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24(ローレル)
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あの時の私はただ守りたい一心だった。
命を繋ぐ為、どんなうしろめたさも風のように躱した。
フランシスカが産まれた。
私に似て勝ち気でおてんばな娘を彼が愛さないはずはなく、私たちは醜く優しい嘘に守られながら、幸せに日々を重ねて来た。
私たちの確かな幸せを守る為に崖の古城で身を潜め、日々の全てを愛し、静かな終わりの日まで安らぎを享受するものだとばかり思い込んでいた。
誰の理解も要らない。
誰の許しも要らない。
神の許しなど、欲しくはない。
地獄に落ちてもかまわないと、ずっと昔に覚悟を決めたはずだった。
でも……
「あの人の息子が、ここに来るのね」
不安に駆られる。
とても眠ってはいられない。
日々神経が張り詰め、息が乱れ、正気を削られていく。
あの頃の悪夢を忘れると決めた。
あの悪魔と切り離されたこの城で互いに守り合い生きていくと、それができると信じてきた。
狼狽える私にアーネストは優しく囁く。
「恐かったら逃がしてあげるよ」
私は必死で足を踏みしめ、拳を握りしめ答えた。
「娘が連れてくるものを、私だけ逃げられない」
声が震える。
アーネストの瞳が暗闇の中で秘密めいた道しるべのように妖しく光る。
闇のように忍び寄りながら私に微笑む。
「この城の隠し通路は崖を抜けて海に出る。いつでも舟の準備はできている」
「娘を置いては行かないわ。たとえ軽蔑されているとしても、悔いはないもの。私たちは正しいことをしたのよ」
「君の強さが好きだよ」
「あなたは平気?」
私が袖を掴むとアーネストが笑みを深めた。
「荊の道も君がいてくれたから楽しかった。少し棘が増えるくらい、可愛いものさ」
「あなたを恨んでいるかしら。娘にきつく当たらないかしら」
「その時は同じように闇に葬ればいい。ここは私の城だ。私が新たな檻となるなら、二度と太陽を見せはしない」
抱き寄せられ、私は広い胸に顔を埋める。
アーネストはそっと包み込むように私を抱きしめ、私の不安を静かに闇に溶かしていく。ずっとそうしてきたように。私たちは優しい嘘を貫き続ければいいと、わからせてくれる。
アーネストが負った傷を、あの人が残した疵を、誰にも悟られないためにも。
私が娘に蔑まれるくらい掠り傷だ。
あの人の息子がフランシスカの兄として相応しくないならば、アーネストと共に、そう、葬ればいい。あの日のように。
アーネストが私を守ってくれる。
だから私もアーネストを支えマスグレイヴ城を守る。そう決めた。結婚したのだ。
私がどうあるべきか、どんな姿であるべきか、全て私が決めてきた。
本当の私は、真実は、私たちだけが知っていればいい。
アーネストの胸に顔を埋めた安全な暗闇の中に、見たこともないその顔を思い浮かべる。
バレット・ヘイズ。
あなたはあの人に似ているだろうか。
それとも……
あの悪魔と同じ顔をしているだろうか。
命を繋ぐ為、どんなうしろめたさも風のように躱した。
フランシスカが産まれた。
私に似て勝ち気でおてんばな娘を彼が愛さないはずはなく、私たちは醜く優しい嘘に守られながら、幸せに日々を重ねて来た。
私たちの確かな幸せを守る為に崖の古城で身を潜め、日々の全てを愛し、静かな終わりの日まで安らぎを享受するものだとばかり思い込んでいた。
誰の理解も要らない。
誰の許しも要らない。
神の許しなど、欲しくはない。
地獄に落ちてもかまわないと、ずっと昔に覚悟を決めたはずだった。
でも……
「あの人の息子が、ここに来るのね」
不安に駆られる。
とても眠ってはいられない。
日々神経が張り詰め、息が乱れ、正気を削られていく。
あの頃の悪夢を忘れると決めた。
あの悪魔と切り離されたこの城で互いに守り合い生きていくと、それができると信じてきた。
狼狽える私にアーネストは優しく囁く。
「恐かったら逃がしてあげるよ」
私は必死で足を踏みしめ、拳を握りしめ答えた。
「娘が連れてくるものを、私だけ逃げられない」
声が震える。
アーネストの瞳が暗闇の中で秘密めいた道しるべのように妖しく光る。
闇のように忍び寄りながら私に微笑む。
「この城の隠し通路は崖を抜けて海に出る。いつでも舟の準備はできている」
「娘を置いては行かないわ。たとえ軽蔑されているとしても、悔いはないもの。私たちは正しいことをしたのよ」
「君の強さが好きだよ」
「あなたは平気?」
私が袖を掴むとアーネストが笑みを深めた。
「荊の道も君がいてくれたから楽しかった。少し棘が増えるくらい、可愛いものさ」
「あなたを恨んでいるかしら。娘にきつく当たらないかしら」
「その時は同じように闇に葬ればいい。ここは私の城だ。私が新たな檻となるなら、二度と太陽を見せはしない」
抱き寄せられ、私は広い胸に顔を埋める。
アーネストはそっと包み込むように私を抱きしめ、私の不安を静かに闇に溶かしていく。ずっとそうしてきたように。私たちは優しい嘘を貫き続ければいいと、わからせてくれる。
アーネストが負った傷を、あの人が残した疵を、誰にも悟られないためにも。
私が娘に蔑まれるくらい掠り傷だ。
あの人の息子がフランシスカの兄として相応しくないならば、アーネストと共に、そう、葬ればいい。あの日のように。
アーネストが私を守ってくれる。
だから私もアーネストを支えマスグレイヴ城を守る。そう決めた。結婚したのだ。
私がどうあるべきか、どんな姿であるべきか、全て私が決めてきた。
本当の私は、真実は、私たちだけが知っていればいい。
アーネストの胸に顔を埋めた安全な暗闇の中に、見たこともないその顔を思い浮かべる。
バレット・ヘイズ。
あなたはあの人に似ているだろうか。
それとも……
あの悪魔と同じ顔をしているだろうか。
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