飽きて捨てられた私でも未来の侯爵様には愛されているらしい。

希猫 ゆうみ

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14(ティナ)

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あー、むかつく。

ちょっと胸を押し付けて抱きついただけであっさり私に靡いた伯爵令息は、顔が好みだから頭の悪さも見ないようにしてあげていたのに。

元婚約者が別の男と話しているのを見ただけで動揺するなんて。
私というものがありながら本当に腹立たしい。

でも、ジュリアンの前では健気な男爵令嬢を演じ続けるべきだと弁えている。
父が莫大な資金を投じて爵位を買って、やっと私も令嬢になれたのだ。間に合った。恋愛と結婚で本当の貴族になるチャンスが私に与えられたのは運命だ。

だから、簡単そうな男を選んだ。

単純で、純情で、平凡なつまらない女と婚約している学園の顔。
クライヴ伯爵令息ジュリアンはお買い得だった。条件を満たしていたし、何度でも言うけれど顔が好み。

ジュリアンと結婚してジュリアンの息子を産みさえすれば、私は未来の伯爵の産みの親になれる。父も今よりずっと優遇される。

ジュリアンの母親が鬱陶しかったけれど、自分じゃ何もできないまま老いていく血筋だけが取り柄のオバサンなんて相手にならない。
ジュリアンが私を愛してさえいれば、全て完璧だった。

それなのに……

「侯爵令息……?」

あのつまらないウェリントン伯爵令嬢エレノアが、私よりいい男を捕まえようとしている。
むかつく。

ジュリアンさえ勿体ないと思っていたのに、訳ありの侯爵令息なんてとんでもない。
貴族って本当に生意気。私の方が100倍美しいのに、ただ不幸ぶっているだけで幸せになっていくなんて許せない。

「……」

ジュリアンはエレノアに未練があるみたいだし。
もっと私に集中しなさいよ。

エレノア……
ベストカップル賞を貰えるような器じゃないでしょう。
学園の顔?いい気にならないで。

あのまま惨めに退学してくれればよかったのに。

ジュリアンは先に卒業してしまう。
だから私はジュリアンと婚約し、彼の卒業に合わせて退学し結婚してしまうつもりだった。

エレノアのどこがいいのか知らないけれど、マクダウェル侯爵令息のせいでジュリアンの気が逸れて私の計画は台無しだ。でも、特別扱いされている侯爵令息を相手に牙を剥くのは賢くない。

勝てない賭けはしない。
儲からない投資はしない。

馬鹿なジュリアンの手綱さえしっかり握っておけばいい。
侯爵や公爵、王族の男を捕まえるのは貴族の夫人になってからでも遅くないのだ。

まずはジュリアン。
私を伯爵夫人にしてくれる顔のいい馬鹿に、私だけを見てもらわなくては。

「ジュリアン、愛してるわ……」

だからエレノアを陥れるしかない。

あの女は簡単だ。
無邪気なだけの無能な伯爵令嬢なんて、汚い醜聞一つあれば破滅させられるのだから。

マクダウェル侯爵令息にも見放されるような酷い事件を起こさせてやる。
私の邪魔をするなんて絶対に許さない。
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