34 / 38
婚約者編
【閑話】合唱団
しおりを挟む孤児院の女児達が、アマリリスのユープのメロディーに歌詞をつけ、口ずさんでいる。
「私たち、仲良し、ランランラン・・・・・。ルンルンルン・・・・・♪」
「お星さま、キラキラ、きれいだな・・・・。流れ星、シュー、きれいだな・・・・♪」
大きな女児達が中心になって歌詞をつけている。アマリリスは、この事をマーガレットに話した。マーガレットは、何か思いついたようで、笑顔になる。
「合唱団作ったら? 」
「合唱団? 」
「えぇ、この国では、皆、同じメロディーで歌を歌うでしょう。お父様から聞いたことがあるんだけど、他の国では、合唱というのがあるそうよ。複数の人が、高い声、低い声、中間の声に分かれて、音程をズラして、一緒に歌うそうよ。それが、とても音が、はもってきれいなんですって」
「おもしろそうね」
アマリリスは、マーガレットの提案を受け入れた。新しい試みにわくわくする。アマリリスは、マーガレットを友人として孤児院の子供達に紹介をした。名前は、ゼラニウム伯爵から、ゼラとした。マーガレットもアマリリスと同じく質素なワンピースを着て、ヤシの実の葉で編んだアマリリスとお揃いの帽子を被っている。
アマリリスたちは、孤児院の女児達の合唱団を作った。名前は、女児達が付けてくれた。メルゼラ合唱団。伴奏をホープにするか悩んだが、ホープの音が、女児達の声で消えてしまうため、ピアノにした。
ピアノが必要なため、アマリリスは、公爵令嬢とは、隠し、メルローズ公爵家から、ピアノを孤児院に寄付した。子供たちは大喜び。アマリリスが、指揮者で、マーガレットが伴奏のピアノを弾くことになった。女児達を高い声、低い声、中間の声の三つのパートに分けた。パートごとの音程は、マーガレットが指導していた。女児達は、一生懸命練習をした。バック作りなどしている時も口ずさんでいた。
アマアリリスのホープの演奏会の演奏後、孤児院の女児達が合唱するようになった。合唱は、好評で、あっという間に人気になった。この国では、複数の人が、音程やメロディーをズラして一緒に歌うことがなかった。同じメロディを違う音程で歌うハモリが新鮮だった。とても歌声が、綺麗だった。いつの間にか、合唱に憧れて、孤児院以外の街に住む女児達もメルゼラ合唱団に入団するようになった。今では、四十名の女児達が入団している。
***
レオナードは、執務が終わり、アマリリスとお茶をしようと思い、アマリリスの部屋へ向かった。今、王太子妃教育を受けているはず。もう終わったころだろうと思い、部屋へ入ると、誰もいない。アマリリス担当の王宮侍女に聞くと、アマリリスはもう今日の王太子妃教育は終わってしまったそうだ。
実は、前回も部屋に行ったら、いなかった。今日と同じくもう王太子妃教育は終わったとのことだった。(じゃ、部屋にいないリリーは、何処に行ったんだ? 前回は、合唱の練習をしていたそうだ。今日もそうなのだろうか?)
レオナードは、訝しむ。
レオナードは、王宮内にまだアマリリスが居るかもしれないと思い、探しに、廊下を歩いていた。すると、クゥーと小鳥三羽が一緒にいるところを見つけた。小鳥の一羽は、ぴーちゃん。
(なぜ、ここに、クゥーが?)
ここは、動物は入ることができない。クゥーを遠目からよく見ると、クゥーは、この王宮内に入る許可書を首から下げていた。ぴーちゃんとぴーちゃんの友達二羽も手作りらしい小さな許可書を首から下げている。
(これは、リリーが用意したのか?)
クゥーはレオナードと一瞬目が合ったが、すぐ逸らし、ぴーちゃん達と奥に進んで行く。レオナードは、クゥー達に付いて行こうと思い、クゥーのところにむかったが、見失ってしまった。結局、アマリリスとレオナードは、会うことはできなかった。
次の日、学園に向かう馬車でレオナードがアマリリスに聞くと、合唱の練習に行ってた言う。クゥーとぴーちゃんについては、「さぁ? わからないわ」と目をそらして答える。ピーちゃんに聞くとレオナードを見て、「チュッ、チュッ、チュッ」と鳴いて、何か伝えようとしている。レオナードには、何を伝えようとしているか全くわからない。クゥーにレオナードが、聞くと、涼しそうな顔をして、そっぽを向く。
(一体、なんなんだ?)
レオナードは、訝しむ。
街での合唱の評判を知り、王妃は、貴族たちの前でも合唱して欲しいとアマリリスに頼む。貴族の子供達が聴けるよう休みの昼間に、メルゼラ合唱団の合唱を王宮の広場で行うことになった。王族をはじめ、多くの貴族達が集まっていた。
女児達は、王宮内に初めて入る。とても緊張していた。
「みんな、深呼吸よ。大丈夫よ」
アマリリスは、安心させるように言う。女児達は、アマリリスとマーガレットが被っている帽子と同じヤシの実の葉で編んだ帽子を被っている。皆、自分で作った。そして、白いワンピースを着て、胸元にドライになったミモザで使った手作りのブローチをつけている。白いワンピースは、内緒でメルローズ公爵家が用意した。アマリリスとマーガレットも同じく白いワンピースに同じブローチをつけ、帽子を被っている。
「さぁ、行くわよ! 」
女児たちは、頷く。
レオナードの前では、メルゼラ合唱団が合唱している。アマリリスが指揮をとり、マーガレットがピアノで伴奏をしている。とても歌声は、きれい。ハモリもきれい。そして、ユープの演奏会後にいつも歌う2曲が歌い終わると、会場から大きな拍手が送られた。そして、アマリリスがいなくなる。
指揮者なしで、ピアノの伴奏に合わせて、メルゼラ合唱団は歌っている。すると、合唱団の前にアマリリスを先頭に、リズムに合わせながら、体を揺らし、ユリナ伯爵令嬢、アンナ王女、ローズ公爵令嬢、そして、クゥーが出てきた。
ユリナ伯爵令嬢とローズ公爵令嬢はアンナ王女の友人。この三人も合唱団と同じ格好をしている。クゥーは白い布をまとって、皆と同じ帽子を首にかけている。アンナ王女の肩にはぴーちゃんがとまっている。二人の令嬢には、ぴーちゃんの友達が肩にとまっている。
アンナ王女と令嬢達も一緒に合唱に混ざった。
レオナードの隣に座っていた王妃は、
「まぁ、素敵! 」
両手を合わせ、うっとりしている。
「「アンナ王女率いる合唱団、ららら・・・・、私たち、仲良し、ららら・・・・♪
アンナ王女率いる合唱団、ルルル・・・・、動物たちとも仲良し、ルルル・・・・♪
さぁ、クゥー」」
「ワン、ワン、ワォーン」
クゥーが吠える。
「「次は、小鳥達」」
「チュッ、チュッ、チュッ」
ぴーちゃんとぴーちゃんのお友達が鳴く。
「「私たち仲良し・・・・。アンナ王女率いる合唱団・・・・♪」」
最後は、小鳥達、クゥーも一緒に歌っていた。
歌い終わると、会場から大きな拍手が送られた。子供たちは、「私もアンナ王女率いる合唱団に入りたい」とか「あの犬、欲しい」とか「あの小鳥、飼いたい」とか親に話している声が聞こえてきた。
クゥーとぴーちゃん達は、この練習のために王宮に来ていた。首から下げてた許可書は、アンナ王女が用意したものだった。
アマリリスは、アンナ王女たちが合唱をしたく、頼まれ、王太子妃教育を早めに切り上げ、合唱の指導をしていた。
(さぁ、これで、リリーと、今日から、王太子妃教育の後、一緒にお茶ができる!)
レオナードは、アマリリスの部屋へ行ったが、誰もいない。アマリリス担当の王宮侍女に聞くと、もう今日の王太子妃教育は終わってしまったとのこと。この後も何回か同じことが続き、レオナードは、アマリリスと王太子妃教育の後、一緒にお茶が飲めなかった。アマリリスに聞くと、合唱の練習に行っていると言う。メルゼラ合唱団は、マーガレットもいる。(
そんなに、リリーがいる必要あるのか?)
レオナードは訝しむ。
今日は、夜会で、レオナードは、アマリリスをエスコートして、会場入りし、今、ダンスを踊っている。
「今日も綺麗だ。今日のドレスは、皆、シンプルだな。いつもと違って、ウエストが絞られてないドレスを着ている御夫人が多いようだな」
「そ、・・そうね」
アマリリスは、視線をレオナードから、逸らす。
ダンスが終わると、会場にあるピアノの前に王妃や御夫人達が集まりだした。マーガレットに呼ばれ、アマリリスも向かう。するとピアノの横に二列に王妃と御夫人達が並ぶ。王妃が前列中央。マーガレットがピアノの椅子に座る。(まさか!)レオナードは思いつく。
アマリリスが、御夫人達の前に立ち、指揮をとる。なんと、合唱が始まってしまった。メルゼラ合唱団の女児達と違って、大人の声。落ち着きがあり、しっとりとしたきれいな歌声。ハモリもきれい。練習したのだろう。合唱が終わると、会場から大きな拍手が送られた。殿方が自分の夫人を迎えに行く。王も王妃を迎えに行っていた。レオナードは、アマリリスを迎えに行った。
「とても綺麗な合唱だったよ。皆、感動してたと思うよ」
「うふふ、喜んでもらえて、良かったわ」
アマリリスは、王妃たちが合唱をしたく、頼まれ、王太子妃教育を早めに切り上げ、合唱の指導をしていた。
(これで、やっと王太子妃教育の後、お茶ができる!)
今、レオナードとアマリリスは、中庭でお茶をしている。
「レオ、アマリリス嬢、王妃を止めてくれ! 」
王が突然、慌てたように姿を現した。
「「えっ」」
「どうしたんですか? 父上」
「王妃が、合唱が、楽しいと言って、サンパチェンス合唱団として、各領地を巡り、合唱を民に聞かせたいと言っているんだ。王妃を始め、御夫人達が移動するとなると、警備が大変だ。王妃たちの趣味のために、騎士達は動かせない」
王が言うと、運悪く、王妃が顔を出した。王の話は聞いていなかったようだ。
「あら、陛下。どうしたの? あっ、リリー、ちょうどいいところに居たわ。クゥーとぴーちゃんを貸してもらえないかしら? 合唱に動物が参加してると子供たちが喜ぶでしょう。これから、領地を巡って合唱を披露しようと思っているのよ」
王妃は、嬉しそうに言うと、合唱で歌っていた歌を口ずさみながら去って行った。
「はぁ、どうしたものか・・・・」
王は、頭を下げ、言う。レオナードとアマリリスは顔を見合わせ、苦笑した。
その後、王が王妃を説得し、合唱は、夜会のみで行われることになった。
王妃たちは、合唱を披露したく、夜会の回数が例年より増えてしまった。
王は、領地巡りされるよりはいいと言ってこう垂れた。
0
お気に入りに追加
1,514
あなたにおすすめの小説
公爵家の半端者~悪役令嬢なんてやるよりも、隣国で冒険する方がいい~
石動なつめ
ファンタジー
半端者の公爵令嬢ベリル・ミスリルハンドは、王立学院の休日を利用して隣国のダンジョンに潜ったりと冒険者生活を満喫していた。
しかしある日、王様から『悪役令嬢役』を押し付けられる。何でも王妃様が最近悪役令嬢を主人公とした小説にはまっているのだとか。
冗談ではないと断りたいが権力には逆らえず、残念な演技力と棒読みで悪役令嬢役をこなしていく。
自分からは率先して何もする気はないベリルだったが、その『役』のせいでだんだんとおかしな状況になっていき……。
※小説家になろうにも掲載しています。
悪役令嬢と言われ冤罪で追放されたけど、実力でざまぁしてしまった。
三谷朱花
恋愛
レナ・フルサールは元公爵令嬢。何もしていないはずなのに、気が付けば悪役令嬢と呼ばれ、公爵家を追放されるはめに。それまで高スペックと魔力の強さから王太子妃として望まれたはずなのに、スペックも低い魔力もほとんどないマリアンヌ・ゴッセ男爵令嬢が、王太子妃になることに。
何度も断罪を回避しようとしたのに!
では、こんな国など出ていきます!
白花の咲く頃に
夕立
ファンタジー
命を狙われ、七歳で国を出奔した《シレジア》の王子ゼフィール。通りすがりの商隊に拾われ、平民の子として育てられた彼だが、成長するにしたがって一つの願いに駆られるようになった。
《シレジア》に帰りたい、と。
一七になった彼は帰郷を決意し商隊に別れを告げた。そして、《シレジア》へ入国しようと関所を訪れたのだが、入国を断られてしまう。
これは、そんな彼の旅と成長の物語。
※小説になろうでも公開しています(完結済)。
旦那様は、転生後は王子様でした
編端みどり
恋愛
近所でも有名なおしどり夫婦だった私達は、死ぬ時まで一緒でした。生まれ変わっても一緒になろうなんて言ったけど、今世は貴族ですって。しかも、タチの悪い両親に王子の婚約者になれと言われました。なれなかったら替え玉と交換して捨てるって言われましたわ。
まだ12歳ですから、捨てられると生きていけません。泣く泣くお茶会に行ったら、王子様は元夫でした。
時折チートな行動をして暴走する元夫を嗜めながら、自身もチートな事に気が付かない公爵令嬢のドタバタした日常は、周りを巻き込んで大事になっていき……。
え?! わたくし破滅するの?!
しばらく不定期更新です。時間できたら毎日更新しますのでよろしくお願いします。
三年目の離縁、「白い結婚」を申し立てます! 幼な妻のたった一度の反撃
紫月 由良
恋愛
【書籍化】5月30日発行されました。イラストは天城望先生です。
【本編】十三歳で政略のために婚姻を結んだエミリアは、夫に顧みられない日々を過ごす。夫の好みは肉感的で色香漂う大人の女性。子供のエミリアはお呼びではなかった。ある日、参加した夜会で、夫が愛人に対して、妻を襲わせた上でそれを浮気とし家から追い出すと、楽しそうに言ってるのを聞いてしまう。エミリアは孤児院への慰問や教会への寄付で培った人脈を味方に、婚姻無効を申し立て、夫の非を詳らかにする。従順(見かけだけ)妻の、夫への最初で最後の反撃に出る。
転生した元悪役令嬢は地味な人生を望んでいる
花見 有
恋愛
前世、悪役令嬢だったカーラはその罪を償う為、処刑され人生を終えた。転生して中流貴族家の令嬢として生まれ変わったカーラは、今度は地味で穏やかな人生を過ごそうと思っているのに、そんなカーラの元に自国の王子、アーロンのお妃候補の話が来てしまった。
王子様、お仕えさせて下さいませ
編端みどり
恋愛
伯爵令嬢のジーナは、本が大好き。ずっと本を読んでいたせいで目が悪くなり、近眼気味。
ある日、兄の職場を訪ねたジーナは図書館らしき場所を見つけて大興奮。兄への届け物も忘れてフラフラと本棚に近づこうとして第二王子を踏んづけてしまう。家が取り潰しされかねない不敬を、第二王子はあっさり許してくれた。
だけど、それを知った王太子はジーナを許さなかった。期限付きで城に留まる事になったジーナは、優しい第二王子に生涯の忠誠を誓う。
みんなに馬鹿にされても、舐められても何も言わなかった第二王子は、ジーナの命を助けたくて今まで逃げていた事に必死で向き合い始めた。全ては、初めて好きになったジーナの為。だけど第二王子を主人として慕うジーナは、王子の気持ちに全く気が付かない。
ジーナと第二王子をくっつけたい王太子の企みをスルーして、ジーナを疑う第三王子の信頼を得て、召喚された聖女と仲良くなり、ジーナの世界はどんどん広がっていく。
どんなにアプローチしても気付かれない可哀想な王子と、少し毒舌で鈍感な伯爵令嬢のラブストーリー。
婚約破棄された検品令嬢ですが、冷酷辺境伯の子を身籠りました。 でも本当はお優しい方で毎日幸せです
青空あかな
恋愛
旧題:「荷物検査など誰でもできる」と婚約破棄された検品令嬢ですが、極悪非道な辺境伯の子を身籠りました。でも本当はお優しい方で毎日心が癒されています
チェック男爵家長女のキュリティは、貴重な闇魔法の解呪師として王宮で荷物検査の仕事をしていた。
しかし、ある日突然婚約破棄されてしまう。
婚約者である伯爵家嫡男から、キュリティの義妹が好きになったと言われたのだ。
さらには、婚約者の権力によって検査係の仕事まで義妹に奪われる。
失意の中、キュリティは辺境へ向かうと、極悪非道と噂される辺境伯が魔法実験を行っていた。
目立たず通り過ぎようとしたが、魔法事故が起きて辺境伯の子を身ごもってしまう。
二人は形式上の夫婦となるが、辺境伯は存外優しい人でキュリティは温かい日々に心を癒されていく。
一方、義妹は仕事でミスばかり。
闇魔法を解呪することはおろか見破ることさえできない。
挙句の果てには、闇魔法に呪われた荷物を王宮内に入れてしまう――。
※おかげさまでHOTランキング1位になりました! ありがとうございます!
※ノベマ!様で短編版を掲載中でございます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる