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五章 ずっと、ずっと、想ってる

強い心③

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 私の目に飛び込んできたのは、制服を着た女の子が、反対側から線路内に侵入していたところだった。
 遮断機を潜り抜けて、もうまもなくやって来る電車を迎え入れようとしている。
 私は反射的に、人生史上最も大きい声を出した。
 そんなの聞くわけもない女の子は、目を瞑りながらその時を待っているようだ。
 
 体が……勝手に動いていった。
 私の性格だったら、こういう時は足が震えて動かない性格だと思っていたのに。
 なんだ、私にも勇気ってあるんだ。
 頭の片隅でそんなことを考えながら、私も遮断機を潜って、女の子の肩を揺さぶる。
 電車はまだ見えないけど、ここでグダグダやり取りしていたら、無惨に轢かれてしまうかもしれない。
 揺さぶっても動こうとしないので、体ごと引っ張るようにした。

「何やってるの!? 早くこっち来て!」

「やめてください! 私は死にたいんです!」

「そんなのダメに決まってるでしょ! 話聞いてあげるから、とりあえずこっちに!」

 全体重を外側に向けて、女の子を線路の外に引っ張り出すことに成功した。
 その十秒後に、こっちの事情は何にも知らない電車が、大きな音を立てて通過していく。
 私もこの女の子も、地面に尻もちをついたまま、しばらくの間は大袈裟な息継ぎを繰り返すことしかできないでいた。
 何が起きたかもわからなくなるくらいに、女の子は呆然としている。
 先に呼吸の乱れが治まってきた私は、すぐに事情を聞き出すことにした。

「ねぇ、どうしてこんなことするの?」

 その問いを聞いた女の子は、ギロッとした視線でこちらを睨んでくる。
 この目は……前に私が、匠さんに向けた視線と同じ鋭さだろう。
 その目を知っている私からしたら、動じるわけがない。
 牽制したくなる気持ちはわかるけど、溜め込んでいた思いを全て吐き出すことが、大きな慰めに繋がる。
 あの時の匠さんになったつもりで、この女の子の気持ちを逆撫でしないように、私なりに寄り添ってみた。

「良かったら……私に話してみて。もしかしたら、スッキリするかもしれないから」

 お姉さんぶってるのは自分でもわかるけど、これ以上最適な引き出し方が思いつかなかった。
 女の子は俯くようにして、死にたくなった理由を口にするか迷っている。そう簡単に、腹の内側を見せてはくれないか。
 前の私もそうだったはず。
 何で見ず知らずの他人に、自分が死にたくなった理由を話さなければいけないのか……そんな怒りにも似た感情を抱いただろう。
 この女の子も、きっと心の中で、そう考えているに違いない。
 だったら……次に私がかける言葉って……。

「じゃあ、その理由を教えてくれたら、帰してあげる」

 きっと、怒りを通り越して呆れてしまっただろう。
 きょとんとした目つきを見ていれば、誰でも判断がつく。本当に、あの時の私と全く同じリアクションだ。
 匠さんと同じセリフを言って、あの時の私と同じような呆れ顔をしているこの女の子を見ていたら、何だか面白くなってしまった。
 緊張感を纏った自分の表情が、不覚にも崩れてしまう。

「な、何で笑ってるんですか!?」

 口元がニヤリとしたのを見られてしまうと、今にも飛びかかってきそうな形相で迫られた。
 我慢できなかった自分を反省するかのように、再び深刻さを顔つきに乗せる。
 なかなか話し出してくれないのなら、こっちのペースに引き込むしかない。
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