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「ご安心ください、お嬢様。掛け替えのない新婚生活を脅かされないよう、奥様は何があっても御屋敷に近づかせませんので」
「この子が招待してくれたら話は別でしょう?」
「左様でございます、奥様。御招待いただかない限りお邪魔してはいけません」
「大丈夫よ、カイラ。私だって久しぶりのあの人と二人きりの生活を楽しみにしているんだから!」
母とシャットルワースの軽妙なやり取りを間近で聞く機会も激減すると思うと一抹の寂しさが胸を過った。
しかし同じ首都に邸宅を構え、馬車で二十分もかからない距離だ。
切実に母が新婚生活に介入してこないようシャットルワースには励んでもらいたい。
マテウスと私は新居を整えるのも婚約期間の楽しみとして、時には共に、時間を見つけては各々が引っ越しの準備を進めている。
そして……
「おめでとう!」
「おめでとうマテウス卿!」
「おめでとうございます!ウィンデイト伯爵、お嬢様は二人とも実にいい夫と結ばれましたな!」
「末永くお幸せに!!」
マテウスと私の結婚式は首都の煌びやかな聖堂で厳粛に執り行われた後、宮殿の広間で披露宴となった。
ウィンデイト伯爵家、ペベレル伯爵家、そしてハリエットの婚家ホッブス伯爵家がそれぞれ宮廷貴族に顔が利く上、マテウスが王家の心も射止めていた為だ。
これは贅沢な経験だった。
王立研究所に莫大な寄付金を投じた義弟ホッブス伯爵は王国の未来を担う研究者に囲まれ、新婚夫婦の私たちとは別の賑わいの中に閉じ込められている。
私はハリエットと目を合わせ、無言のまま多くの会話を重ねた。
互いが幸せな結婚をして、満足している。互いを祝福している。幸せを願っている。
心強い幸福感は私を満たし、同じようにハリエットも満たしている。
「カイラ」
降り注ぐ祝福のほんの少しの隙をつきマテウスが私の耳元で囁いた。
「愛してる」
「私も」
私も囁き返した。
「幸せよ」
「おめでとうマテウス卿!この幸せ者め!」
際限なく祝福の波に揉まれながら、煌びやかで幸福な時間が過ぎていき、やがて唐突に疲労を覚えた頃には月が美しく輝いていた。
私の薔薇色のカーテンが甘い香りを運ぶ風にはためき続け、愛と喜びに満ちた美しい人生の門出を約束しているかのような夜だった。
煌めく清らかな朝の日の光と共に、愛する夫マテウスと二人きりの生活が始まる。
新婚旅行から帰るとマテウスの妻としての新しい日々が待っており、同じ首都に住みながらも新鮮で胸が弾んだ。
そして母の言葉は真実だった。
母は父と二人きりの生活を満喫し、二度目の新婚生活だと惚気た手紙を送って来るだけで全く姿を見せない。
新婚ということを考慮されたのか、マテウスは主に宮廷で要人の接待役や揉め事の調整役などを連日任され、温泉別荘地への護衛は少なくとも一年遠慮するようマテウス愛好者たちによって取り決められた。
こうして恵まれた幸せな新婚生活が保証されたおかげで、結婚から一年、私は初産に至った。
だからだろうか。
産後しばらくして体調が安定するまでの決して短くはない間、私の耳には入らないようにと実に巧妙に伏せられていたある一つの事実があった。
ブライトマン伯爵令息の結婚。
私は息子のレイモンを抱きながら、マテウスに肩を抱かれつつ、遥か彼方遠い過去の人である元婚約者の顔を思い浮かべて一言簡素な感想を洩らす。
「そうなの」
道は別れ、其々の人生を歩んでいる他人。
最早腰痛の陰もない太陽のようなマテウスの笑顔や、レイモンの寝顔や寝息という大きな幸せに包まれた私にとっては、それだけの相手となっていた。
ただ……
結婚したというのなら、同じような幸せを見つけて欲しい。愚かな拘りを捨て家庭を愛してほしい。
願わくば、どうか、ブライトマン伯爵家に生れ落ちる新たな命が単一であるように。
私だけでなく関与した誰もが抱いていそうな願いも、私はすぐに忘れてしまった。
マテウスに肩を抱かれながらマテウスによく似た可愛いレイモンの笑顔を見ていると、微笑まずにはいられない。
愛しさと幸福感に包まれて、私はレイモンの頬をそっと撫で、マテウスと笑みを交わした。
「この子が招待してくれたら話は別でしょう?」
「左様でございます、奥様。御招待いただかない限りお邪魔してはいけません」
「大丈夫よ、カイラ。私だって久しぶりのあの人と二人きりの生活を楽しみにしているんだから!」
母とシャットルワースの軽妙なやり取りを間近で聞く機会も激減すると思うと一抹の寂しさが胸を過った。
しかし同じ首都に邸宅を構え、馬車で二十分もかからない距離だ。
切実に母が新婚生活に介入してこないようシャットルワースには励んでもらいたい。
マテウスと私は新居を整えるのも婚約期間の楽しみとして、時には共に、時間を見つけては各々が引っ越しの準備を進めている。
そして……
「おめでとう!」
「おめでとうマテウス卿!」
「おめでとうございます!ウィンデイト伯爵、お嬢様は二人とも実にいい夫と結ばれましたな!」
「末永くお幸せに!!」
マテウスと私の結婚式は首都の煌びやかな聖堂で厳粛に執り行われた後、宮殿の広間で披露宴となった。
ウィンデイト伯爵家、ペベレル伯爵家、そしてハリエットの婚家ホッブス伯爵家がそれぞれ宮廷貴族に顔が利く上、マテウスが王家の心も射止めていた為だ。
これは贅沢な経験だった。
王立研究所に莫大な寄付金を投じた義弟ホッブス伯爵は王国の未来を担う研究者に囲まれ、新婚夫婦の私たちとは別の賑わいの中に閉じ込められている。
私はハリエットと目を合わせ、無言のまま多くの会話を重ねた。
互いが幸せな結婚をして、満足している。互いを祝福している。幸せを願っている。
心強い幸福感は私を満たし、同じようにハリエットも満たしている。
「カイラ」
降り注ぐ祝福のほんの少しの隙をつきマテウスが私の耳元で囁いた。
「愛してる」
「私も」
私も囁き返した。
「幸せよ」
「おめでとうマテウス卿!この幸せ者め!」
際限なく祝福の波に揉まれながら、煌びやかで幸福な時間が過ぎていき、やがて唐突に疲労を覚えた頃には月が美しく輝いていた。
私の薔薇色のカーテンが甘い香りを運ぶ風にはためき続け、愛と喜びに満ちた美しい人生の門出を約束しているかのような夜だった。
煌めく清らかな朝の日の光と共に、愛する夫マテウスと二人きりの生活が始まる。
新婚旅行から帰るとマテウスの妻としての新しい日々が待っており、同じ首都に住みながらも新鮮で胸が弾んだ。
そして母の言葉は真実だった。
母は父と二人きりの生活を満喫し、二度目の新婚生活だと惚気た手紙を送って来るだけで全く姿を見せない。
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だからだろうか。
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