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2章 ユーカリとオレンジスイート
⑤
しおりを挟む 周りに聞こえないように、なるべく小さい声で話してみる。
僕の近くにいる生徒たちは、みんな先生の話を聞くのに夢中みたいで、僕の声なんか聞こえていない様子だ。
無駄な努力をしていたみたいで、それに気づいた莉緒ちゃんも笑っている。
「真輝人君……アロマオイル好きなの?」
「え?」
莉緒ちゃんは、僕が眺めているアロマオイルの方に目線を合わせながら、小さい声で質問をしてきた。別に、僕に合わせた声量にしなくてもいいはずだけど、これは莉緒ちゃんなりの気遣いだろう。
周りから浮かないように、小さい声で話してしまうのは、自分に自信がないからであって、それが男らしくないのはわかっている。わかってはいるけど……遠慮がちな自分の性格からしたら、致し方ないことなのだ。
「それ、持ってるのアロマオイルでしょ。何か甘い匂いがするから」
「え、よくわかったね。もしかして匂いする?」
「全然! 多分私にしか香り感じてないから、大丈夫だよ。昔から鼻が利くんだよね」
一応、小瓶の蓋が開いていないか確認してみる。もし蓋が開いていたら、僕の周りだけ不自然な甘い匂いが漂っていることになるだろう。
その原因が僕だと気づかれたら、夏休み明けに変わった趣味を始めた、痛いやつだと思われるはず。
完全に閉まり切っているのが確認できると、ほっと一安心できた。
それにしても、蓋を開けていない状態の、ほんの微かな匂いまで感知してしまうなんて、莉緒ちゃんの嗅覚に驚愕してしまう。
「すごいね。オイルを手に持ってる僕でさえも、あまり匂いを感じないのに」
「うん。何か敏感なんだよね、嗅覚だけ」
あれ? いつのまにか、自然体で話せている自分がいる。
初対面の人と、こんなに会話が続くなんて信じられない。
いや、莉緒ちゃんがフレンドリーなだけで、僕から話を振っているわけではないけど。それでも、このクラスの中で誰かと話せているという事実が凄いのだ。
満足感が心の中に現れると、それが顔に出てしまわないか、心配になった。
「はーい! そんなこんなで、これからまた学校が始まるから。いつまでも夏休み気分でいるんじゃないぞー」
先生の声が大きくなったと共に、莉緒ちゃんの視線も教壇の上に移った。
僕たちは先生の話を聞いていなかったけど、クラス中の生徒がにこやかな顔になっているのを見て、相当面白い話が展開されたと予想できる。
学年の人気者である井原先生の面白い話を聞かずに、僕との他愛もない会話に時間を使った莉緒ちゃんが、可哀想に思えてしまった。
朝のホームルームが終わると、そのまま始業式が開始された。
体育館に集合している全生徒を見渡してみると、目をしぱしぱさせている生徒が多いように見える。やはり、夏休み中に夜更かしし過ぎて、急には生活リズムを戻せなかったのだろう。
もちろん、僕もその一人である。
「この学校の校長先生はさ、話長くないんだね」
式が終わって教室に戻ると、莉緒ちゃんが新たな話題を持ちかけてきた。
僕が隣の席だから、こんなに話しかけてくれるのか。その真意はわからないけど、とにかく間を開けないようにして受け答えする。
「校長先生は話が長いイメージあるもんね」
「そうそう、前の学校なんて酷かったよ。途中から校長先生の自分語りが始まって、ほとんどの生徒の足が痺れたんだから」
「え、そうなの。じゃあこの学校はまだ恵まれてる方なんだ」
「校長先生だけで比べたら、天と地の差だね」
智也と話している時と同じくらい、違和感なく会話できている。
自分がこのクラスで笑いながら話せているなんて、夏休み中は想像もできなかった。その相手が、まさか女の子だとは……これも全くの想定外だ。
莉緒ちゃんは僕と当たり前のように話しているけど、果たして楽しいのだろうか。
クラスには面白い生徒がいっぱいいるし、僕よりも女子と仲良くなった方が良い気がする。
隣の席とはいえ、こんな根暗と接してくれるなんて、大事な初日を損しているとしか思えない。
そんな疑問を抱きつつも、莉緒ちゃんの話をしっかり頷きながら聞いていた。
僕の近くにいる生徒たちは、みんな先生の話を聞くのに夢中みたいで、僕の声なんか聞こえていない様子だ。
無駄な努力をしていたみたいで、それに気づいた莉緒ちゃんも笑っている。
「真輝人君……アロマオイル好きなの?」
「え?」
莉緒ちゃんは、僕が眺めているアロマオイルの方に目線を合わせながら、小さい声で質問をしてきた。別に、僕に合わせた声量にしなくてもいいはずだけど、これは莉緒ちゃんなりの気遣いだろう。
周りから浮かないように、小さい声で話してしまうのは、自分に自信がないからであって、それが男らしくないのはわかっている。わかってはいるけど……遠慮がちな自分の性格からしたら、致し方ないことなのだ。
「それ、持ってるのアロマオイルでしょ。何か甘い匂いがするから」
「え、よくわかったね。もしかして匂いする?」
「全然! 多分私にしか香り感じてないから、大丈夫だよ。昔から鼻が利くんだよね」
一応、小瓶の蓋が開いていないか確認してみる。もし蓋が開いていたら、僕の周りだけ不自然な甘い匂いが漂っていることになるだろう。
その原因が僕だと気づかれたら、夏休み明けに変わった趣味を始めた、痛いやつだと思われるはず。
完全に閉まり切っているのが確認できると、ほっと一安心できた。
それにしても、蓋を開けていない状態の、ほんの微かな匂いまで感知してしまうなんて、莉緒ちゃんの嗅覚に驚愕してしまう。
「すごいね。オイルを手に持ってる僕でさえも、あまり匂いを感じないのに」
「うん。何か敏感なんだよね、嗅覚だけ」
あれ? いつのまにか、自然体で話せている自分がいる。
初対面の人と、こんなに会話が続くなんて信じられない。
いや、莉緒ちゃんがフレンドリーなだけで、僕から話を振っているわけではないけど。それでも、このクラスの中で誰かと話せているという事実が凄いのだ。
満足感が心の中に現れると、それが顔に出てしまわないか、心配になった。
「はーい! そんなこんなで、これからまた学校が始まるから。いつまでも夏休み気分でいるんじゃないぞー」
先生の声が大きくなったと共に、莉緒ちゃんの視線も教壇の上に移った。
僕たちは先生の話を聞いていなかったけど、クラス中の生徒がにこやかな顔になっているのを見て、相当面白い話が展開されたと予想できる。
学年の人気者である井原先生の面白い話を聞かずに、僕との他愛もない会話に時間を使った莉緒ちゃんが、可哀想に思えてしまった。
朝のホームルームが終わると、そのまま始業式が開始された。
体育館に集合している全生徒を見渡してみると、目をしぱしぱさせている生徒が多いように見える。やはり、夏休み中に夜更かしし過ぎて、急には生活リズムを戻せなかったのだろう。
もちろん、僕もその一人である。
「この学校の校長先生はさ、話長くないんだね」
式が終わって教室に戻ると、莉緒ちゃんが新たな話題を持ちかけてきた。
僕が隣の席だから、こんなに話しかけてくれるのか。その真意はわからないけど、とにかく間を開けないようにして受け答えする。
「校長先生は話が長いイメージあるもんね」
「そうそう、前の学校なんて酷かったよ。途中から校長先生の自分語りが始まって、ほとんどの生徒の足が痺れたんだから」
「え、そうなの。じゃあこの学校はまだ恵まれてる方なんだ」
「校長先生だけで比べたら、天と地の差だね」
智也と話している時と同じくらい、違和感なく会話できている。
自分がこのクラスで笑いながら話せているなんて、夏休み中は想像もできなかった。その相手が、まさか女の子だとは……これも全くの想定外だ。
莉緒ちゃんは僕と当たり前のように話しているけど、果たして楽しいのだろうか。
クラスには面白い生徒がいっぱいいるし、僕よりも女子と仲良くなった方が良い気がする。
隣の席とはいえ、こんな根暗と接してくれるなんて、大事な初日を損しているとしか思えない。
そんな疑問を抱きつつも、莉緒ちゃんの話をしっかり頷きながら聞いていた。
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