいたから』
『なんなら、見事特別な猫の尻尾を探し出して来ればいい』
夫のきょうだいの、次男と長男である義理の兄二人は、数か月前にリアトリスをにんまりとした表情で揶揄った。
それに対して、リアトリスは眉をハの字にして、納得いかない不快感を全面に顔に描いたものだ。
キュウテオ国では、国の代表者が次代に譲る場合、とても稀有な方法を取る。世襲制や選挙制度ではない。ウルターヌスの月のとある日に、「継承試練の儀」と称された特殊な催しをするのだ。
それは、「特別な猫の尻尾探し」である。それを一番最初に見つけ、審査員に報告できた者が、キュウテオ国の代表者となれる。
そのことを、リアトリスは義兄たちから説明を受けた。
始めこそ異世界ならではの面白い選抜もあるものだと思っていたリアトリスであったが、それに参加させられるとあらば全くもって面白いわけがない。
義兄たちに何も知らされずに勝手に受付を済まされたことに、まず彼女は腹が立った。個人の自由や尊重を完全に無視されているのが、なんとも解せない。
リアトリスは、一国の主になりたいなどと微塵も思ってはないのだ。そのことが一番、彼女の不満を余計に煽った。彼女にとって集団の長を務めるのは容易ではなく、本質的にそれが明白に向いていないと自覚している。
『また、何よりも、真剣にその国のトップに立ちたいと望み、真面目に取り組もうとしている方に失礼でしょう』
「継承試練の儀」は、キュウテオ国の国長がその地位を次代に譲ろうと決断し、後継者が決まるまでの期間、一年に一度しか開催されない。また、一度参加して失格だった者は、二度と参加することは叶わないのだ。
それに勝手に第三者が応募して、勝手に応募された者が嫌々参加するなど、失礼極まりないとリアトリスは捲くし立てた。
『リースは頑固だね。いいんだよ、軽い気持ちで参加しても。一か八かで一攫千金を狙う者もいれば、自分が生きている間に参加できるのは今しかないだろうと、記念に参加する者だっている。今回で合格者が出るかどうかも定かではない。なんたって、「特別な猫の尻尾」は中々の強敵だからな。三年連続で、未だそれを見つけ出せた者はいない』
『エヴラールの言う通りだ。また、失礼なのは不承不承で望む己自身だろう? リースが至極真面目に取り組めば万事解決だ。それともなんだ。もう「特別な猫の尻尾」の見当がついてしまったとでも言いたいのか?』
『いいえ。「特別な猫の尻尾」と言われても、私にはさっぱり見当がつきません。ただ・・・・・・、そう、ですね。オディロンお義兄様のおっしゃることも一理あります。参加資格を得てしまった以上、私個人としても「特別な猫の尻尾」が果たしてどんなものかは気になりますので、その追究は私なりに努力してみようと思います』
『偉い。それでこそリースだ』
『エヴラール、あんまり冷やかすのはよくないな。それより、私も「特別な猫の尻尾」の正体は興味ある。キュウテオ国に生息する多くの猫の尻尾ってわけじゃなさそうだし』
スフェンも「特別な猫の尻尾」の解明をしたがっていたことを、リアトリスは思い出す。
『念のため伝えておくけど、審査員に「特別な猫の尻尾」として提示するため、キュウテオ国の可愛い猫の尾を切り落とすなんて野蛮なことしたら失格だからね』
『念のため伝えておきますが、それは明らかな動物虐待です。犯罪です。するわけがありません』
『普通はそう考えるんだけどね、過去にそんなことをした愚か者がいたのは事実さ。また、補足すると、短い尾の猫がいるのは、切られたわけではなく、元からそういう種類だよ』
『はい、ご忠告承りました。確かに前世では短い尻尾の猫は、尻尾だけ車に轢かれたと怖い勘違いをしていましたが・・・・・・。猫に数種類の尻尾があるのは、こちらの世界できちんと学びましたよ』
エヴラールとリアトリスは、そんなくだらない会話も繰り広げた。
『課題の「特別な猫の尻尾」だが、本当の猫の尻尾ではないのではないか? 「猫の尻尾」になぞらえた何かに、俺は思えるがな』
『まあ、俺もオディロンと同意見だよ。単なる猫の尻尾ではない気がする』
『ああ、そうだね』
リアトリスの義兄三人に、彼女自身心の中で大きく頷いていたものだ。
ただ、リアトリスの夫は違った。
『俺は、獣人族の線を疑うな』
『その意見も過去にはあったらしいけどね~。猫科の血が入った獣人族が自分の尻尾を審査員に見せたけど、合格者は一人もいなかったって聞いたよ』
『そうか、それは残念だ』
リアトリスの頭に浮かぶは、結構自信があったのにそれをエヴラールに遠回しに違うようだと諭され、少しがっかりした夫の顔。
暗がりに目が慣れ、ぼんやりと天井を見つめながら、リアトリスは夫や家族に会いたくなった。
リアトリスは三日後の「継承試練の儀」を終え、四日後には行きと同じくスフェンとオスカーと、このキュウテオ国を発ち、夫の祖国であるロムト国へ戻る予定だ。
それを頭では理解しているのに、寂しさがリアトリスから消えてくれない。その理由には、リアトリスがまだ新婚だということがあるのだろう。
また、このキュウテオ国で、夫たち付き合いの長い家族がいない中初めて、とある重大な任務をリアトリスが実行する不安があることも、要因に違いない。
「今更不安がってもどうしようもないじゃない。やるって決めたんだから、きっちりやり遂げて、無事家に帰ろう」
リアトリスは前世の言葉でそう決意すると、急に襲ってきた強い眠気に誘われて、ゆっくりと瞼を閉じたのだった。
少女とティーグフだけにしては広すぎる部屋を一通り見て回ると、満足したのか一人は大きくてふかふかのベッドに腰かける。
オスカーは床に座ったまま、右前脚を少しだけあげる。そして、おいでおいでと小さく招く仕草をすると、彼の目の前に真っ白なメモ用紙とペンが出現した。
魔法のようなその現象は、この世界ではごくありきたりなことだ。
この世界に生きる者は大抵、ものを出し入れできる亜空間倉庫を有している。その便利な道具入れは、通称「道具」と称され、大抵のものは手に触れてその中に入れと念じれば、すぐさま目の前から消えて「道具」に保管されていくのだ。
ただ、取り出すときには、慣れるまで収納するときよりも手間がかかる。
まず、自身の個人情報などが詰まったステータス画面を、頭の中で念じることが最初の手順だ。
ステータス画面と念じれば、不思議なことに念じた者の個人情報満載の、どこかのゲームのようなその画面の映像が、目の前に浮かび上がる。これまた、どこぞのゲームのように、その画面に表示されているメニュー欄をぽちぽちと手動で操作していけば、自分が今まで収納したもので取り出したいものを選択し、オスカーが起こしたような先ほどの現象でもって目の前にそれが現れるのである。
ものを入れる時よりも出す時の方が確かに時間はかかるし、面倒ではある。ただ慣れとは恐ろしいもので、それが日常茶飯事であるこの世界の住人からすれば、ものを取り出す際、収納するときとほぼ同じかそれよりも時間がかからなくなる者も稀にいることも確かだ。
ちなみに、この世界の住人やモンスターは「道具」に収納できない。けれども、それ以外の有機体、自身の収穫物と見なされた動植物は、生死を問わずに「道具」の中に収納することが可能だ。店で売られているものも、万引き防止用に「道具」に収納できないよう、この世界の適切な処置が施されている。
このように制限はあるが、無限にものを収納できる「道具」はとても便利なものだ。
更に付け加えると、本来であればモンスターはこの「道具」を有しない。とある特殊な事情でオスカーは「道具」を有し、制限はあるがそれを使いこなしているといったところである。
オスカーは、操作魔法でペンを操作しながら、メモ用紙に流暢な文字をさらさらと書き綴る。傍目には、ペンが勝手に動いているようにしか思われない。文字を書き終えると、リースに操作魔法を駆使して、メモ用紙をふわりと宙に飛ばして渡した。
リースはそれを軽やかな手つきで受け取り、驚きと困惑と不安がないまぜになった表情をする。それをどうしようもないと訴えるように、彼女は諦観の笑みをオスカーに向けた。
メモ用紙には、この世界の共通語で、こう書かれている。
『ここに着いてから、あまり良くない感情を持つ男に監視されているよ。会話も常に聞かれていると思って。多分、イオの妻のリアトリスだってこともばれてる。気をつけた方がいいね』
彼女は、お手上げだと言わんばかりの仕草をした。続け様、この世界の共通語ではない言語を語りだす。
「まあ、仕方ないよね。ばれちゃったもんはどうしようもない。その上で、本当に隠したいことをばれないように頑張るだけだ」
覇気に欠ける口調で、愛称がリースであるリアトリスは、小さな右拳を天井に向かってゆっくりと突き出したのであった。
* * *
スフェンが予測したように、もてなされた夕食は、海の幸がふんだんに使用された美味なものだった。それには、リアトリス以上にオスカーが大満足した次第だ。
それから夜もぐんと更け、聞こえてくるは虫や鳥や猫の声ばかりになる頃。
部屋の浴室で湯浴みもすませ、さっぱりすると、オスカーは早々にベッドの中に潜り込んで眠りにつく。
オスカーの傍らでリアトリスも同様にそうしたかったが、すぐに寝つけはしなかった。普段寝つきはいい彼女は、この国を訪問するまでの経緯を思い返している。
『特別な猫の尻尾、ですか?』
数か月前に、間抜けな声で聞き返した頃が、リアトリスは非常に懐かしく感じられた。
ロムト国の城に呼び出され、義理の兄三人と、彼女の家族が揃っている場で、とある目的のためにこのキュウテオ国を訪問しないか打診された。
結果、今に至る。
外交関係の仕事でキュウテオ国を訪れるスフェンに、リアトリスも重要な任務を秘密裏に遂行すべく、今回同行した。
けれど、それには厄介な事を勝手に付随された。
『せっかく継承試練の頃に訪問するのに、参加しないのも勿体無いと思ってね。リースの参加をこちらで申し込んでおいたから』
『なんなら、見事特別な猫の尻尾を探し出して来ればいい』
夫のきょうだいの、次男と長男である義理の兄二人は、数か月前にリアトリスをにんまりとした表情で揶揄った。
それに対して、リアトリスは眉をハの字にして、納得いかない不快感を全面に顔に描いたものだ。
キュウテオ国では、国の代表者が次代に譲る場合、とても稀有な方法を取る。世襲制や選挙制度ではない。ウルターヌスの月のとある日に、「継承試練の儀」と称された特殊な催しをするのだ。
それは、「特別な猫の尻尾探し」である。それを一番最初に見つけ、審査員に報告できた者が、キュウテオ国の代表者となれる。
そのことを、リアトリスは義兄たちから説明を受けた。
始めこそ異世界ならではの面白い選抜もあるものだと思っていたリアトリスであったが、それに参加させられるとあらば全くもって面白いわけがない。
義兄たちに何も知らされずに勝手に受付を済まされたことに、まず彼女は腹が立った。個人の自由や尊重を完全に無視されているのが、なんとも解せない。
リアトリスは、一国の主になりたいなどと微塵も思ってはないのだ。そのことが一番、彼女の不満を余計に煽った。彼女にとって集団の長を務めるのは容易ではなく、本質的にそれが明白に向いていないと自覚している。
『また、何よりも、真剣にその国のトップに立ちたいと望み、真面目に取り組もうとしている方に失礼でしょう』
「継承試練の儀」は、キュウテオ国の国長がその地位を次代に譲ろうと決断し、後継者が決まるまでの期間、一年に一度しか開催されない。また、一度参加して失格だった者は、二度と参加することは叶わないのだ。
それに勝手に第三者が応募して、勝手に応募された者が嫌々参加するなど、失礼極まりないとリアトリスは捲くし立てた。
『リースは頑固だね。いいんだよ、軽い気持ちで参加しても。一か八かで一攫千金を狙う者もいれば、自分が生きている間に参加できるのは今しかないだろうと、記念に参加する者だっている。今回で合格者が出るかどうかも定かではない。なんたって、「特別な猫の尻尾」は中々の強敵だからな。三年連続で、未だそれを見つけ出せた者はいない』
『エヴラールの言う通りだ。また、失礼なのは不承不承で望む己自身だろう? リースが至極真面目に取り組めば万事解決だ。それともなんだ。もう「特別な猫の尻尾」の見当がついてしまったとでも言いたいのか?』
『いいえ。「特別な猫の尻尾」と言われても、私にはさっぱり見当がつきません。ただ・・・・・・、そう、ですね。オディロンお義兄様のおっしゃることも一理あります。参加資格を得てしまった以上、私個人としても「特別な猫の尻尾」が果たしてどんなものかは気になりますので、その追究は私なりに努力してみようと思います』
『偉い。それでこそリースだ』
『エヴラール、あんまり冷やかすのはよくないな。それより、私も「特別な猫の尻尾」の正体は興味ある。キュウテオ国に生息する多くの猫の尻尾ってわけじゃなさそうだし』
スフェンも「特別な猫の尻尾」の解明をしたがっていたことを、リアトリスは思い出す。
『念のため伝えておくけど、審査員に「特別な猫の尻尾」として提示するため、キュウテオ国の可愛い猫の尾を切り落とすなんて野蛮なことしたら失格だからね』
『念のため伝えておきますが、それは明らかな動物虐待です。犯罪です。するわけがありません』
『普通はそう考えるんだけどね、過去にそんなことをした愚か者がいたのは事実さ。また、補足すると、短い尾の猫がいるのは、切られたわけではなく、元からそういう種類だよ』
『はい、ご忠告承りました。確かに前世では短い尻尾の猫は、尻尾だけ車に轢かれたと怖い勘違いをしていましたが・・・・・・。猫に数種類の尻尾があるのは、こちらの世界できちんと学びましたよ』
エヴラールとリアトリスは、そんなくだらない会話も繰り広げた。
『課題の「特別な猫の尻尾」だが、本当の猫の尻尾ではないのではないか? 「猫の尻尾」になぞらえた何かに、俺は思えるがな』
『まあ、俺もオディロンと同意見だよ。単なる猫の尻尾ではない気がする』
『ああ、そうだね』
リアトリスの義兄三人に、彼女自身心の中で大きく頷いていたものだ。
ただ、リアトリスの夫は違った。
『俺は、獣人族の線を疑うな』
『その意見も過去にはあったらしいけどね~。猫科の血が入った獣人族が自分の尻尾を審査員に見せたけど、合格者は一人もいなかったって聞いたよ』
『そうか、それは残念だ』
リアトリスの頭に浮かぶは、結構自信があったのにそれをエヴラールに遠回しに違うようだと諭され、少しがっかりした夫の顔。
暗がりに目が慣れ、ぼんやりと天井を見つめながら、リアトリスは夫や家族に会いたくなった。
リアトリスは三日後の「継承試練の儀」を終え、四日後には行きと同じくスフェンとオスカーと、このキュウテオ国を発ち、夫の祖国であるロムト国へ戻る予定だ。
それを頭では理解しているのに、寂しさがリアトリスから消えてくれない。その理由には、リアトリスがまだ新婚だということがあるのだろう。
また、このキュウテオ国で、夫たち付き合いの長い家族がいない中初めて、とある重大な任務をリアトリスが実行する不安があることも、要因に違いない。
「今更不安がってもどうしようもないじゃない。やるって決めたんだから、きっちりやり遂げて、無事家に帰ろう」
リアトリスは前世の言葉でそう決意すると、急に襲ってきた強い眠気に誘われて、ゆっくりと瞼を閉じたのだった。
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