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お葬式さながら暗い雰囲気で沈み込んだウェリントン伯爵家にクライヴ伯爵家の馬車が慌ただしく到着する。馬車から下りてきたのはクライヴ伯爵夫妻。私の義両親になるはずだった二人は大慌ての様子。

「すまない、息子が血迷った」

開口一番、クライヴ伯爵は父と私に詫びた。母は怒りのあまり自室に引きこもってしまったので、当事者である私が父と並んで対応している。

「こんな勝手な真似は許されない。いくら長い付き合いだろうと甘い顔はできないぞ。これまでの信頼を裏切る最低の行為だ」

父も激怒している。
息子同然に可愛がってきたジュリアンだからこそ、父自身も裏切られた思いなのだ。

同じように私もジュリアンの両親には実の娘のように可愛がられてきた。ジュリアンの母親サンドラは必死に私に取り縋る。

「ごめんなさい、エレノア。私があの子の目を覚ますから、お願いだから許してちょうだい……!」
「やめてくれサンドラ。もう娘には関わらないでくれ」

父がサンドラの肩を掴み私から引き剥がそうとする。サンドラは父と夫の制止の手を振り払い、尚も私に縋った。
ジュリアンに捨てられた私よりずっと必死だ。

「エレノア!ごめんなさい!全部あの子が悪いの。ちゃんとわからせて、あなたにしっかり謝らせるから!!」

サンドラは私を抱きしめた。

「……」
「だからお願い……私たちを許して……っ」

サンドラは私を本気で愛している。
それは私もわかっていた。彼女が義理の母親になり、私たちは一生涯仲良く互いを思いやりながら生きていくものだと信じてきた。疑いもしなかった。

でも、私たちの未来は全部ジュリアンが捨ててしまったのだ。

「おば様。謝らないでください……」

私はサンドラの背中を撫でた。

「おば様が悪いわけではないもの。悪いのはジュリアンよ」
「ええ、そう!一夏かけてしっかり教育し直すから待っていて……!」
「おば様……」

話が噛み合わない。

「あの子はあなたを愛してる。きっと相手の女に騙されているのよ。男爵令嬢でしょう?恥知らず。絶対に認めないから。ジュリアンに相応しいのはあなたよ、エレノア。婚約破棄なんて絶対にさせない……!」
「おば様、それは……」

おば様の決めることではないのでは?

冷めた心が初めて彼女への嫌悪を覚える。
私の気も知らないで、自分が息子を説得すれば全てなかったことになるとでも思っているのだろうか。随分と勝手だ。

「サンドラ、やめなさい」

クライヴ伯爵が今度は強めに彼女の両肩を掴み、私から離れるよう促した。

「ジュリアンは愚かな決断をした。もうエレノアの元へ戻る資格がないんだ」
「ジュリアンはこの子を愛しているのよ!」
「サンドラ、ジュリアンでも君でもない。決めるのはエレノアなんだよ」
「エレノアもジュリアンを愛しているわ!二人は結ばれる運命なの!!」

「離して……!」

大好きだったはずのサンドラを力いっぱい突き放し、私はその場から走り去った。

「エレノア!待って、エレノア……!!」
「……!」

耐えられない。
全てが耐えられなかった。

私は自室へと駆けこんでベッドに伏し泣いた。泣いて泣いて、しばらくして思ったのはキャンディーを食べようということだった。

ここなら誰の目を気にせずに泣き喚けるし、一日三個なんて制限もされない。エレノアの砂糖漬けが出来上がる頃には全て過ぎ去るだろう。

ジュリアンになんて会いたくない。
サンドラにも、クライヴ伯爵にも一生会いたくない。

メイドに頼むと籠一杯のキャンディーをすぐに用意してくれた。それから甘いミルクティーも。毎日たくさんのケーキを焼いてくれた。

夏季休暇の終盤、私は自分が少し太った事に気づいた。

「……」

無様だ。格好悪い。
身勝手な婚約者に心変わりされたからといって、ふてくされて周囲を避けてぶくぶく太るだなんて、我ながら酷い。

「……決めた」

レフトウィッチ学長が言っていた通り。
私は誇りを示すべきなのだ。

泣き寝入りして腐るような姿を見せるべきではなかった。風紀委員ジェシカは正しい。私は相応しくなかった。

私は心を入れ替えた。
運動と食事制限で元の体形にも戻した。

そして毅然とした態度で筋を通すために、夏季休暇を終えた学園へと舞い戻る。学園の顔として、やるべきことをやり遂げるために。
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