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20(アーノルド)
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跡継ぎの誕生を待ち侘びる高揚感に胸が高まり、口元が緩む。
廊下に椅子を置きそこで待機してもう二日目だ。難産とのことだった。
正直、息子さえ生まれてくれたらそれでいい。
グロリアーナも神童と呼ばれたこの僕の息子を産み落してこの世を去るならば、汚名返上も全うし満足だろう。
だがグロリアーナは死ななかった。
産声が上がった数秒後、驚くほど力強く叫んだのだ。
「夫に言わないでぇッ!!」
「?」
けたたましい元気な産声が聞こえている以上、跡継ぎの命には心配無用かに思えた。僕が扉に手を掛けるのと、廊下の端に父が現れたのが同時だった。
僕のようにグロリアーナの出産に合わせて待機していたわけではない。
帰宅時間が偶然、産声に重なったに過ぎない。
「真の初孫ですよ、父上!」
僕の声もどこか弾んでいた。
部屋の中からはグロリアーナの絶叫と産声が轟き続けている。
父の顔色が変わったが、僕には意味がわからなかった。
僕は意気揚々と扉を開けた。
僕から悍ましい部位は見えなかったが、布に包まれた小さな僕の子どもが泣き喚いていて歓喜に震えた。次の瞬間、産婆と医師が僕を見ずに言った。
「おめでとうございます、アーノルド様!」
「双子です!一人目は女の子ですよ!さあ、若奥様!もう一息です!いきんで!!」
「──」
一瞬、意味がわからなかった。
「は?」
しかし理解してしまった。
こともあろうにグロリアーナは僕の血を引く欠陥人間を産み落したのだ。それも女。跡継ぎでもなければまともな人間ですらない。
「……うああっ」
僕は呻き声をあげて部屋を飛び出した。
廊下を走る途中で父とすれ違ったが、父はまるで僕が欠陥品であるかのような愕然とした目を向けてきたのが更に苛立ちを煽った。
僕は子ども部屋に駆け込み、子守りと遊んでいた養子のジュリアンの頬を力任せに叩いた。
「アーノルド様!おやめください!!」
子守りが叫んだ。
僕が気づいた時、子守りは僕の拳を受けながら身を挺して不義の子を守っていた。父と使用人に引き剥がされて尚、僕は怒りに震え叫び続けた。
何もかもが上手くいかない。
碌でもない展開ばかりが立て続けに僕を襲う。
王国は僕の真価を見誤り捨てた。
世界は僕を裏切り苦しめる。
それもこれもすべてあの欠陥人間である女と婚約してしまったからだ。
あの日から僕の人生は狂った。
「……くそぉ……くそ……!なんで……!」
双子。双子。双子。
僕は双子に人生を狂わされた。
だがこんな偶然が起きるものだろうか。
「……っ」
僕は────僕は、神童。
神などいないと笑っていた。空想上の神より僕の方が遥かに価値があり優れていると信じていた。
だが、もし、それが勘違いだとしたら?
神を笑う僕を、神が罰していたとしたら辻褄が合う。
僕を破滅させる双子。
「……これは……呪い……なの、か……?」
それならば、僕は改めなくてはならない。
価値観も信条も何もかも全て、人生そのものを悔い改めなければ。
「……双子の……娘……──!!」
閃いた。
それは凄まじい衝撃だった。
そう。
これだ。
これこそは神が与えし償いの機会。
「……」
神童。
神に選ばれし子ども。
僕はついにその役目を正しく理解した。
僕の成すべきこと。
「ああ……神様……!」
それは神へ捧げる生贄の儀式だ!
廊下に椅子を置きそこで待機してもう二日目だ。難産とのことだった。
正直、息子さえ生まれてくれたらそれでいい。
グロリアーナも神童と呼ばれたこの僕の息子を産み落してこの世を去るならば、汚名返上も全うし満足だろう。
だがグロリアーナは死ななかった。
産声が上がった数秒後、驚くほど力強く叫んだのだ。
「夫に言わないでぇッ!!」
「?」
けたたましい元気な産声が聞こえている以上、跡継ぎの命には心配無用かに思えた。僕が扉に手を掛けるのと、廊下の端に父が現れたのが同時だった。
僕のようにグロリアーナの出産に合わせて待機していたわけではない。
帰宅時間が偶然、産声に重なったに過ぎない。
「真の初孫ですよ、父上!」
僕の声もどこか弾んでいた。
部屋の中からはグロリアーナの絶叫と産声が轟き続けている。
父の顔色が変わったが、僕には意味がわからなかった。
僕は意気揚々と扉を開けた。
僕から悍ましい部位は見えなかったが、布に包まれた小さな僕の子どもが泣き喚いていて歓喜に震えた。次の瞬間、産婆と医師が僕を見ずに言った。
「おめでとうございます、アーノルド様!」
「双子です!一人目は女の子ですよ!さあ、若奥様!もう一息です!いきんで!!」
「──」
一瞬、意味がわからなかった。
「は?」
しかし理解してしまった。
こともあろうにグロリアーナは僕の血を引く欠陥人間を産み落したのだ。それも女。跡継ぎでもなければまともな人間ですらない。
「……うああっ」
僕は呻き声をあげて部屋を飛び出した。
廊下を走る途中で父とすれ違ったが、父はまるで僕が欠陥品であるかのような愕然とした目を向けてきたのが更に苛立ちを煽った。
僕は子ども部屋に駆け込み、子守りと遊んでいた養子のジュリアンの頬を力任せに叩いた。
「アーノルド様!おやめください!!」
子守りが叫んだ。
僕が気づいた時、子守りは僕の拳を受けながら身を挺して不義の子を守っていた。父と使用人に引き剥がされて尚、僕は怒りに震え叫び続けた。
何もかもが上手くいかない。
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あの日から僕の人生は狂った。
「……くそぉ……くそ……!なんで……!」
双子。双子。双子。
僕は双子に人生を狂わされた。
だがこんな偶然が起きるものだろうか。
「……っ」
僕は────僕は、神童。
神などいないと笑っていた。空想上の神より僕の方が遥かに価値があり優れていると信じていた。
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閃いた。
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「……」
神童。
神に選ばれし子ども。
僕はついにその役目を正しく理解した。
僕の成すべきこと。
「ああ……神様……!」
それは神へ捧げる生贄の儀式だ!
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