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11(サヘル)

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「シンシアー!」

シンシアに案内されて祝宴の宴が行われる広間へ入るか否かの瞬間、妹が突進してきた。
優しい笑顔のまま目だけ見開いたシンシアが妹に飛びつかれよろめく。

「きゃっ」
「シンシア!」

妹が優しく聡明な侍女に好意を示しているわけだが、儀式中のこれまでとは違った様子にシンシアが戸惑わないはずはない。

「〝シンシア、やっとお話できる!大好き!大好き!大好きよ!!〟」
「〝まあ、レミア様……光栄です〟」

日常会話であれば、しっかり、聞き取れる。
妹が話せる分、俺にはそこまで語学の習得が期待されていなかった。

クラリス王女もその夫も、妹と結婚したファロン王子も、イゥツェル神教国に来たレロヴァス王国の使者たちも、かなり語学に明るい者たちだったから俺の中で甘えが生まれてしまったという恥ずかしい理由もあり、俺は片言しか話せない。

本当に後悔している。
シンシアと満足に会話もできない。

シンシアに頼るにも、実は、ある問題が……

「!」

気づいたら妹がシンシアを抱きすくめたまま殺気の篭った視線で俺を見上げていた。

「……」

冷や汗がじわりと沸いてくる。

結局、命が惜しくて45日に渡る儀式中シンシアと打ち解ける野望は脇に捨てたのだが、それでも、先に歓談したのは妹の中で抜け駆けに相当するらしい。

「〝レディ・シンシア。御挨拶させてください〟」

ファロン王子がにこやかに近づいて来てシンシアに声を掛けた。

此方の掟上、結婚まで妹の夫とシンシアは接触を禁じられていた。レロヴァス王国が此方を尊重してくれる度に懐の深い人格者揃いの異教徒だと感激す──

「兄者」

妹に呼ばれた。
シンシアとファロン王子が上品な歓談を始めたところだった。油断した。

するりとシンシアを解放した妹が俺の腕を掴み距離を取る。
一見したら、レロヴァス王国の面々には俺たちが兄妹の内輪的な会話をしているだけに思えるかもしれない。若しくはイゥツェル神教国の宗教的な話し合い等。

妹は真顔で俺を見上げ言った。

「兄者。碌に話もできぬくせにわらわのシンシアを誑かすでない」
「申し訳ありません。そのようなつもりでは……」
「言い訳は聞かぬ」

レロヴァス王国は騎士道という概念で男が女を守るらしい。

イゥツェル神教国では霊力の劣る男が筋力によって、霊力漲る巫女に仕えお守りする。俺は血縁上は次兄に当たるが、妹の呪い一つでぱっと散る命に手足を付けただけの存在である。

「併し妾はそなたを信用している。妾がそなたを選んだのだ」
「はい」
「シンシアは心優しき乙女。穢してはならぬ」
「はい」
「口説きたければ、妾のように言葉を習得しろ」
「はい……え?」

てっきり今度は俺がシンシアとの接触を禁じられるのかと思いきや、妹は目を剥きニヤリと笑った。

「妾はそなたを信用している……!」
「は、はい……!」

妹が俺の腕を二度叩いた。
レロヴァス王国の面々には兄妹の他愛無い励まし合いに見えるかもしれない。

俺は今、願望成就のまじないをかけて頂いたところだ。

剣の腕には自信がある。
語学習得の日も近い……!

俺がレロヴァス王国の言葉でまともに話せるようになれば、現在シンシアの完璧な文法を阻害するを回避できる。親密になれば解決もできるだろう。

シンシア……!

ああ、美しいシンシア。
上品且つ優雅に煌めきながら歓談するシンシア。

俺もそなたと語らいたい。

「あはははは」
「うふふふふ」

ファロン王子……羨ましい……!
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