上 下
2 / 8

2(※)

しおりを挟む
エリオット殿下の手が首にかかる。

「!?」

世界で誰よりも愛しいはずの人の瞳に、どす黒い憎悪と殺意が閃く。

「……っ」

いつの間に手袋を外していたのだろう。
素手の方が目的が果たしやすいのだろうか。

ギリギリ……
ギリギリと……

足が浮く程に首を絞められる。

「貴様、よくもこの俺を裏切りやがったな」
「……!?」
「ただ隣で行儀よくしていればまだ許してやったのに」
「……?」

気が遠くなっていく。
なぜか死の恐怖はそれほど強烈なものではなく、ただ悔しさが一際募る。

「邪魔をするな」
「……!」

残酷な敵意に突き刺され、私は一筋の涙を零す。

あなたを愛していたと思う。
だから……だから、正しい選択をしてほしかった。

過ちを犯さずに、正しい道を、歩いてほしかった。

だから……

「死ね、牝豚」

私が最期に聞いたのは婚約者の侮辱的な罵倒だった。
こうして私は17年の短い人生に幕を──……



遠のく意識の中で後悔と同時に別の意識が割り込んでくる不思議な感覚に陥る。

見慣れない殺風景な部屋とベッド。白ばかりの牢獄。
嗅ぎ飽きた薬品の臭いに、うんざりするほど腕に居座る点滴の鈍痛。
微熱と高熱を繰り返し、手術の度に絶食した。

どうして生きているんだろう。
何の意味があるんだろう。

そう、いつも考えていた……


私は唐突に思い出した。

私はニホンジンで、名前はマユリ。
東の島国と言われる異世界で不治の病に冒されていた。

大好きな乙女ゲームが唯一の楽しみ。
痛みも死と隣り合わせの現実も忘れさせてくれる、甘く煌びやかな世界。
そこで私はたくさんの恋をして、マカロンみたいにカラフルな夢を見ていた。

どんな私にもなれた。
喜びも悲しみも、切なさも、楽しい人生を送れる魔法──スタートボタンを押す。

私が最後に押したのは『ルクヴァタリアの花冠』という乙女ゲームの……何のボタンだったっけ?



えっ!?
ルクヴァタリア!?

私……、未クリアのゲームの中に転生した……!?

ちょっと待って。
私は……コーネリア……

ルクヴァタリア王国の第二王子エリオットの婚約者、ガネシヤ侯爵令嬢コーネリア。
あまり好かれない髪色と目の色から、せっかくの美貌を台無しにするほど意地悪で我儘で周囲から嫌われる悪役令嬢。

その最期は、王位継承権を得ようとクーデターを企てたエリオットを止めたくて宰相に相談してしまい、裏切られたと激高したエリオット本人の手によって絞殺されるという悲劇だった。

じゃあ私よりにもよって死亡フラグ必至の悪役令嬢に転生してしまったってこと!?

そんな!!


──神様!


『ルクヴァタリアの花冠』には5人の攻略対象がいたはず。
第一王子グレイアム、第二王子エリオット、第三王子ファラル、宰相アライアンス、そして隠し要素の五人目の彼……


──もう一回だけ!


どうか御慈悲を。

せっかく大好きな世界に転生させてくれると仰るならば、どうかぜひ必ず死ぬ脇役の悪役令嬢ではなくて、できれば皆から愛される主人公の伯爵令嬢アマリア・メイプルに転生させてください!
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

【完結】第三王子殿下とは知らずに無礼を働いた婚約者は、もう終わりかもしれませんね

白草まる
恋愛
パーティーに参加したというのに婚約者のドミニクに放置され壁の花になっていた公爵令嬢エレオノーレ。 そこに普段社交の場に顔を出さない第三王子コンスタンティンが話しかけてきた。 それを見たドミニクがコンスタンティンに無礼なことを言ってしまった。 ドミニクはコンスタンティンの身分を知らなかったのだ。

この度、皆さんの予想通り婚約者候補から外れることになりました。ですが、すぐに結婚することになりました。

鶯埜 餡
恋愛
 ある事件のせいでいろいろ言われながらも国王夫妻の働きかけで王太子の婚約者候補となったシャルロッテ。  しかし当の王太子ルドウィックはアリアナという男爵令嬢にべったり。噂好きな貴族たちはシャルロッテに婚約者候補から外れるのではないかと言っていたが

[連載中]蔑ろにされた王妃様〜25歳の王妃は王と決別し、幸せになる〜

コマメコノカ@異世界恋愛ざまぁ連載
恋愛
 王妃として国のトップに君臨している元侯爵令嬢であるユーミア王妃(25)は夫で王であるバルコニー王(25)が、愛人のミセス(21)に入り浸り、王としての仕事を放置し遊んでいることに辟易していた。 そして、ある日ユーミアは、彼と決別することを決意する。

ざまぁされるのが確実なヒロインに転生したので、地味に目立たず過ごそうと思います

真理亜
恋愛
私、リリアナが転生した世界は、悪役令嬢に甘くヒロインに厳しい世界だ。その世界にヒロインとして転生したからには、全てのプラグをへし折り、地味に目立たず過ごして、ざまぁを回避する。それしかない。生き延びるために! それなのに...なぜか悪役令嬢にも攻略対象にも絡まれて...

【コミカライズ決定】地味令嬢は冤罪で処刑されて逆行転生したので、華麗な悪女を目指します!~目隠れ美形の天才王子に溺愛されまして~

胡蝶乃夢
恋愛
婚約者である王太子の望む通り『理想の淑女』として尽くしてきたにも関わらず、婚約破棄された挙句に冤罪で処刑されてしまった公爵令嬢ガーネット。 時間が遡り目覚めたガーネットは、二度と自分を犠牲にして尽くしたりしないと怒り、今度は自分勝手に生きる『華麗な悪女』になると決意する。 王太子の弟であるルベリウス王子にガーネットは留学をやめて傍にいて欲しいと願う。 処刑された時、留学中でいなかった彼がガーネットの傍にいることで運命は大きく変わっていく。 これは、不憫な地味令嬢が華麗な悪女へと変貌して周囲を魅了し、幼馴染の天才王子にも溺愛され、ざまぁして幸せになる物語です。

婚約者に嫌われているようなので離れてみたら、なぜか抗議されました

花々
恋愛
メリアム侯爵家の令嬢クラリッサは、婚約者である公爵家のライアンから蔑まれている。 クラリッサは「お前の目は醜い」というライアンの言葉を鵜呑みにし、いつも前髪で顔を隠しながら過ごしていた。 そんなある日、クラリッサは王家主催のパーティーに参加する。 いつも通りクラリッサをほったらかしてほかの参加者と談笑しているライアンから離れて廊下に出たところ、見知らぬ青年がうずくまっているのを見つける。クラリッサが心配して介抱すると、青年からいたく感謝される。 数日後、クラリッサの元になぜか王家からの使者がやってきて……。 ✴︎感想誠にありがとうございます❗️ ✴︎(承認不要の方)ご指摘ありがとうございます。第一王子のミスでした💦 ✴︎ヒロインの実家は侯爵家です。誤字失礼しました😵

光の王太子殿下は愛したい

葵川真衣
恋愛
王太子アドレーには、婚約者がいる。公爵令嬢のクリスティンだ。 わがままな婚約者に、アドレーは元々関心をもっていなかった。 だが、彼女はあるときを境に変わる。 アドレーはそんなクリスティンに惹かれていくのだった。しかし彼女は変わりはじめたときから、よそよそしい。 どうやら、他の少女にアドレーが惹かれると思い込んでいるようである。 目移りなどしないのに。 果たしてアドレーは、乙女ゲームの悪役令嬢に転生している婚約者を、振り向かせることができるのか……!? ラブラブを望む王太子と、未来を恐れる悪役令嬢の攻防のラブ(?)コメディ。 ☆完結しました。ありがとうございました。番外編等、不定期更新です。

理不尽に抗議して逆ギレ婚約破棄されたら、高嶺の皇子様に超絶執着されています!?

鳴田るな
恋愛
男爵令嬢シャリーアンナは、格下であるため、婚約者の侯爵令息に長い間虐げられていた。 耐え続けていたが、ついには殺されかけ、黙ってやり過ごすだけな態度を改めることにする。 婚約者は逆ギレし、シャリーアンナに婚約破棄を言い放つ。 するとなぜか、隣国の皇子様に言い寄られるようになって!? 地味で平凡な令嬢(※ただし秘密持ち)が、婚約破棄されたら隣国からやってきた皇子殿下に猛烈アタックされてしまうようになる話。

処理中です...