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六章 生きて……

最後のクリスマス④

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 十二月は、街の移り変わりがとにかく激しい。
 イルミネーションや美しいネオンが存在感を放って、電光掲示板から流れる音楽はお決まりのクリスマスソングだ。
 年に一度の大イベントがやって来るのを、国民全員が期待していただろう。
 徐々に街が色づいていくのを感じながら、私もその日を今か今かと待ちわびた。
 今日という、この日を。

 今日、つまりクリスマスの日を迎えるまで、頭から匠さんのことがいなくなることはなかった。
 ずっと存在し続けていて、考え過ぎて胸が苦しくなる日もあった。
 今日という日を、匠さんと二人で無事に迎えられたことが、どんなに幸せなことか。
 匠さん自体が、それを一番実感しているかもしれない。

「いらっしゃいませ。どうぞこちらに」

 まるでお客さんを扱うみたいに、丁寧にチェアまで誘導してくれた。
 一か月前に比べて、また一段と痩せたように見える。
 でも、今日ばかりは、匠さんの健康状態を考えるのはやめよう。
 この一か月で相当気にかけたし、匠さんも今日くらいは心配してほしくないと思っているはずだ。
 ただ楽しむことだけを胸に決めて、座り慣れたチェアに腰掛けた。

「ようやく、クリスマスだね」

 匠さんがそう言うと、店内のBGMがクリスマスソングのオルゴールに切り替わった。
 サロンの中もクリスマス仕様に変化して、私の顔にも綻びが出始める。今日は、これで良いんだ。
 匠さんの辛い現実は忘れて、純粋な気持ちでクリスマスを楽しまないと。
 そうじゃないと、匠さんが楽しめないはずだから。

「でも、いいんですか? 私が施術を受けちゃって」

「当たり前でしょ! これは俺からのクリスマスプレゼントだから」

 鼻歌交じりに、私の足裏を包み込む。
 こんなに冷えた日が続いているというのに、匠さんの手は春の陽気くらいに温かい。
 足の中にある疲労感が溶けていくように感じて、寒さで硬直気味だった筋肉も柔らかくなっていった。
 どうして、こんなにも匠さんの施術は上手なのか。
 そもそも匠さんは、どうしてリフレクソロジーを極めようと思ったのか。
 匠さんとリフレクソロジーの歩みを知りたくなってしまって、このタイミングで聞いてみることにした。

「そういえば、匠さんがリフレクソロジーを始めたきっかけって、何なんですか?」

 気持ち良さそうに奏でていた鼻歌が、私の質問と共にピタッと止まった。
 指の動きも一旦停止しており、あまり話したくないことを聞いてしまったのかと、内心ドキドキしてしまう。
 だけど、匠さんの口角は上がりっぱなしで、目尻も垂れ落ちているように見える。
 過去を振り返るように思い出し笑いをしながら、止まっていた動作を再開させた。

「俺がリフレクソロジーを始めたきっかけはね……」
 
 嫌な顔を一つも見せることなく、整理しながら話そうとしてくれる様子に、改めて誠実さを感じた。
 匠さんの世界にお邪魔するように、その語り出しに対して礼をする。
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