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# 冬

運命のヒト⑪

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 足裏全体に手の感触を伝えるように、じんわりと触れていく。
 徐々に指圧に変化させて、反射区への刺激に移る。
 指を動かしながら、これまでのユウキの気持ちをひたすら話したくなった。

「私が転校してきた時ね、ユウキに助けられたんだ」

「俺が?」

「ユウキは覚えてないと思うけど、クラスに馴染めなかった私を、ユウキが救ってくれたの」

「そうだっけ……」

 私が鮮明に覚えていることを、ユウキは全く覚えていない。
 それくらい、人に優しくすることが、ユウキにとって当たり前ということだ。

「その時ね、私思ったんだ。この人の力になりたいって。みんなから人気者のユウキに、頼られる存在になりたいって」

「だから、俺が車イス生活になっても、近くに居てくれたのか」

「それだけじゃないよ。ただの承認欲求だけじゃない」

「どうして……そこまでして、俺に」

 ユウキからの問いに、私の指が止まった。
 心臓の鼓動が、指先からユウキに伝わっているような気がする。
 それでも、関係はない。
 ずっとずっと言いたかった、この溢れる気持ち。
 言いたくても言えなかった、この想いが……今。


「……ユウキのことが、好きだから」


 静まり返った体育館で、ユウキの涙が落ちる音がした。
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