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# 春

入学式②

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「はい! 何でしょうか!」

 自分で思ってたよりも、倍くらいの声が出てしまった。
 その圧力にびっくりさせてしまったのか、後ろの女の子は少し引いている。

「あ、ごめんなさい。驚かせちゃったよね」

「いえ、大丈夫です。私、入来 雪穂(いりき ゆきほ)って言います」

 黒髪ショートに眼鏡をかけた、とてもチャーミングな女の子。
 丁寧に自己紹介を始めると、緊張しているせいか、話しながら下を向いてしまった。

「お、じゃあ入来ちゃんね! 俺は戸部 明(とべ あきら)! それで君は?」

 横向きの体勢に直した隣の茶髪が、何故か馴れ馴れしく会話に混ざってきた。
 私に自己紹介の流れを向けると、ニコっと微笑んで白い歯を見せる。

「私は早野 ナオ(はやの なお)。呼び方は早野でもナオでも好きな呼び方で呼んでください。よろしくお願いします」

 早口で自己紹介を済ませると、しばらくの沈黙が起きた。
 誰が会話をリードするのか、みんなが探っているようだ。
 案の定、隣の茶髪が会話のリズムを生み出してくれた。

「じゃあ俺はナオちゃんって呼ぶね! 入来ちゃんもそう呼びなよ!」

「わ、わかった。ナオちゃん、これからよろしくね!」

 おどおどしている姿が可愛くて、つい抱きしめたくなってしまう。
 良かった、仲良くなれそうな子が見つかって。 
 あとは……茶髪君も悪い人ではなさそうだけど、昔からこういうチャラい人間とは距離を置いてきた。
 戸部君か、まああんまり絡まなければ害はないだろう。
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