真実の愛がどうなろうと関係ありません。

希猫 ゆうみ

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怒鳴り声をあげたサディアスはリディを連れて立ち去った。
当然、私の父パートランド伯爵はこの婚約解消を激怒と共に受け入れ、リディを着の身着のまま放り出した。

「不届き者が。せいぜい愛を育むがいい。そして地獄に落ちろ」

その後父は打って変わって丁重に私に説いた。

「フェルネや。あの男はお前に相応しくなかった。メイドだろうとなんだろうとくれてやれ。お前にはもっといい男が現れる。邪魔者がいなくなってよかったんだ」
「お父様……」

血筋に拘りを持っているのは私より父だろう。
私の曾祖母シャーリンは父の祖母であり、第六王女でもあった人物だ。私と父はだいぶ薄まったとはいえ王家の血が流れている。

現在の王子たちは従兄弟でもハトコでもなく、遥か遠くの身分違いの親戚。
私がこの体に流れる王家の血を意識したところで傲慢だと思っているのも、意識しすぎる父を見て育ったからかもしれない。

サディアスの言った冷たい青い血云々というのは全く的外れなのだ。
愛を誓ってくれたサディアスと、尊重しあって仲良く生きていこうと胸を熱くしていたのに……

「悲しむ必要はないんだよ、フェルネ。もっといい男などいくらでもいる」
「呆れて怒っているだけです。お父様、御心配には及びません」
「そうか。よかった」

婚約を解消された私より、メイドとの『真実の愛』を取ったサディアスの方が痛手は大きいはずだ。

私も年月を失い、多少は誇りを穢されたような気がしたものの、サディアスの今後の苦労を想像すると、私には今より明るい未来しか待ち受けていないのだと再認識することができた。

私は冷たいだろうか?
サディアスと同じ熱量の愛を返すという期待に応えられなかった私が悪いのか?

私はサディアスを受け入れた。
私を選んだサディアスに責任があると考えるのは、酷だろうか。

ともあれ、私は無視できない虚しさをやり過ごしながら、少しずつ新しい生活に馴染んでいった。婚約者のいない身というのは久しぶりで、暮らす上での制約はさほど変わらないにも関わらず新鮮な気分にさせられた。

季節が巡る前に晩餐会や舞踏会に招かれ交流が活発になると、あのまま幼い恋を受け入れた延長線上の結婚をしたところで幸せになっただろうかという疑念すら生まれた。

城主の娘から婚約者を奪うという大罪を犯したメイドと思えば嫌な気分になる。
余所で同じ事例があれば、酷い裏切りで不敬罪が相当とも思う。
だがリディが私に自由をくれたのだと思わずにはいられなくなっていた。

そんな頃、婚約を解消した令嬢の元からメイドを連れ帰り結婚を宣言した息子を勘当し追放したというエヴァンズ伯爵の噂が届いた。
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