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四章 これが人生

悲しみを背負って①

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 無気力状態というのは、しつこいくらいに私を束縛する。
 風太君が衝撃の一言を口にした日から、私は魂が抜けたように暮らしていた。
 単位を落とさない程度に授業を受けて、余裕がある時は積極的にサボる。
 普段だったらズル休みをしないような私だけど、今はなるべくエネルギーを使いたくはない。
 授業が終わったらすぐ家に帰ってきて、エアコンの冷気を浴びる。大学に行かない日は、一日中ベッドの上でゴロゴロする。
 そんな生産性のない日々を、ここ最近はずっと繰り返していた。

 こないだまで初夏の暑さレベルだったのに、今では連続で真夏日を記録するなど、いよいよ本格的な夏に突入した。
 天気予報が、気怠くなるような情報を教えてくれる中、私はソファーの上で、横になっている。
 今日は、本来ならば匠さんのサロンに行く予定の日なのに……。

 匠さんが死ぬという、とても受け入れられない風太君のカミングアウトに、私の毎日は完全に狂わされている。
 食欲は減退したし、やる気も起きなくなってしまった。そのせいで、匠さんのサロンにも全く行けていない。
 もう何週連続で行っていないのか……数える気になれなかった。
 間違いなく、匠さんは心配しているだろうな。

”ブー、ブー”

 テレビを消して寝返りをうったタイミングで、スマホのバイブレーションが響く。
 素早く開いて確認してみると、一通のメッセージが届いていた。
 送り主は、ユウだった。
『久しぶりに仕事が早く終わったから、今から会わないか』という、心が躍るような文面が目に飛び込む。
 その文面が見えた瞬間に、私はソファーから立ち上がって、すぐに着替えを始めた。
 こういう荒んだ精神状態の時は、誰かに話を聞いてもらった方が良い。
 一人で抱えようとしないで、誰かを頼ってもいいんだ。
 だって私は、一人じゃないから。
 匠さんから教えてもらったことを思い出して、ユウに『私も会いたい』と即返信した。

 高校の頃よく通っていた、あの並木道で待ち合わせ。桜の木からは緑色の葉っぱが茂っていて、セミの声が鳴き立てている。
 少し早めに着いて、木陰の下でユウを待つ。この時さえも、頭の中は匠さんのことでいっぱいだった。
 ユウが到着するその瞬間まで、一ミリもブレることなく、匠さんの行く末についてを考えていた。

「栞! お待たせ!」

 高校の時から垢抜けたように、ビジネススーツを着こなしているユウが、飛び切りの笑顔と共に現れた。
 髪は後ろで一本にまとめており、違和感のないナチュラルメイクが大人っぽさを演出している。
 高校の時から、たいして変わっていない自分の私服が、恥ずかしく思えてきた。

「ユウ、すっかり社会人だね」

「まだまだペーペーだよ。栞も元気そうで良かった」

 久しぶりに会ったのに、久しぶりな気がしない。高校の時と、全く同じノリで接することができる。
 ここ最近、どれだけ私の体は縮こまっていたのだろうか……ユウの顔を見たら、全身の筋肉が緩んでいくように感じた。

「それじゃあ、行こうか!」

 ユウに先導されるように、駅前まで歩いていく。
 今日私を誘ったのは、目当てのスイーツバイキングがあるかららしい。
 こないだオープンしたばっかりのお店で、次に早上がりした時は、私を誘って訪れようと心に決めていたんだとか。
 甘いものだったら、食欲がない私でも食べることができそうだ。
 綺麗なビルの中にあるお店に入ると、ちょうど放課後を楽しんでいる女子高校生たちで、店内は溢れていた。
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