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71(ニコラス)

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コルネリアの瞳には強い信念の炎が揺らめいている。
ソフィアから邪悪さを欠いたかのような姿のコルネリアと見つめ合いながら、私の視界には父も映りこんでいた。

父は親子ほど年の離れた妹であるというコルネリアに複雑な眼差しを送り、時折、逃げるように視線を逸らしている。妹を愛したことがない私は、父の中にあるコルネリアに愛情を抱こうとしているが故の葛藤を感じられた。

私は母に問うた。

「今のお話が全て真実であると証明するものは、コルネリア以外にありますか?」
「私の嘘を一つでも見つけたならば、あなたの手で母を殺しなさい」

母は躊躇わず私に命じた。
そうなれば頷くより他なかった。

「今思えばあの時ネリーの娘だけ安全な場所へ逃がすか、両方死んだことにしてしまえばよかったのです」

忌まわしい過去が母の顔を残酷に彩る。

「私と陛下はソフィアを公平に育てました。ところが、自我が芽生え始めた頃にはもう母親の気質を受け継いでいた。何人の教育係が逃げて行ったかあなたも覚えているでしょう。野蛮で、反抗的で、傲慢で、残虐で……私たちは早々に見切りを付けました。アントニアはこうなることを予期していたのでしょう」
「つまり、時期をみて王女を取り換えるつもりだったと?」
「半分はそうですが、半分は違います」

ずっと母が話している。
その間コルネリアは視線を逸らさずに私を見ている。意思の強さと同時に、私が知らない母の計略を充分に承知しているのが見て取れる。

妹だと思ってきた顔だが、実際は年下の叔母だ。
真実と仮定したならば、相応の敬意を払って然るべき相手である。

「ヴィレールの娘が道を踏み外した時、ネリーの娘だけが奇跡を起こせると、アントニアはわかっていたのです」
「……母上」

私は心から賛成できない。
詭弁ではないか。

「ソフィアが罪を犯すのを待っていたのですか?犠牲者が出る日を」
「間違っていたとは思いません。神は、私たちに新たな神の娘を与えたではないですか。私が犯した過ちを贖う為に、新たにより無垢で強い神の娘ヒルデガルドを遣わした。私はその道筋に立っていたに過ぎません」
「繰り返しているわけですね」
「もう終わりです」
「当然だ。私が終わらる」
「信じていましたよ、ニコラス。あなたは私と陛下の愛の賜物なのですから」

腹が立った。
あまりにも犠牲が大きすぎた。

望まれない二人の王女の誕生は内乱を引き起こす危険を孕んでいたのだろう。だからといって、当時見込まれた膨大な犠牲者と比べ、今回は片手に余る数だからと楽観視することはできない。

数ではない。
神は、分け隔てなくその命を愛しておられるのだ。

併し起きてしまったことは覆せない。
父と母が決断し、私ではなくコルネリアと協力しこの日の為に準備していたのは事実なのだ。神は私を、幕を引く者として立てた。ならばその役を全うするまでだ。

「それで、私にコルネリアの存在を明かし、どのような仕上げをなさるおつもりですか?」

私は母に問うた。
これは王家の問題である。二度の宮廷裁判を経て王女を廃すると決定している。

「王女が罪を犯し追放されるなどという恥辱に塗れた歴史を、できるだけ穏やかに書き残さなければなりません」

薄々勘付いていた。
そうでなければこの対面は必要がないからだ。

「コルネリアを代わりに追放するのですか?」
「そうです」

母は短くコルネリアを抱擁し、心優しい母親のような顔で笑った。

「何故ソフィアを太らせたと思います?ニコラス。似ていると言ってもよく似た外見の姉妹というだけで同一人物には見せません。第一、母親が違うのです。でも、元の美しい姿から見る影もなく太れば、ほんの数回目にする者の目には同じソフィアに見えるでしょう。変わり果てたソフィアに」

身代わりになる運命を背負わされたというのに、コルネリアの瞳は希望に満ち輝いている。
そこで父が口を開いた。

「罪を認め罰を受け入れる王女として歴史に残すのだ。最後に神は奇跡を起こしたのだと。それが民のためだ」
「コルネリアは救出するのでしょうね?」
「ああ。安全な旅を経てファンスラー伯爵家に帰る」

私は意外な程に安堵し、年下の叔母コルネリアを見つめながら溜息をついた。

「よくわかりました。併し、当のソフィアは?」
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