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「ああ、幼稚な妃にあもう飽きた!私はあなたのような成熟した大人の妃を求めていたんだ!!」
数字を口に出してはならない王太子妃の誕生日を祝うその席で、第三王子アベル殿下が私の目と鼻の先で私の侍女を熱烈に口説いている。
長い沈黙の後、辺りは騒然となった。
「なんと破廉恥な……!」
普段、小皴を気にする王太子妃が顔中に縦皴を刻み憤怒した。
「殿下!その女は元は平民ですぞ!」
「自由気儘にも限度がある!」
「主が主なら侍女も侍女だ!この女狐め!」
喧々囂々の騒ぎの中で、私は愕然としていた。
第三王子の妃殿下である私が、侍女に、夫を奪われたのだ。
「……」
凄まじい既視感。
「……」
私は愕然としたまま注意深く夫と私の侍女を観察した。
「汚らわしい!失せろ!!」
大臣の一人に料理を投げつけられた私の侍女を、私の夫であるアベル王子が身を挺して庇う。当然、酷く汚れた。
「黙れ!堅苦しい宮廷の老人め!……案ずるな、あなたは私が守る!」
「アベル!お前、ついに色狂いに堕ちたのか!?」
王太子が上品な口髭を震わせるほど大袈裟に罵倒しながら参戦した。
国王夫妻と第二王子夫妻は驚きの表情ではあるが静観している。
私の代わりに王太子妃がカップを投げた。誰にも当たらず床に叩きつけられて割れた。
「この無礼者!王家の威信に関わる由々しき問題ですよ!?どうしてくれるのアベル!最悪の誕生日よ!!」
年甲斐もなく王太子妃が叫ぶ。
暫く王太子夫妻とそれに乗じた大臣や貴族たちが、私の侍女を苛烈に攻め立て続けた。私の夫アベル王子はそのすべてから私の侍女を守り通している。
併し、目が合った。
夫も、侍女も、短い目配せで何かを伝えている。
「……!」
私はこの茶番の意味に気づき、目頭が熱くなった。
冷静に考えれば馬鹿げた大芝居だった。だが公の祝いの席で王子が浮気したのだ。
公に私がそうせざるを得ない理由が全員の目の前で繰り広げられていた。
「……っ」
夫と侍女の善意に胸が熱くなったのか、張り詰めていた心が解放されて弾けたのか、それとも、彼の元へ帰れる喜びか。
私の目から大粒の涙が零れる。
私は席を立ち叫んだ。
「どうして私ばかりこんな目に遇うのよ!」
私も王太子妃に倣いカップを投げる。大泣きしている私に若干唖然とした視線が集まったが、気にしない。勢いが肝心だ。一気に駆け抜けなければならない。
「うんざりよ!愛なんて嘘!結婚なんてしなければよかったわ!!この裏切り者ぉっ!!」
「そういう幼稚な所に嫌気がさしたのだ!君は私の妃に相応しくない!私は真実の愛を見つけた!この愛を貫き、私が正しかったと証明してみせる!」
実に酷い台詞を返してくる。
王太子妃がずかずかと距離を詰め大臣や貴族を蹴散らして二人に辿り着いた。そして、私の夫アベル王子と私の侍女を交互に叩いた。
「この!大馬鹿者!この!恥知らず!」
非常に大袈裟な懲罰だった。
王太子妃も真の意味に気づき加担してくれているとしか考えられない。その上で物理的な攻撃を早く切り上げてもらうために、私にはやるべきことがあった。言うべき一言が。
私は涙を撒き散らしつつ、力の限り叫んだ。
「実家に帰らせて頂きます!!」
数字を口に出してはならない王太子妃の誕生日を祝うその席で、第三王子アベル殿下が私の目と鼻の先で私の侍女を熱烈に口説いている。
長い沈黙の後、辺りは騒然となった。
「なんと破廉恥な……!」
普段、小皴を気にする王太子妃が顔中に縦皴を刻み憤怒した。
「殿下!その女は元は平民ですぞ!」
「自由気儘にも限度がある!」
「主が主なら侍女も侍女だ!この女狐め!」
喧々囂々の騒ぎの中で、私は愕然としていた。
第三王子の妃殿下である私が、侍女に、夫を奪われたのだ。
「……」
凄まじい既視感。
「……」
私は愕然としたまま注意深く夫と私の侍女を観察した。
「汚らわしい!失せろ!!」
大臣の一人に料理を投げつけられた私の侍女を、私の夫であるアベル王子が身を挺して庇う。当然、酷く汚れた。
「黙れ!堅苦しい宮廷の老人め!……案ずるな、あなたは私が守る!」
「アベル!お前、ついに色狂いに堕ちたのか!?」
王太子が上品な口髭を震わせるほど大袈裟に罵倒しながら参戦した。
国王夫妻と第二王子夫妻は驚きの表情ではあるが静観している。
私の代わりに王太子妃がカップを投げた。誰にも当たらず床に叩きつけられて割れた。
「この無礼者!王家の威信に関わる由々しき問題ですよ!?どうしてくれるのアベル!最悪の誕生日よ!!」
年甲斐もなく王太子妃が叫ぶ。
暫く王太子夫妻とそれに乗じた大臣や貴族たちが、私の侍女を苛烈に攻め立て続けた。私の夫アベル王子はそのすべてから私の侍女を守り通している。
併し、目が合った。
夫も、侍女も、短い目配せで何かを伝えている。
「……!」
私はこの茶番の意味に気づき、目頭が熱くなった。
冷静に考えれば馬鹿げた大芝居だった。だが公の祝いの席で王子が浮気したのだ。
公に私がそうせざるを得ない理由が全員の目の前で繰り広げられていた。
「……っ」
夫と侍女の善意に胸が熱くなったのか、張り詰めていた心が解放されて弾けたのか、それとも、彼の元へ帰れる喜びか。
私の目から大粒の涙が零れる。
私は席を立ち叫んだ。
「どうして私ばかりこんな目に遇うのよ!」
私も王太子妃に倣いカップを投げる。大泣きしている私に若干唖然とした視線が集まったが、気にしない。勢いが肝心だ。一気に駆け抜けなければならない。
「うんざりよ!愛なんて嘘!結婚なんてしなければよかったわ!!この裏切り者ぉっ!!」
「そういう幼稚な所に嫌気がさしたのだ!君は私の妃に相応しくない!私は真実の愛を見つけた!この愛を貫き、私が正しかったと証明してみせる!」
実に酷い台詞を返してくる。
王太子妃がずかずかと距離を詰め大臣や貴族を蹴散らして二人に辿り着いた。そして、私の夫アベル王子と私の侍女を交互に叩いた。
「この!大馬鹿者!この!恥知らず!」
非常に大袈裟な懲罰だった。
王太子妃も真の意味に気づき加担してくれているとしか考えられない。その上で物理的な攻撃を早く切り上げてもらうために、私にはやるべきことがあった。言うべき一言が。
私は涙を撒き散らしつつ、力の限り叫んだ。
「実家に帰らせて頂きます!!」
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