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# 冬

温もり⑤

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 私よりも早くここに来て、待ち伏せをしていたであろうユウキが、私の目に飛び込んできた。
 昨日見た顔とはどこか違って、柔和な表情をしている。
 朝から想定外のこと過ぎて、脳が上手く働かない。

「何でユウキがここに居るの……?」

「ごめん、突然来ちゃって。昨日、ナオのことも考えずに、グダグダ話しちゃったから。どうしても謝りたくてさ」

 朝一番だというのに、ユウキの声は昨日よりも活力を感じられる。
 言いたいことは整理できているみたいだ。
 まだ試験までは時間がある。
 ユウキの話をしっかり聞こうと、気を引き締め直す。

「いいや、私の方こそごめん。話を聞こうとしなかった」

「ナオが謝ることじゃないよ。俺……ちゃんと伝えたくて」

「何を?」

 周囲を行き交う人波は、今だけスローモーションに感じる。
 私たち以外の世界は、意識の外へ放り出されていた。

「俺……今まで自分が、厄介をかける人間だと思っていた。仲良くなった友達には、必ず手助けしてもらってたし。助けてもらう度に、歯痒く感じるんだ」

 ユウキの喉仏が動くと、連動して首元に巻いているマフラーも緩くなる。
 私の耳に入ってくるユウキの声が震えているのは、果たして寒さのせいなのか。
 それとも、今まで我慢していた気持ちを、腹の底から伝えようとしてくれているのか。
 その答えは、ユウキの目が物語っていた。

「だけど、ナオは違った。事故に遭った時から、ずっと俺を気にかけてくれている。本当に、感謝してもしきれないよ……ありがとう」

「私は当たり前の行動をしていたまでよ」

 これ以上ユウキに背負わせないように、あえて毅然とした態度で返答する。
 その態度を感じたユウキは、今日初めて視線を地面に移した。
 声の震えをさらに加速させながら、様子を伺うように声を出す。

「俺のために、セラピストを目指したことも?」
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