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「今此処に真実の愛が時を越え蘇り、晴れて結ばれたのです。わたくしはこれほど美しい結婚式を見たことがありません……!」
バラクロフ侯爵との婚約発表の後、ある種の集団が各地で活発に活動を始めた。
私の曾祖母シャーリンの5人の姉たちの娘乃至孫娘たちが声を上げ、祝福という狼煙を上げ王家に働きかけてしまったのだ。
結果、歴史に名を刻む盛大な結婚式を執り行うに至った。
国王夫妻と王子たちまで参列したのだ。皆、満足そうだった。
こうして私は遥か遠く身分違いの親戚、エヴァレット王太子と王弟アンティオネ殿下と対面し、祝福され、歓談している。
彼らは曾祖母シャーリンの長兄の玄孫である。
これがほぼ他人と思わずしてなんだというのか。
「殿下、これで私も安心して神様の元へ昇れます。晩年になってこんな幸せな気持ちになれるなんて、本当にこのフェルネには何とお礼を言ったらいいか……」
「ええ、本当に、私たちのフェルネに……」
「なんて美しい花嫁かしら私たちのフェルネ」
「バラクロフ侯爵夫人フェルネ!素敵な響きですわ!」
「こっち向いてフェルネ、お顔見せて頂戴」
二人の王子と私、そして私の夫となったバラクロフ侯爵レジナルドを囲む、有象無象の老婆たち。
それぞれ王女という母や祖母を持ち、叔母乃至大叔母に当たる私の曾祖母シャーリン王女とレジナルドの祖父アルフォンス卿の悲恋を語り伝えてきた、年老いた心清き乙女たちだ。
光栄ではあるが、玩具にされるのは本意ではない。
「まあまあ。皆さん、落ち着いて。フェルネは別にシャーリン王女の生まれ変わりというわけではないのですから」
外交的且つ友好的なアンティオネ殿下は、見るからに幅広い年齢層から好かれるだけの人柄を備えている。笑顔で柔らかく窘めてくれたが、チャーミングな笑顔が仇となり老婆たちを益々燃え上がらせた。
「まあ!」
「生まれ変わり!」
「ではこちらのバラクロフ侯爵には例のアルフォンス様が!」
「きゃああぁっ!」
「愛は永遠よ!!」
「神様!」
王家を巻き込んでの盛大な結婚式である。
楽しんでもらえたならそれでいい。例えそれが空想であろうと、妄想であろうと。
私たち夫婦はその辺りをきっちり弁えていた。
これはバラクロフ侯爵家の更なる栄光を約束し、パートランド伯爵家の権威をより強固なものへと進化させる祝宴。
腕を組み片時も離れずに、私とレジナルドはお行儀の良い微笑みを浮かべ相槌を打ち続けた。
永遠とも思われた祝宴からやっと解放された時、浮かれ騒ぐ祝福を背中に浴びて長い廊下を歩き始めると即座に私たち夫婦は微笑みという正装を脱ぎ捨てた。
「憑りつかれたな」
レジナルドが簡素に呟く。
「老い先短い方たちだもの、夢くらい見て頂きましょう」
「二人の妃殿下は終ぞ姿を現さなかったが、我々を包囲するあれを見て恐れ戦いていたに違いない」
「これで心証が悪くならないかだけが気掛りです」
「心配は無用だろう。妃殿下のみならず我々の他の親族すら近寄ることさえ叶わなかった。我々の親を最後にいつ見た?」
「思い出せませんわ。ベールを上げて振り向いた後?」
「否、乾杯の後、陛下から直々に祝福のお言葉を賜り、相手が王子に変わった後だ。攻略可能な相手と見て取り王子ごと我々を包囲した」
他愛もない会話で本音を洩らすと随分気が休まった。
レジナルドも同様に休息を求めているのが空気でわかる。
「疲れたろう」
「こういうものでしょう、結婚式は」
角を曲がり人気の無くなった頃にどちらともなく体を離した。
さすがに生理的に受け付けない相手であれば好条件を提示されようと求婚には頷かない。
それに血の成せる業なのか、生理的嫌悪を抱かないというより寧ろ正反対で若干の安心感、言うなればしっくりくる感じさえあったと認めざるを得なかった。
これから共に人生を歩んでいく相手と密着し続けた件に関しては不満も後悔もない。但し、著しい疲労によって今私の隣で夫になったばかりの男が命果てようとこれ以上の関心は持てそうにない。
「寝室は別だ」
「ありがたいです。だけど明日の昼食会でそれが通用するかどうか」
「無論、使用人一同口裏を合わせる手筈は整えてある」
「あら」
気が利く。
「でも跡継ぎはどうされるおつもり?やはり一人くらいは遺したいでしょう?」
「今考える事ではない」
「それもそうね」
互いに着替えなければならず、待ち受けていた使用人たちと共に道を別れる。
そういえばおやすみの挨拶さえしていなかったと気づいたのは自分がドレスを脱いだ頃だった。まあいい。私と同じようにレジナルドにも挨拶より休息が必要だったに過ぎない。
私が夫のレジナルドと再び顔を合わせたのは、翌日の昼過ぎ、祝宴の続きと言っても過言ではない華やかな昼食会でのことだった。
私は熱い夜を過ごし寝坊した労わるべき花嫁として夫以外からは過度な優しさと含みのある煌めく眼差しを多々受けたが、その実ぐっすり眠れた初夜には満足していたので甘んじて望まれた姿を受け止めた。
こうしてバラクロフ侯爵夫人としての日々は幕を開けた。
悪くない。
バラクロフ侯爵との婚約発表の後、ある種の集団が各地で活発に活動を始めた。
私の曾祖母シャーリンの5人の姉たちの娘乃至孫娘たちが声を上げ、祝福という狼煙を上げ王家に働きかけてしまったのだ。
結果、歴史に名を刻む盛大な結婚式を執り行うに至った。
国王夫妻と王子たちまで参列したのだ。皆、満足そうだった。
こうして私は遥か遠く身分違いの親戚、エヴァレット王太子と王弟アンティオネ殿下と対面し、祝福され、歓談している。
彼らは曾祖母シャーリンの長兄の玄孫である。
これがほぼ他人と思わずしてなんだというのか。
「殿下、これで私も安心して神様の元へ昇れます。晩年になってこんな幸せな気持ちになれるなんて、本当にこのフェルネには何とお礼を言ったらいいか……」
「ええ、本当に、私たちのフェルネに……」
「なんて美しい花嫁かしら私たちのフェルネ」
「バラクロフ侯爵夫人フェルネ!素敵な響きですわ!」
「こっち向いてフェルネ、お顔見せて頂戴」
二人の王子と私、そして私の夫となったバラクロフ侯爵レジナルドを囲む、有象無象の老婆たち。
それぞれ王女という母や祖母を持ち、叔母乃至大叔母に当たる私の曾祖母シャーリン王女とレジナルドの祖父アルフォンス卿の悲恋を語り伝えてきた、年老いた心清き乙女たちだ。
光栄ではあるが、玩具にされるのは本意ではない。
「まあまあ。皆さん、落ち着いて。フェルネは別にシャーリン王女の生まれ変わりというわけではないのですから」
外交的且つ友好的なアンティオネ殿下は、見るからに幅広い年齢層から好かれるだけの人柄を備えている。笑顔で柔らかく窘めてくれたが、チャーミングな笑顔が仇となり老婆たちを益々燃え上がらせた。
「まあ!」
「生まれ変わり!」
「ではこちらのバラクロフ侯爵には例のアルフォンス様が!」
「きゃああぁっ!」
「愛は永遠よ!!」
「神様!」
王家を巻き込んでの盛大な結婚式である。
楽しんでもらえたならそれでいい。例えそれが空想であろうと、妄想であろうと。
私たち夫婦はその辺りをきっちり弁えていた。
これはバラクロフ侯爵家の更なる栄光を約束し、パートランド伯爵家の権威をより強固なものへと進化させる祝宴。
腕を組み片時も離れずに、私とレジナルドはお行儀の良い微笑みを浮かべ相槌を打ち続けた。
永遠とも思われた祝宴からやっと解放された時、浮かれ騒ぐ祝福を背中に浴びて長い廊下を歩き始めると即座に私たち夫婦は微笑みという正装を脱ぎ捨てた。
「憑りつかれたな」
レジナルドが簡素に呟く。
「老い先短い方たちだもの、夢くらい見て頂きましょう」
「二人の妃殿下は終ぞ姿を現さなかったが、我々を包囲するあれを見て恐れ戦いていたに違いない」
「これで心証が悪くならないかだけが気掛りです」
「心配は無用だろう。妃殿下のみならず我々の他の親族すら近寄ることさえ叶わなかった。我々の親を最後にいつ見た?」
「思い出せませんわ。ベールを上げて振り向いた後?」
「否、乾杯の後、陛下から直々に祝福のお言葉を賜り、相手が王子に変わった後だ。攻略可能な相手と見て取り王子ごと我々を包囲した」
他愛もない会話で本音を洩らすと随分気が休まった。
レジナルドも同様に休息を求めているのが空気でわかる。
「疲れたろう」
「こういうものでしょう、結婚式は」
角を曲がり人気の無くなった頃にどちらともなく体を離した。
さすがに生理的に受け付けない相手であれば好条件を提示されようと求婚には頷かない。
それに血の成せる業なのか、生理的嫌悪を抱かないというより寧ろ正反対で若干の安心感、言うなればしっくりくる感じさえあったと認めざるを得なかった。
これから共に人生を歩んでいく相手と密着し続けた件に関しては不満も後悔もない。但し、著しい疲労によって今私の隣で夫になったばかりの男が命果てようとこれ以上の関心は持てそうにない。
「寝室は別だ」
「ありがたいです。だけど明日の昼食会でそれが通用するかどうか」
「無論、使用人一同口裏を合わせる手筈は整えてある」
「あら」
気が利く。
「でも跡継ぎはどうされるおつもり?やはり一人くらいは遺したいでしょう?」
「今考える事ではない」
「それもそうね」
互いに着替えなければならず、待ち受けていた使用人たちと共に道を別れる。
そういえばおやすみの挨拶さえしていなかったと気づいたのは自分がドレスを脱いだ頃だった。まあいい。私と同じようにレジナルドにも挨拶より休息が必要だったに過ぎない。
私が夫のレジナルドと再び顔を合わせたのは、翌日の昼過ぎ、祝宴の続きと言っても過言ではない華やかな昼食会でのことだった。
私は熱い夜を過ごし寝坊した労わるべき花嫁として夫以外からは過度な優しさと含みのある煌めく眼差しを多々受けたが、その実ぐっすり眠れた初夜には満足していたので甘んじて望まれた姿を受け止めた。
こうしてバラクロフ侯爵夫人としての日々は幕を開けた。
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