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思えば、私が酷い状態に陥った際に快くリカードを送り出してくれた方だ。
気さくで思いやり深い第三王子テオフィルス殿下への言葉にできない程の感謝を思い出し、私は側近バシリウスと戯れるその人に改めてお礼を言おうとした。
それを察知したというわけではないと思う。
リカードが唐突に立ち上がり、両手をテオフィルス殿下の肩に添えた。テオフィルス殿下も迅速に立ち上がりリカードの胴体に一瞬手を置いた。
次の瞬間、二人は友情溢れる抱擁を交わした。
「殿下、お会いできて嬉しいです。いろいろと本当にありがとうございました」
「おお、リカード……私の方こそ会えて嬉しい!幸せになれ!」
後から、ああでもしなければあの場が収まらなかったとリカードは言った。
荷解きなどが落ち着いて、今はサンルームで穏やかなお茶の時間を過ごしている。
テオフィルス殿下は始終ご機嫌で、話し上手でもあり、聞いているだけでとても楽しい気分になれた。
「君に会う為だけに君の婚家に遊びに来るのも満更ではないのだが、当然ながら今回は特別な土産を持参した」
夕陽が赤く輝き出した頃にテオフィルス殿下が意気揚々とそう言って側近バシリウスに目で合図を送った。
「いつ本題に入るかと内心苛々しておりました」
「ふん」
少し年上の側近バシリウスに対し無防備に少年のような顔を見せているテオフィルス殿下の様子から、二人が強い信頼関係で結ばれているというのはわかる。
テオフィルス殿下の親友としてのリカードがどんな様子だったのか、私は想像して微笑んでしまう。
リカードはやや笑みを潜めた。
「そんな、殿下。お土産ならさっき頂いたのに」
「リカード。勿体ぶるのは好きじゃないが雰囲気が和んでからの方がいいだろうと思ってのことだ。気にするな。でも聞いてくれ」
「はい」
リカードがどんな特別なお土産を貰うのだろうかと温かな気持ちで二人の様子を眺めていた私の前に、バシリウスが包を差し出す。
「?」
私宛。
リカードの妻として、何か特別な贈り物だろうか。
「私自らが包装した。是非リカードとオリヴィア、二人でリボンを解いて欲しい」
テオフィルス殿下が随分と御機嫌なので、私はリカードと目を合わせてから同時に其々リボンの端を摘まんだ。だから私は包に視線を注いでいて、テオフィルス殿下の顔を見ていなかった。
ご機嫌だったはずのテオフィルス殿下はふいに真剣な深みのある声ではっきりとこう言った。
「治療薬が完成した。オリヴィア、あなたは完治する」
気さくで思いやり深い第三王子テオフィルス殿下への言葉にできない程の感謝を思い出し、私は側近バシリウスと戯れるその人に改めてお礼を言おうとした。
それを察知したというわけではないと思う。
リカードが唐突に立ち上がり、両手をテオフィルス殿下の肩に添えた。テオフィルス殿下も迅速に立ち上がりリカードの胴体に一瞬手を置いた。
次の瞬間、二人は友情溢れる抱擁を交わした。
「殿下、お会いできて嬉しいです。いろいろと本当にありがとうございました」
「おお、リカード……私の方こそ会えて嬉しい!幸せになれ!」
後から、ああでもしなければあの場が収まらなかったとリカードは言った。
荷解きなどが落ち着いて、今はサンルームで穏やかなお茶の時間を過ごしている。
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「いつ本題に入るかと内心苛々しておりました」
「ふん」
少し年上の側近バシリウスに対し無防備に少年のような顔を見せているテオフィルス殿下の様子から、二人が強い信頼関係で結ばれているというのはわかる。
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リカードはやや笑みを潜めた。
「そんな、殿下。お土産ならさっき頂いたのに」
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「?」
私宛。
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