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# 冬

最後の難関④

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「ありがとう。実際のお客様だったら、とてもいい気分で帰れることでしょう。帰ったら仕事のことは忘れて、早めに寝ることにするわ。試験本番も、この調子で乗り越えてください」

 先生がサラッと言った期待の言葉が、リフレクソロジーを志して本当に良かったと思わせてくれる。
 その後は戸部君、入来ちゃんと施術が進んで行き、特に指導を受けることなく終えた。
 今日の手の感触は、絶対に忘れてはいけない。

「じゃあね、二人共。私は邪魔者みたいだから、先に帰るね」

 悪戯っぽくハニカミながら、入来ちゃんが私たちを残して駅へ走った。
 みんなが手ごたえのあった実技をすることができて、テンションが高くなっているのがわかる。
 入来ちゃんは、私と戸部君が付き合い始めた時から、何一つ距離感を変えることなく接してくれている。

「じゃあ、今日俺バイトだから。寄り道しないで帰るんだよ」

「わかってるよ、バイト頑張って」

 戸部君とも別れると、私は一直線に家へ帰ることに決めた。
 思えば、このチームで自主練ができるのも、あと少ししかない。
 残りの学校生活を目一杯楽しんで、みんなでプロのリフレクソロジストになる。
 そう考えると、やる気と寂しさが同時にこみ上げて来た。

「ナオさん?」

 自宅の最寄り駅に着いて、ロータリーを抜けた瞬間、聞き馴染みのある声が私を呼んだ。
 振り向くとそこには、予想した通りに岸井さんが立っていた。
 
「岸井さん、どうしたんですか?」

「いきなりごめんね。ここに居たらナオさんと会えると思って」
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