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# 春

入学式⑥

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「そういえば、みんな高校どこなの? 俺は野津川高校だけど、入来ちゃんは?」

「私は……白岩高校です」

 野津川高校と白岩高校。 
 どちらも名前しか聞いたことがないので、上手く会話を広げられない。
 数秒の間が空くと、二人の目線がこちらを向いている。
 次は自分の番かと、慌てて口を開く。

「あ、私は江戸山高校っていうところ」

 どうせ二人も、私の高校は聞いたことがないだろう。
 違う話題に切り替えようとしたところ、戸部君がまさかのリアクションをしてくれた。

「江戸山なんだ! めっちゃサッカー強いとこじゃん!」

 話を広げられるとは思っていなかったので、内心テンションが上がってしまう。
 そうか、部活の繋がりで知ってくれていることもあるのか。
 話について行けない入来ちゃんは、苦笑いをしながらよそ見をしている。

「そうだよ、今年は都大会で負けちゃったけどね」

「知ってる知ってる! 俺サッカー部だから! じゃあさ、林田勇気ってやつ聞いたことある?」

「え……」

 林田 勇気(はやしだ ゆうき)。紛れもなく、あのユウキのことだろう。
 ユウキは小学校からずっと、サッカーをやっていたから。
 戸部君が言っているユウキと、同一人物なのは明らかだった。

「うん、知ってる」

「ウソ!? 運命じゃん! 俺小学校の時にね、都の選抜で林田勇気と会ったことあるんだ! 風の噂で江戸山に行ったって聞いたからさ!」

「へぇー、ユウキってサッカー上手かったんだ……」

「上手いってもんじゃないよ! あいつは、間違いなく天才だった! でも高校では全く話題にならなかったな。サッカー続けてたの?」

「うーん、どうだっけ。わかんないや」

 咄嗟に知らないふりをしてしまった。
 この話を、早く切り上げたかったから。
 高校一年生の時、不慮の事故に見舞われて、大切なものを失ってしまったユウキの話を、これ以上したくなかった。
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