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気づいたら妹の罠にはまっている。
そんな事が幼い頃から繰り返されている。
妹のビヨネッタは幼い頃なら病弱だった。
高熱を出し生死の境を彷徨う事も何度かあった。それは事実。
でも10才頃からは体調も安定している。
同室の私はそれをよく知っている。
「マチルダお姉様、それ取って」
「自分でやりなさい」
「酷い!冷たいわ。それでも姉なの?姉なら妹の面倒を見なきゃだめよ」
病弱だった時代に両親から甘やかされたせいで、妹は恐ろしく我儘な令嬢に成長した。
そんな顔を見せるのは姉の私にだけなのだから質が悪い。
「お母様に言いつけるから!」
両親からすれば私はほったらかしで勝手に育つ健康な長女。
そんな私は、愛する価値のない娘らしい。
「まあ、マチルダ!どうしてそう意地悪ばかりするの!?」
「ビヨネッタは苦しみながら頑張って明るく振舞っているんだぞ?お前にはそれがわからないのか!?」
少し目を離した隙に死んでしまったかもしれない次女こそが、両親にとっては愛すべき娘。
「お父様。櫛くらい、ベッドを立って三歩で取れました」
「だったらお前が取ってやればいいだろう!」
「お父様……私はビヨネッタの召使いではありません」
パシン!
「……!?」
え、なにが起こったの?
私、今、頬を叩かれた?
「なんという口の利き方だ。お前にはがっかりした」
「どうして意地の悪いマチルダが健康で、優しくて愛らしいビヨネッタが病弱なんでしょう。私がいけなかったのかしら。妊娠中、よくない事をしてしまったのかしら」
「いいや、お前のせいではない。マチルダには充分教育を施した。勝手に心を歪ませたのだ。妹を妬んでいる」
「困ったものだわ」
私が愕然と頬を押さえている姿を見てビヨネッタはほくそ笑んでいる。
私が両親から不当な扱いを受けて傷つく姿を見る事が楽しいのね。
本当に心が歪んでいるのはどちらかしら。
ねえ、ビヨネッタ。
「お父様、お母様。お姉様を責めないで、私が悪かったの!」
そうやって苦しそうに胸を喘がせて嘘泣きをして善人ぶる。
「ああ、ビヨネッタ。あなたはなんて優しい子なの」
「お前が泣く事はないんだよ。マチルダは意地悪なんだ」
「あなたが悪かったなんて、そんなわけないじゃない」
「マチルダ。もっと妹に優しくしなさい。あなたは姉でしょう」
「そうだぞ、マチルダ。心でわからないというなら命令に従え。ビヨネッタの助けになれないなら出て行け」
こんな事が何度繰り返されただろう。
部屋に戻ると病弱で愛らしい次女ビヨネッタが馬鹿にしたように笑う事を、両親は知らない。
「というわけで、よろしくね?お姉様」
そんな事が幼い頃から繰り返されている。
妹のビヨネッタは幼い頃なら病弱だった。
高熱を出し生死の境を彷徨う事も何度かあった。それは事実。
でも10才頃からは体調も安定している。
同室の私はそれをよく知っている。
「マチルダお姉様、それ取って」
「自分でやりなさい」
「酷い!冷たいわ。それでも姉なの?姉なら妹の面倒を見なきゃだめよ」
病弱だった時代に両親から甘やかされたせいで、妹は恐ろしく我儘な令嬢に成長した。
そんな顔を見せるのは姉の私にだけなのだから質が悪い。
「お母様に言いつけるから!」
両親からすれば私はほったらかしで勝手に育つ健康な長女。
そんな私は、愛する価値のない娘らしい。
「まあ、マチルダ!どうしてそう意地悪ばかりするの!?」
「ビヨネッタは苦しみながら頑張って明るく振舞っているんだぞ?お前にはそれがわからないのか!?」
少し目を離した隙に死んでしまったかもしれない次女こそが、両親にとっては愛すべき娘。
「お父様。櫛くらい、ベッドを立って三歩で取れました」
「だったらお前が取ってやればいいだろう!」
「お父様……私はビヨネッタの召使いではありません」
パシン!
「……!?」
え、なにが起こったの?
私、今、頬を叩かれた?
「なんという口の利き方だ。お前にはがっかりした」
「どうして意地の悪いマチルダが健康で、優しくて愛らしいビヨネッタが病弱なんでしょう。私がいけなかったのかしら。妊娠中、よくない事をしてしまったのかしら」
「いいや、お前のせいではない。マチルダには充分教育を施した。勝手に心を歪ませたのだ。妹を妬んでいる」
「困ったものだわ」
私が愕然と頬を押さえている姿を見てビヨネッタはほくそ笑んでいる。
私が両親から不当な扱いを受けて傷つく姿を見る事が楽しいのね。
本当に心が歪んでいるのはどちらかしら。
ねえ、ビヨネッタ。
「お父様、お母様。お姉様を責めないで、私が悪かったの!」
そうやって苦しそうに胸を喘がせて嘘泣きをして善人ぶる。
「ああ、ビヨネッタ。あなたはなんて優しい子なの」
「お前が泣く事はないんだよ。マチルダは意地悪なんだ」
「あなたが悪かったなんて、そんなわけないじゃない」
「マチルダ。もっと妹に優しくしなさい。あなたは姉でしょう」
「そうだぞ、マチルダ。心でわからないというなら命令に従え。ビヨネッタの助けになれないなら出て行け」
こんな事が何度繰り返されただろう。
部屋に戻ると病弱で愛らしい次女ビヨネッタが馬鹿にしたように笑う事を、両親は知らない。
「というわけで、よろしくね?お姉様」
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