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「ソフィア王女は僕を愛していると言いました。僕にはもっと相応しい生き方があると。僕はソフィア王女の愛を信じ、親の決めた婚約者に別れを告げました。僕とソフィア王女の愛を純愛にする為ヒルデガルドを貶めたのは事実です」
ウィリスは全身包帯姿に緩いガウンを羽織っただけの格好で証言台に立った。隙間から覗く碧い瞳は爛々と憎しみに燃え、その手は震え、時々感情が高まり過ぎて息も絶え絶えといった様子でウィリスは訴える。
「それが正しいと思いました。何故なら、僕はソフィア王女を愛していたから!でも……ソフィア王女は違った。僕を愛していたわけではなかった。僕は!……僕は……只の人形だった!!」
宮廷裁判という場には相応しくない激情も、誰もが息を飲むその姿によって無条件に容認されてしまう。
異様な光景だった。
ウィリスは自らガウンを脱ぎ震える手で包帯を解き始めた。顔を含めて全身に残る傷痕は凄まじく、執拗に切り刻んだ痕跡がまざまざと伺えた。
国王陛下が痛ましそうに眉を絞り、ニコラス王太子は奥歯を噛み怒りの表情で王女の所業を見定めようとしているようだった。
陪審員の貴族たちや聖職者が息を飲む中、オクタヴィア王妃だけは冷めた眼差しでウィリスを眺めている。
「此処に全員揃っています!親しい友達に紹介すると言ってソフィア王女はあの女の城へ僕を連れて行きました!」
役人によって鎖でつながれ跪いていた囚人、デシュラー伯爵の未亡人であるパメラ夫人を指差したウィリスは、続いて同じく囚人服を纏い拘束されているダーマ伯爵夫妻、モリン伯爵令嬢アイリスを指差し、最後に私の方へ向き直りジェーンを指差した。
ジェーンが目撃者であることも、ヘレネがウィリスの拷問に立ち会っていないことも、私とニコラス王太子は予め承知している。
ジェーンとヘレネは此方の証人として出廷しているが、ソフィア王女の取り巻きたちは一様に疲れ果てた囚人であり、かつての栄光は見る影もない。
ソフィア王女には著しい異変が見て取れた。
幽閉生活を通して輝かしい生活が失われた精神的苦痛に起因するのか、私でさえ驚くほど醜い姿に変わっている。不健康な蒼白い肌は酷く荒れており、全身が浮腫み、やや太っていた。
別人のようだという印象を一瞬は抱くものの、その禍々しい目つきや尊大な態度は見慣れたソフィア王女その人である。
幽閉が醜い心を具現化したかのようでもあった。
ウィリスが証言台で泣き喚く。
「食事に薬を盛り僕の自由を奪い、僕を裸にして、その女が僕を馬鹿にして全身を道化師みたいに塗りました。そしてソフィア王女が僕の皮膚を切り刻み始めました……!それをまるで余興でも楽しむように眺めながら奴等は食事を続けていました!それが終わるとその女の医師たちが僕の血を止める処置をしました……それからその男が僕を暴行したんだぁッ!!」
パメラ夫人の医師とその助手たちは尋問が厳しく体調面で出廷できないのか、またはニコラス王太子に何らかの意図があるのかわからないが、姿はない。
「しかも、その間、ずっと、僕が自分の姿を見続けるように、鏡が並べられていた。こっちと、こっちと、こっちに。僕は常に自分が何をされているか、自分がどうなっていくかを見ていなければならなかった……!僕は壊すために用意された只の人形だと奴らは言いました!途中で薬が切れて、激しい痛みが僕を襲いました……全身燃えるように熱かった……僕が呻くと、奴らは酒を飲んで笑いました!どうしてお前がそっちにいるんだぁッ!!」
下着一枚の姿で痛ましい傷を晒し泣き喚くウィリスがジェーンに向かって叫んだ。
私はニコラス王太子に目で合図をしたが、意図は正しく伝わったようでジェーンが責められることはなかった。
「痛くて……苦しくて……それでも体はまだ動かない僕を、奴らはまた切り刻んだり、焼いたり、針を刺したり、酒をかけたり、殴ったり、蹴ったり、髪を掴んでふりまわしたり、両手両足をバラバラに引っ張ったり……なんであんな……どうしてあんなことを……っ」
屈辱と激痛をまざまざと思い出した様子のウィリスは証言台で泣き崩れた。傍聴席では両親のシェロート伯爵夫妻も嗚咽を上げている。
「ソフィア王女は僕を置き去りにしました……っ、それからずっと、助け出されるまで、僕は、玩具にされました……医師は僕を修理して、また遊べるようにするんです……そして僕は、少しよくなるとまた……ううっ、くそばばあっ!なんでこんなことしたんだ!消えない!消えないぞ!僕は汚い襤褸人形みたいじゃないかぁっ!!」
ウィリスは正気を失っていた。
併し一頻り泣き喚いたウィリスは未だ傷痕が生々しい痩せた手で証言台にしがみ付き、涙と涎を垂らしたまま、ニコラス王太子を睨みつけた。
「僕は、あなたの身代わりだった」
血を吐くようにウィリスが声を絞り出す。
「ソフィア王女は確かに言いました。僕は実験台の為の人形だと。いつか殿下を拷問する為の練習をしているのだと。これがあなたの姿だ王太子殿下ァッ!!」
ニコラス王太子は厳しい表情でウィリスの慟哭を受け止めている。
「そして……」
ウィリスは証言台に掴まり激しく喘ぎながら泣いているが、王妃に視線を移した時だけはその憎悪をやや弱まらせた。
美しく威厳を兼ね備えたオクタヴィアは神々しく、救いを求める気持ちか敬意がウィリスの中に突如として生まれたらしかった。
「実験が終わったら僕は男娼になるのだとソフィア王女は言いました。殿下にするのと同じ拷問を、王妃様、あなたにも行い、傷ついたあなたを癒し、溺れさせる男娼に、僕は、なるはずでした……だからヒルデガルドはあなたの身代わりでした。王妃様。信じてください。本当です」
必死の訴えを受けても王妃の眼差しはどこか冷めており、他人事か些末な雑事としか捉えていないかのような印象を受ける。
全てを言い切った様子でウィリスが呆然と静かな涙を流し始め、ニコラス王太子が下がらせるよう指示を出す。
重傷者として丁重に扱われ、ウィリスは証言台を下りた。
「次、男爵令嬢ジェーン・ライスト。証言台へ」
ニコラス王太子が命じる。
ジェーンは静かに足を踏み出した。
ウィリスは全身包帯姿に緩いガウンを羽織っただけの格好で証言台に立った。隙間から覗く碧い瞳は爛々と憎しみに燃え、その手は震え、時々感情が高まり過ぎて息も絶え絶えといった様子でウィリスは訴える。
「それが正しいと思いました。何故なら、僕はソフィア王女を愛していたから!でも……ソフィア王女は違った。僕を愛していたわけではなかった。僕は!……僕は……只の人形だった!!」
宮廷裁判という場には相応しくない激情も、誰もが息を飲むその姿によって無条件に容認されてしまう。
異様な光景だった。
ウィリスは自らガウンを脱ぎ震える手で包帯を解き始めた。顔を含めて全身に残る傷痕は凄まじく、執拗に切り刻んだ痕跡がまざまざと伺えた。
国王陛下が痛ましそうに眉を絞り、ニコラス王太子は奥歯を噛み怒りの表情で王女の所業を見定めようとしているようだった。
陪審員の貴族たちや聖職者が息を飲む中、オクタヴィア王妃だけは冷めた眼差しでウィリスを眺めている。
「此処に全員揃っています!親しい友達に紹介すると言ってソフィア王女はあの女の城へ僕を連れて行きました!」
役人によって鎖でつながれ跪いていた囚人、デシュラー伯爵の未亡人であるパメラ夫人を指差したウィリスは、続いて同じく囚人服を纏い拘束されているダーマ伯爵夫妻、モリン伯爵令嬢アイリスを指差し、最後に私の方へ向き直りジェーンを指差した。
ジェーンが目撃者であることも、ヘレネがウィリスの拷問に立ち会っていないことも、私とニコラス王太子は予め承知している。
ジェーンとヘレネは此方の証人として出廷しているが、ソフィア王女の取り巻きたちは一様に疲れ果てた囚人であり、かつての栄光は見る影もない。
ソフィア王女には著しい異変が見て取れた。
幽閉生活を通して輝かしい生活が失われた精神的苦痛に起因するのか、私でさえ驚くほど醜い姿に変わっている。不健康な蒼白い肌は酷く荒れており、全身が浮腫み、やや太っていた。
別人のようだという印象を一瞬は抱くものの、その禍々しい目つきや尊大な態度は見慣れたソフィア王女その人である。
幽閉が醜い心を具現化したかのようでもあった。
ウィリスが証言台で泣き喚く。
「食事に薬を盛り僕の自由を奪い、僕を裸にして、その女が僕を馬鹿にして全身を道化師みたいに塗りました。そしてソフィア王女が僕の皮膚を切り刻み始めました……!それをまるで余興でも楽しむように眺めながら奴等は食事を続けていました!それが終わるとその女の医師たちが僕の血を止める処置をしました……それからその男が僕を暴行したんだぁッ!!」
パメラ夫人の医師とその助手たちは尋問が厳しく体調面で出廷できないのか、またはニコラス王太子に何らかの意図があるのかわからないが、姿はない。
「しかも、その間、ずっと、僕が自分の姿を見続けるように、鏡が並べられていた。こっちと、こっちと、こっちに。僕は常に自分が何をされているか、自分がどうなっていくかを見ていなければならなかった……!僕は壊すために用意された只の人形だと奴らは言いました!途中で薬が切れて、激しい痛みが僕を襲いました……全身燃えるように熱かった……僕が呻くと、奴らは酒を飲んで笑いました!どうしてお前がそっちにいるんだぁッ!!」
下着一枚の姿で痛ましい傷を晒し泣き喚くウィリスがジェーンに向かって叫んだ。
私はニコラス王太子に目で合図をしたが、意図は正しく伝わったようでジェーンが責められることはなかった。
「痛くて……苦しくて……それでも体はまだ動かない僕を、奴らはまた切り刻んだり、焼いたり、針を刺したり、酒をかけたり、殴ったり、蹴ったり、髪を掴んでふりまわしたり、両手両足をバラバラに引っ張ったり……なんであんな……どうしてあんなことを……っ」
屈辱と激痛をまざまざと思い出した様子のウィリスは証言台で泣き崩れた。傍聴席では両親のシェロート伯爵夫妻も嗚咽を上げている。
「ソフィア王女は僕を置き去りにしました……っ、それからずっと、助け出されるまで、僕は、玩具にされました……医師は僕を修理して、また遊べるようにするんです……そして僕は、少しよくなるとまた……ううっ、くそばばあっ!なんでこんなことしたんだ!消えない!消えないぞ!僕は汚い襤褸人形みたいじゃないかぁっ!!」
ウィリスは正気を失っていた。
併し一頻り泣き喚いたウィリスは未だ傷痕が生々しい痩せた手で証言台にしがみ付き、涙と涎を垂らしたまま、ニコラス王太子を睨みつけた。
「僕は、あなたの身代わりだった」
血を吐くようにウィリスが声を絞り出す。
「ソフィア王女は確かに言いました。僕は実験台の為の人形だと。いつか殿下を拷問する為の練習をしているのだと。これがあなたの姿だ王太子殿下ァッ!!」
ニコラス王太子は厳しい表情でウィリスの慟哭を受け止めている。
「そして……」
ウィリスは証言台に掴まり激しく喘ぎながら泣いているが、王妃に視線を移した時だけはその憎悪をやや弱まらせた。
美しく威厳を兼ね備えたオクタヴィアは神々しく、救いを求める気持ちか敬意がウィリスの中に突如として生まれたらしかった。
「実験が終わったら僕は男娼になるのだとソフィア王女は言いました。殿下にするのと同じ拷問を、王妃様、あなたにも行い、傷ついたあなたを癒し、溺れさせる男娼に、僕は、なるはずでした……だからヒルデガルドはあなたの身代わりでした。王妃様。信じてください。本当です」
必死の訴えを受けても王妃の眼差しはどこか冷めており、他人事か些末な雑事としか捉えていないかのような印象を受ける。
全てを言い切った様子でウィリスが呆然と静かな涙を流し始め、ニコラス王太子が下がらせるよう指示を出す。
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