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# 秋

クリスタル⑨

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「じゃあ、今日もよろしくお願いします!」

 初めて自主練をした日から、戸部君は足を貸してくれる方に、欠かさず一礼をする。
 そのやかましい声にはもう慣れたもので、最近は返事もしていない。
 黙って素足を差し出すと、戸部君は真剣な眼差しで足裏を直視する。
 その顔つきを見届けると、私はゆっくりと体を倒した。
 
 私の冷たい足と、戸部君の温かい手がぶつかって、ジーンと染みるような感覚が体を駆けていく。
 パウダーをつけて滑りやすくなった私の足は、物の見事に熱を帯びてきた。

「ナオちゃん、起きてる?」

 スタートから眠る気満々だったけど、頭は意図せずに冴えているみたい。
 寝ているふりなんてする必要もなく、しっかりと戸部君に返答する。

「起きてるよ。どうしたの?」
 
「いや、やっぱり眠れてないのかって」

「だって、まだ施術始めたばかりじゃない。そんなにすぐには眠れないよ」

「違う違う。今じゃなくて、最近だよ。寝れてないでしょ?」

「え、ま、まあ……」

 まさしくその通りだった。
 ユウキのことを考えてしまうせいで、満足に眠れない夜を重ねている。
 昨日に至っては、岸井さんの生の声が脳内でリピート再生されて、心が落ち着いた気になれなかった。

「やっぱりそうなんだ」

「どうしてわかったの?」

 戸部君の温かい手を前に、自分で考えることはできなくなっていた。
 直接、戸部君に聞いた方が早い。
 どうして、私が最近寝れないことがわかったのか。


「答えは簡単。クリスタルだよ」
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