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私には婚約者がいる。
伯爵令息レーノルドは家柄も釣り合い、年齢も近く、親の決めた相手でも恋に落ちた。私は彼を愛していた。今も愛している。
彼も私を愛していると言っていた。

でも、そんな私を放っておいて、レーノルドは趣味に打ち込んでいる。世界を旅するのが好きで帰ってこない。

もう3年になる。
顔も見ていない。声も忘れそう。どうして手紙ひとつくれないの?

そんな事を考えて泣いた夜も過ぎ去ってしまった。
彼がいない日々が、私の日常。

私はただ婚約者という存在に縛られているだけ。

本当にこれでいいの?
私の人生は、ただレーノルドの帰りを待つだけのもの?

いっそ永遠に帰って来なければいいのに。
私はもう自由になりたい。

待つ事に飽きた。嫌気がさした。
それのなにがいけないっていうの?

「お父様、私、もう待ち続けるのは嫌です」

私たちの婚約がどうすれば白紙に戻るのか、父は考え始めた。
そしてそれを実行しようとした。

ちょうど、その頃だった。

レーノルドが帰って来たのだ。

「やあ、ハンナ。元気だったかい?会いたかったよ!」
「……レーノルド」

どうして笑っていられるのかわからなかった。
私がどんな気持ちで待っていたのか、待ちくたびれたのか、そんな事を考えもしないで、再会を喜んでいる婚約者にがっかりした。

私の事、忘れていたでしょう?
嬉しそうに、会いに来ないでよ。

「レーノルド。あなたも、元気そうでよかったわ」
「聞いてくれよ!あっちで面白い男と知り合ったんだ。ある伯爵の3男で」
「あっちって?」
「え?君、僕がどこに旅していたかも知らないの?」

急に帰ってきて、今度は怒りだした。

「君、それでも僕の婚約者なのか?僕の事をいつも気にしてくれなきゃ、婚約者失格だよ?」
「……は?」

どこに行くかも告げず、どこにいるか手紙もくれずに、いつ帰るかさえ知らせてくれなかったくせに。
私を責めるの?

「待っていたのに失格?」
「待ってるのは当然だろう?婚約者なんだから」
「当然って……」
「その態度はなんなんだよ!さっきから、ちっとも嬉しそうじゃないじゃないか!」

私が悪者?

「せっかくこの僕が帰って来たのに、どうしてそんなにつれない態度をとるんだよ!ずっと君に会いたかったのに!」
「噓、言わないで……」
「えっ、なに?」

私に会いたかったなんて、絶対に嘘よ。

「嘘言わないで、レーノルド。私に会いたかったなら手紙くらい書いてくれるはずだわ!あなたは私を愛していない!私の事なんて忘れていたのよ!」
「なんて酷い事を言うんだ!もういい!君との婚約は破棄する!!」
「ええいいわ!あなたなんて嫌い!!」
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