67 / 84
六章 生きて……
最後のクリスマス④
しおりを挟む
十二月は、街の移り変わりがとにかく激しい。
イルミネーションや美しいネオンが存在感を放って、電光掲示板から流れる音楽はお決まりのクリスマスソングだ。
年に一度の大イベントがやって来るのを、国民全員が期待していただろう。
徐々に街が色づいていくのを感じながら、私もその日を今か今かと待ちわびた。
今日という、この日を。
今日、つまりクリスマスの日を迎えるまで、頭から匠さんのことがいなくなることはなかった。
ずっと存在し続けていて、考え過ぎて胸が苦しくなる日もあった。
今日という日を、匠さんと二人で無事に迎えられたことが、どんなに幸せなことか。
匠さん自体が、それを一番実感しているかもしれない。
「いらっしゃいませ。どうぞこちらに」
まるでお客さんを扱うみたいに、丁寧にチェアまで誘導してくれた。
一か月前に比べて、また一段と痩せたように見える。
でも、今日ばかりは、匠さんの健康状態を考えるのはやめよう。
この一か月で相当気にかけたし、匠さんも今日くらいは心配してほしくないと思っているはずだ。
ただ楽しむことだけを胸に決めて、座り慣れたチェアに腰掛けた。
「ようやく、クリスマスだね」
匠さんがそう言うと、店内のBGMがクリスマスソングのオルゴールに切り替わった。
サロンの中もクリスマス仕様に変化して、私の顔にも綻びが出始める。今日は、これで良いんだ。
匠さんの辛い現実は忘れて、純粋な気持ちでクリスマスを楽しまないと。
そうじゃないと、匠さんが楽しめないはずだから。
「でも、いいんですか? 私が施術を受けちゃって」
「当たり前でしょ! これは俺からのクリスマスプレゼントだから」
鼻歌交じりに、私の足裏を包み込む。
こんなに冷えた日が続いているというのに、匠さんの手は春の陽気くらいに温かい。
足の中にある疲労感が溶けていくように感じて、寒さで硬直気味だった筋肉も柔らかくなっていった。
どうして、こんなにも匠さんの施術は上手なのか。
そもそも匠さんは、どうしてリフレクソロジーを極めようと思ったのか。
匠さんとリフレクソロジーの歩みを知りたくなってしまって、このタイミングで聞いてみることにした。
「そういえば、匠さんがリフレクソロジーを始めたきっかけって、何なんですか?」
気持ち良さそうに奏でていた鼻歌が、私の質問と共にピタッと止まった。
指の動きも一旦停止しており、あまり話したくないことを聞いてしまったのかと、内心ドキドキしてしまう。
だけど、匠さんの口角は上がりっぱなしで、目尻も垂れ落ちているように見える。
過去を振り返るように思い出し笑いをしながら、止まっていた動作を再開させた。
「俺がリフレクソロジーを始めたきっかけはね……」
嫌な顔を一つも見せることなく、整理しながら話そうとしてくれる様子に、改めて誠実さを感じた。
匠さんの世界にお邪魔するように、その語り出しに対して礼をする。
イルミネーションや美しいネオンが存在感を放って、電光掲示板から流れる音楽はお決まりのクリスマスソングだ。
年に一度の大イベントがやって来るのを、国民全員が期待していただろう。
徐々に街が色づいていくのを感じながら、私もその日を今か今かと待ちわびた。
今日という、この日を。
今日、つまりクリスマスの日を迎えるまで、頭から匠さんのことがいなくなることはなかった。
ずっと存在し続けていて、考え過ぎて胸が苦しくなる日もあった。
今日という日を、匠さんと二人で無事に迎えられたことが、どんなに幸せなことか。
匠さん自体が、それを一番実感しているかもしれない。
「いらっしゃいませ。どうぞこちらに」
まるでお客さんを扱うみたいに、丁寧にチェアまで誘導してくれた。
一か月前に比べて、また一段と痩せたように見える。
でも、今日ばかりは、匠さんの健康状態を考えるのはやめよう。
この一か月で相当気にかけたし、匠さんも今日くらいは心配してほしくないと思っているはずだ。
ただ楽しむことだけを胸に決めて、座り慣れたチェアに腰掛けた。
「ようやく、クリスマスだね」
匠さんがそう言うと、店内のBGMがクリスマスソングのオルゴールに切り替わった。
サロンの中もクリスマス仕様に変化して、私の顔にも綻びが出始める。今日は、これで良いんだ。
匠さんの辛い現実は忘れて、純粋な気持ちでクリスマスを楽しまないと。
そうじゃないと、匠さんが楽しめないはずだから。
「でも、いいんですか? 私が施術を受けちゃって」
「当たり前でしょ! これは俺からのクリスマスプレゼントだから」
鼻歌交じりに、私の足裏を包み込む。
こんなに冷えた日が続いているというのに、匠さんの手は春の陽気くらいに温かい。
足の中にある疲労感が溶けていくように感じて、寒さで硬直気味だった筋肉も柔らかくなっていった。
どうして、こんなにも匠さんの施術は上手なのか。
そもそも匠さんは、どうしてリフレクソロジーを極めようと思ったのか。
匠さんとリフレクソロジーの歩みを知りたくなってしまって、このタイミングで聞いてみることにした。
「そういえば、匠さんがリフレクソロジーを始めたきっかけって、何なんですか?」
気持ち良さそうに奏でていた鼻歌が、私の質問と共にピタッと止まった。
指の動きも一旦停止しており、あまり話したくないことを聞いてしまったのかと、内心ドキドキしてしまう。
だけど、匠さんの口角は上がりっぱなしで、目尻も垂れ落ちているように見える。
過去を振り返るように思い出し笑いをしながら、止まっていた動作を再開させた。
「俺がリフレクソロジーを始めたきっかけはね……」
嫌な顔を一つも見せることなく、整理しながら話そうとしてくれる様子に、改めて誠実さを感じた。
匠さんの世界にお邪魔するように、その語り出しに対して礼をする。
0
お気に入りに追加
0
あなたにおすすめの小説
深見小夜子のいかがお過ごしですか?
花柳 都子
ライト文芸
小説家・深見小夜子の深夜ラジオは「たった一言で世界を変える」と有名。日常のあんなことやこんなこと、深見小夜子の手にかかれば180度見方が変わる。孤独で寂しくて眠れないあなたも、夜更けの静かな時間を共有したいご夫婦も、勉強や遊びに忙しいみんなも、少しだけ耳を傾けてみませんか?安心してください。このラジオはあなたの『主観』を変えるものではありません。「そういう考え方もあるんだな」そんなスタンスで聴いていただきたいお話ばかりです。『あなた』は『あなた』を大事に、だけど決して『あなたはあなただけではない』ことを忘れないでください。
さあ、眠れない夜のお供に、深見小夜子のラジオはいかがですか?
助けてください!エリート年下上司が、地味な私への溺愛を隠してくれません
和泉杏咲
恋愛
両片思いの2人。「年下上司なんてありえない!」 「できない年上部下なんてまっぴらだ」そんな2人は、どうやって結ばれる?
「年下上司なんてありえない!」
「こっちこそ、できない年上の部下なんてまっぴらだ」
思えば、私とあいつは初対面から相性最悪だった!
人材業界へと転職した高井綾香。
そこで彼女を待ち受けていたのは、エリート街道まっしぐらの上司、加藤涼介からの厳しい言葉の数々。
綾香は年下の涼介に対し、常に反発を繰り返していた。
ところが、ある時自分のミスを助けてくれた涼介が気になるように……?
「あの……私なんで、壁ドンされてるんですか?」
「ほら、やってみなよ、体で俺を誘惑するんだよね?」
「はあ!?誘惑!?」
「取引先を陥落させた技、僕にやってみなよ」
氷の貴婦人
羊
恋愛
ソフィは幸せな結婚を目の前に控えていた。弾んでいた心を打ち砕かれたのは、結婚相手のアトレーと姉がベッドに居る姿を見た時だった。
呆然としたまま結婚式の日を迎え、その日から彼女の心は壊れていく。
感情が麻痺してしまい、すべてがかすみ越しの出来事に思える。そして、あんなに好きだったアトレーを見ると吐き気をもよおすようになった。
毒の強めなお話で、大人向けテイストです。
実力を隠し「例え長男でも無能に家は継がせん。他家に養子に出す」と親父殿に言われたところまでは計算通りだったが、まさかハーレム生活になるとは
竹井ゴールド
ライト文芸
日本国内トップ5に入る異能力者の名家、東条院。
その宗家本流の嫡子に生まれた東条院青夜は子供の頃に実母に「16歳までに東条院の家を出ないと命を落とす事になる」と予言され、無能を演じ続け、父親や後妻、異母弟や異母妹、親族や許嫁に馬鹿にされながらも、念願適って中学卒業の春休みに東条院家から田中家に養子に出された。
青夜は4月が誕生日なのでギリギリ16歳までに家を出た訳だが。
その後がよろしくない。
青夜を引き取った田中家の義父、一狼は53歳ながら若い妻を持ち、4人の娘の父親でもあったからだ。
妻、21歳、一狼の8人目の妻、愛。
長女、25歳、皇宮警察の異能力部隊所属、弥生。
次女、22歳、田中流空手道場の師範代、葉月。
三女、19歳、離婚したフランス系アメリカ人の3人目の妻が産んだハーフ、アンジェリカ。
四女、17歳、死別した4人目の妻が産んだ中国系ハーフ、シャンリー。
この5人とも青夜は家族となり、
・・・何これ? 少し想定外なんだけど。
【2023/3/23、24hポイント26万4600pt突破】
【2023/7/11、累計ポイント550万pt突破】
【2023/6/5、お気に入り数2130突破】
【アルファポリスのみの投稿です】
【第6回ライト文芸大賞、22万7046pt、2位】
【2023/6/30、メールが来て出版申請、8/1、慰めメール】
【未完】
崖先の住人
九時木
ライト文芸
『深淵をのぞく時、深淵もまたこちらを覗いている』
大学生の「僕」は、夢を通して心の研究をしていた。しかし、研究を進めていくうちに、段々と夢と現実の境目を見失うようになっていた。
夢の中の夢、追い詰められる夢、過去を再現した夢。錯綜する夢の中で、僕は徐々に自分自身が何者であるかを解き明かしていく。
百々五十六の小問集合
百々 五十六
ライト文芸
不定期に短編を上げるよ
ランキング頑張りたい!!!
作品内で、章分けが必要ないような作品は全て、ここに入れていきます。
毎日投稿頑張るのでぜひぜひ、いいね、しおり、お気に入り登録、よろしくお願いします。
推し活アラサー女子ゆっこのちょっと不思議な日常
日夏
ライト文芸
親友のなっちゃんこと結城那智(ゆうきなち)とその恋人麻生怜司(あそうれいじ)のふたりを一番近くで応援する、ゆっここと平木綿子(たいらゆうこ)のちょっと不思議な日常のお話です。
2024.6.18. 完結しました!
☆ご注意☆
①この物語はフィクションであり、実在の人物及び団体とは 一切関係ありません。
②タイトルに*がつくものは、年齢制限を含む文章表現がございます。
背景にご注意ください。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる