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21(アンジェリア)
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愛しい愛しいグロリアーナお嬢様からの手紙を握りしめた後、夫タイロンがめそめそと泣き始めたので私は拳を震わせずにはいられなかった。
私に求婚し愛を囁いている間にも、愛しのグロリアーナお嬢様を熱烈に抱いていた男だ。とうに愛なんて冷めている。
それでも結婚したのだから関係を修復しようと機会を窺う私に甘えているのも腹立たしい。そうでなけれな太々しく私の目の前で泣かないだろう。
「どうなさったの?」
「……っ」
タイロンは片手で目元を拭いつつ片手で手紙を渡してくる。
リドリー伯爵家の主クアーク侯爵家の御令嬢であり、今ではブライトマン伯爵令息の妻であるグロリアーナお嬢様が、当然のように私の夫に宛てた手紙を開き、憤懣やる方ない思いを噛み殺しつつ目を通した。
「……!」
私は目を疑った。
そして女々しく泣いている夫の神経をも疑った。
「あなたはこれを読んでただ泣いていらっしゃるわけ?か、可哀想で?」
手紙は切実に助けを求める内容だった。
勘当から間一髪救われるタイミングではあるものの、落ちぶれた神童ブライトマン伯爵令息アーノルドと結婚したグロリアーナお嬢様。
私の婚約中に私の夫との間に作った息子ジュリアンも養子として道連れにしていった。
ブライトマン伯爵令息アーノルドといえば、堅実な常識人として知られるウィンデイト伯爵の双子の娘を盛大に侮辱して身を滅ぼした愚か者だ。
双子など神秘的という一点を除けば可愛くて興味深いものだと思うが、神童と持て囃された自惚れた世間知らずにとっては違う。
手紙にはグロリアーナお嬢様が男女の双子を出産したことと、その父親アーノルドによって双子が抹殺される危険があることが綴られており、タイロンに助けを求める一文で締め括られている。
「……あなた」
これを見て飛び出して行かないのが腑に落ちない。
愛情も冷めていて嫉妬とも無縁の境地に達していた私は純粋に尋ねた。
「助けに行かないの?」
タイロンは鼻を啜って悲しげな視線を彷徨わせながら言った。
「あの方は僕の元から去り、息子まで奪った」
「はい?」
信じられない発言に耳を疑う。
「更には未来のない若造に体を許し、子どもを……」
呆れた。
自分が裏切られた被害者のつもりで嘆いているのだ。
どこまで自分本位な男なのだろう。
「あなたは私にキス一つなさらないというのにね」
「そうだ」
鎌を掛けると尤もそうに頷く。
まるで私がただ一人の理解者とでもいうように。
瞬間的に私は自分のすべきことを悟った。
静かに救援要請の手紙を畳むと夫を横目にただ告げる。
「出かけますわ」
夫は悲しげにこちらを見上げると微かに微笑んだ。
「ありがとう。センスのいい君ならいい出産祝いを選んでくれると信じているよ」
「ええ。任せてください」
最早この男には軽蔑しかない。
関係修復などという夢を見た自分が愚かだったのだ。
私は一途クアーク侯爵家へと馬車を走らせた。
私に求婚し愛を囁いている間にも、愛しのグロリアーナお嬢様を熱烈に抱いていた男だ。とうに愛なんて冷めている。
それでも結婚したのだから関係を修復しようと機会を窺う私に甘えているのも腹立たしい。そうでなけれな太々しく私の目の前で泣かないだろう。
「どうなさったの?」
「……っ」
タイロンは片手で目元を拭いつつ片手で手紙を渡してくる。
リドリー伯爵家の主クアーク侯爵家の御令嬢であり、今ではブライトマン伯爵令息の妻であるグロリアーナお嬢様が、当然のように私の夫に宛てた手紙を開き、憤懣やる方ない思いを噛み殺しつつ目を通した。
「……!」
私は目を疑った。
そして女々しく泣いている夫の神経をも疑った。
「あなたはこれを読んでただ泣いていらっしゃるわけ?か、可哀想で?」
手紙は切実に助けを求める内容だった。
勘当から間一髪救われるタイミングではあるものの、落ちぶれた神童ブライトマン伯爵令息アーノルドと結婚したグロリアーナお嬢様。
私の婚約中に私の夫との間に作った息子ジュリアンも養子として道連れにしていった。
ブライトマン伯爵令息アーノルドといえば、堅実な常識人として知られるウィンデイト伯爵の双子の娘を盛大に侮辱して身を滅ぼした愚か者だ。
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「……あなた」
これを見て飛び出して行かないのが腑に落ちない。
愛情も冷めていて嫉妬とも無縁の境地に達していた私は純粋に尋ねた。
「助けに行かないの?」
タイロンは鼻を啜って悲しげな視線を彷徨わせながら言った。
「あの方は僕の元から去り、息子まで奪った」
「はい?」
信じられない発言に耳を疑う。
「更には未来のない若造に体を許し、子どもを……」
呆れた。
自分が裏切られた被害者のつもりで嘆いているのだ。
どこまで自分本位な男なのだろう。
「あなたは私にキス一つなさらないというのにね」
「そうだ」
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瞬間的に私は自分のすべきことを悟った。
静かに救援要請の手紙を畳むと夫を横目にただ告げる。
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「ありがとう。センスのいい君ならいい出産祝いを選んでくれると信じているよ」
「ええ。任せてください」
最早この男には軽蔑しかない。
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私は一途クアーク侯爵家へと馬車を走らせた。
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