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13(ダーフィト)

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「何処が完璧な計画ですか!間抜けにも程がある!どうするんですか!?」

父が持ち掛けて来た領土拡大の大博打で大敗した。
一度は勝利を収めたかに思えたが事態は最悪な急展開を辿っている。

「オリヴィアの幼馴染とかいう男が王子の側近だなんて、しかもそいつと結婚だなんて……!」
「まあまあ、倅よ。そう怒鳴るな。お前はあの娘を気に入っていたから悔しいのかもしれないが、これで我がフェルスター伯爵家は隣のヴィンクラー伯領を掌握したも同然」

事態を甘く見ている父は今がどれだけ不味い状況かわかっていない。

「生きる病原菌とまで広められては二度と表には出て来られまい。そんな危険な土地を代々大事に抱え込んでいるヴィンクラー伯爵家も終わり」
「父上」
「王子の耳に入ったなら丁度いいじゃないか。若く勇猛果敢な第三王子テオフィルス!王家は今度こそヴィンクラー伯爵家に鉄槌を下すだろう」

馬鹿なのか?
父は、まさか馬鹿なのか?

「一代毎にあの辺り一帯を焼き払おうとしては失敗し、その度に嫌な灰が飛んできて満遍なく我がフェルスター伯領を穢しおって。忌々しい毒風め。しかし私が終わらせた。倅よ、私を我がフェルスター伯爵家の功労者としてしっかり後世に語り継いでくれよ」
「父上、あなたは……」

隣のヴィンクラー伯領は夏に猛毒を持つ虫が増えることで国中から恐れられている。
そのせいでこっちまで妙に貴族社会全般から嫌厭されているというのは気のせいではないだろう。

オリヴィアを囮にしようと言い出したのは父だった。
俺もオリヴィアを気に入っていたが、忌々しいヴィンクラー伯領を手中に収めるチャンスとなれば天秤にかけるまでもない。女はいくらでもいるのだ。

だが、相手が悪かった。
美形揃いな上、利用しやすいお人好し一家のデニッツ伯爵家。財産や格式も合格ラインで、さくっと結婚するにはちょうどいい相手だった。オリヴィアは美人だ。

手放すのは惜しいが捨て駒にした後で得られるものが大きすぎた。甚大な被害だと証明すれば危険地帯を放置しているヴィンクラー伯爵を蹴落とせる。暴いた我らフェルスター伯爵家は褒美としてヴィンクラー伯領の一部か、或いは全土を貰えるかもしれない。

父の計画は俺の心を擽った。

俺たちはオリヴィアが役に立ってくれたあと静かに泣き寝入りしてくれるだろうと信じていた。
それがまさか王家と細からぬ人脈があるとは思いもしなかった。

調査不足だ。

「くそ……っ」
「ははは。そんなにオリヴィアが惜しいか。まあ眼を瞠る美人だが、同じくらい美しい娘はすぐに見つかる。お前より先に老けるオリヴィアに甘い夢を見せてやったんだ。充分だろう」
「そんな話ではありませんよ父上」
「ダーフィト。あと5年もしてみろ。お前にとって年下の若々しい令嬢たちが如何に甘美な果実として魅惑的に見えるか。その頃オリヴィアは?仮にお前と結婚していたとしても度重なる出産でぼろぼろだ。どうせお前は年下の愛人を作ったさ」
「だからオリヴィアの話はしていませんって!」

父は得意気に大笑いする。

「そういうことにしておいてやろう。倅よ、吉報を待て」

数日後だった。
第三王子テオフィルス殿下が私兵を率いてフェルスター城を占拠。父と俺は捕らえられ、安全な中間地点でヴィンクラー伯爵率いる衛生兵に引渡される……そんな末路が迫っていたのだ。
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