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# 冬

最後の難関①

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 カレンダーを新年用のものに切り替えて、たっぷりと正月休みを満喫する。
 滅多に見ることのない親戚のおじさんが家に来ると、積極的に足を貸してもらった。
 両親から正月休みくらい学校のことは忘れなさいって注意を受けたけど、普段触ったことのない足を見ると、どうしても施術をしたくなってしまう。
 大事な資格試験は、来月にやってくる。
 適度に指を動かしていないと、感覚が鈍くなるような気がした。

 休み明け一発目の授業は、異様な雰囲気に包まれていた。
 実技では全ての反射区を学び終えて、あとはのんびり座学を進めながら、試験対策をするだけ。
 今後やることは明確なのに、教壇に上がっている先生の目つきは、いつもより力が入っているように見える。

「皆さん、あけましておめでとうございます。本日からビシビシ試験対策を行っていきますからね。数日かけて、このクラスの生徒全員の施術を、私が受けさせてもらいます」

 先生が鋭い目をしていた理由が、これで明らかになった。
 いわゆる、最後の難関が待ち構えていたみたいだ。
 先生が直接足を貸してくれて、実際に指導をしていく。
 今までにない緊張感が、生徒全員を一瞬で飲み込んだ。

「早速今日からやっていきます。まずは……前の席から行きましょうか、早野さん準備してください」

「へ?」

 こんなときに限って、前の席から指名されることになるなんて。
 驚きが気の抜けた声に変わったまま、つい発してしまった。

「ナオちゃん、気楽にね」

 隣に座っている戸部君が、気を使って小声で話しかけてくれる。
 すぐさま戸部君の方に顔を向けて、怠そうな顔を作った。
 その顔を見て、笑いを堪えている戸部君を見ていると、案外簡単に乗り越えられる気になった。
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