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# 冬

運命のヒト①

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「皆さん、先日の資格試験、お疲れ様でした。合格者に認定書とバッジを差し上げますので、呼ばれたら前へ出てきてください。まずは……入来さん」

「はい!」

 試験日から数週間後、授業の時とは違って、先生はリラックスした状態で教壇に上がっていた。
 今まさに、待ち望んでいたプロライセンス認定書を、合格者に渡そうとしているところ。
 ちょうど一年前は、プロのリフレクソロジストになることを、心に決めていた頃だろう。
 この一年間は、本当にあっという間だった。
 
「次は……戸部君」

「はい!」

 戸部君とは試験の日から、踏み込んだ話をしようとは思えなかった。
 自分の気持ちも整理できていない状況で、何を話したらいいか未だにわかっていない。
 しっかり決断しないと、中途半端な向き合い方になってしまう。
 ユウキにしても、戸部君にしても。
 私はこの先、誰と手を繋ぎたいのか。
 悩みに悩んで悶々とした日々が、試験の日以来ずっと続いていた。

「最後に……早野さん」

「……はい!」

 試験には、みんな揃って合格することができた。
 試験前はプレッシャーで押しつぶされそうだったけど、蓋を開けてみたら、案外するっと解けるような問題だらけで、拍子抜けしてしまった。
 実技試験も慎重にこなすことができて、危なげなく合格することができたと言える。

「……以上です。このクラスは全ての生徒が一発合格ということで、非常に優秀だったと思います。あとは卒業式を残すのみとなりました。卒業するまでに、早いところ次の道を決めてしまいましょう」

 プロのリフレクソロジストになるということは、無事に達成できた。
 次に決めなければいけないのは、就職先だ。
 今の忙しい心理状態で、自分をアピールすることなんて、できるのだろうか。
 巨大な不安によって、これから訪れる春が、煩わしく感じる。
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