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# 春

入学式⑨

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 小学校の時の友達というワードで、戸部君のことが頭を過ぎった。
 寸前まで名前を出そうか迷ったけど、やっぱり出すのはやめておこう。
 ユウキの頭に、サッカーを結び付けるような人物や言葉を入れたくはない。
 今までだって、そうやってきた。
 サッカーの話題を私からすることは、口が裂けてもできない。

「ナオは? 友達できた?」

「まだ一日目だよ? 無理言わないでよ」

「そうだよな。でもこういうのって最初が肝心でしょ。ナオが二年間一緒に過ごす友達なんだから」

 ユウキの言ってることは正しいけど、勘違いしていることが一点だけあった。
 指摘するのは面倒だけど、一応確認してみる。
 
「二年間ってどういうこと?」

「え、専門学校って二年制じゃないの」

「私の学校は一年制だよ」

 そう告げると、パッと後ろを振り返って、今まで見たこともない驚愕の表情をしている。

「えぇ!? 早くない? あ、養成学校だから?」

「いや、関係ないでしょ。二年制の養成学校もあるよ」

「まじか、じゃあ来年にはもう就職してるのか」

 就職……まあそういうことになる。
 一年通ってプロの資格を取ったら、私はサロンに就職するだろう。
 でも、今はその先のことを考えられない。
 ユウキのために、足のスペシャリストになる。
 そして一年後、ユウキの足に温もりを伝える。
 それ以上のことは、今はどうでも良かった。

「そういえばさ、何でセラピストの学校に行ったの?」


「え? えっと、それは……」
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