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エリオット殿下の手が首にかかる。
「!?」
世界で誰よりも愛しいはずの人の瞳に、どす黒い憎悪と殺意が閃く。
「……っ」
いつの間に手袋を外していたのだろう。
素手の方が目的が果たしやすいのだろうか。
ギリギリ……
ギリギリと……
足が浮く程に首を絞められる。
「貴様、よくもこの俺を裏切りやがったな」
「……!?」
「ただ隣で行儀よくしていればまだ許してやったのに」
「……?」
気が遠くなっていく。
なぜか死の恐怖はそれほど強烈なものではなく、ただ悔しさが一際募る。
「邪魔をするな」
「……!」
残酷な敵意に突き刺され、私は一筋の涙を零す。
あなたを愛していたと思う。
だから……だから、正しい選択をしてほしかった。
過ちを犯さずに、正しい道を、歩いてほしかった。
だから……
「死ね、牝豚」
私が最期に聞いたのは婚約者の侮辱的な罵倒だった。
こうして私は17年の短い人生に幕を──……
遠のく意識の中で後悔と同時に別の意識が割り込んでくる不思議な感覚に陥る。
見慣れない殺風景な部屋とベッド。白ばかりの牢獄。
嗅ぎ飽きた薬品の臭いに、うんざりするほど腕に居座る点滴の鈍痛。
微熱と高熱を繰り返し、手術の度に絶食した。
どうして生きているんだろう。
何の意味があるんだろう。
そう、いつも考えていた……
私は唐突に思い出した。
私はニホンジンで、名前はマユリ。
東の島国と言われる異世界で不治の病に冒されていた。
大好きな乙女ゲームが唯一の楽しみ。
痛みも死と隣り合わせの現実も忘れさせてくれる、甘く煌びやかな世界。
そこで私はたくさんの恋をして、マカロンみたいにカラフルな夢を見ていた。
どんな私にもなれた。
喜びも悲しみも、切なさも、楽しい人生を送れる魔法──スタートボタンを押す。
私が最後に押したのは『ルクヴァタリアの花冠』という乙女ゲームの……何のボタンだったっけ?
えっ!?
ルクヴァタリア!?
私……、未クリアのゲームの中に転生した……!?
ちょっと待って。
私は……コーネリア……
ルクヴァタリア王国の第二王子エリオットの婚約者、ガネシヤ侯爵令嬢コーネリア。
あまり好かれない髪色と目の色から、せっかくの美貌を台無しにするほど意地悪で我儘で周囲から嫌われる悪役令嬢。
その最期は、王位継承権を得ようとクーデターを企てたエリオットを止めたくて宰相に相談してしまい、裏切られたと激高したエリオット本人の手によって絞殺されるという悲劇だった。
じゃあ私よりにもよって死亡フラグ必至の悪役令嬢に転生してしまったってこと!?
そんな!!
──神様!
『ルクヴァタリアの花冠』には5人の攻略対象がいたはず。
第一王子グレイアム、第二王子エリオット、第三王子ファラル、宰相アライアンス、そして隠し要素の五人目の彼……
──もう一回だけ!
どうか御慈悲を。
せっかく大好きな世界に転生させてくれると仰るならば、どうかぜひ必ず死ぬ脇役の悪役令嬢ではなくて、できれば皆から愛される主人公の伯爵令嬢アマリア・メイプルに転生させてください!
「!?」
世界で誰よりも愛しいはずの人の瞳に、どす黒い憎悪と殺意が閃く。
「……っ」
いつの間に手袋を外していたのだろう。
素手の方が目的が果たしやすいのだろうか。
ギリギリ……
ギリギリと……
足が浮く程に首を絞められる。
「貴様、よくもこの俺を裏切りやがったな」
「……!?」
「ただ隣で行儀よくしていればまだ許してやったのに」
「……?」
気が遠くなっていく。
なぜか死の恐怖はそれほど強烈なものではなく、ただ悔しさが一際募る。
「邪魔をするな」
「……!」
残酷な敵意に突き刺され、私は一筋の涙を零す。
あなたを愛していたと思う。
だから……だから、正しい選択をしてほしかった。
過ちを犯さずに、正しい道を、歩いてほしかった。
だから……
「死ね、牝豚」
私が最期に聞いたのは婚約者の侮辱的な罵倒だった。
こうして私は17年の短い人生に幕を──……
遠のく意識の中で後悔と同時に別の意識が割り込んでくる不思議な感覚に陥る。
見慣れない殺風景な部屋とベッド。白ばかりの牢獄。
嗅ぎ飽きた薬品の臭いに、うんざりするほど腕に居座る点滴の鈍痛。
微熱と高熱を繰り返し、手術の度に絶食した。
どうして生きているんだろう。
何の意味があるんだろう。
そう、いつも考えていた……
私は唐突に思い出した。
私はニホンジンで、名前はマユリ。
東の島国と言われる異世界で不治の病に冒されていた。
大好きな乙女ゲームが唯一の楽しみ。
痛みも死と隣り合わせの現実も忘れさせてくれる、甘く煌びやかな世界。
そこで私はたくさんの恋をして、マカロンみたいにカラフルな夢を見ていた。
どんな私にもなれた。
喜びも悲しみも、切なさも、楽しい人生を送れる魔法──スタートボタンを押す。
私が最後に押したのは『ルクヴァタリアの花冠』という乙女ゲームの……何のボタンだったっけ?
えっ!?
ルクヴァタリア!?
私……、未クリアのゲームの中に転生した……!?
ちょっと待って。
私は……コーネリア……
ルクヴァタリア王国の第二王子エリオットの婚約者、ガネシヤ侯爵令嬢コーネリア。
あまり好かれない髪色と目の色から、せっかくの美貌を台無しにするほど意地悪で我儘で周囲から嫌われる悪役令嬢。
その最期は、王位継承権を得ようとクーデターを企てたエリオットを止めたくて宰相に相談してしまい、裏切られたと激高したエリオット本人の手によって絞殺されるという悲劇だった。
じゃあ私よりにもよって死亡フラグ必至の悪役令嬢に転生してしまったってこと!?
そんな!!
──神様!
『ルクヴァタリアの花冠』には5人の攻略対象がいたはず。
第一王子グレイアム、第二王子エリオット、第三王子ファラル、宰相アライアンス、そして隠し要素の五人目の彼……
──もう一回だけ!
どうか御慈悲を。
せっかく大好きな世界に転生させてくれると仰るならば、どうかぜひ必ず死ぬ脇役の悪役令嬢ではなくて、できれば皆から愛される主人公の伯爵令嬢アマリア・メイプルに転生させてください!
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