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13(アーノルド)
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「何を謝れと?愚行を重ね生き恥を晒しているのは向こうですよ父上。誉れ高い王立研究所にまで乗り込んでくるとは野蛮極まりないじゃありませんか。このまま逮捕していっそ監獄にぶち込んでもらいましょう」
「あまり事を荒立てないでくれ。潤沢な研究資金を確保する為には何一つ問題が起きてはならんのだ」
「問題を起こしているのは僕ではありません!」
「わかっている。だが上手く立ち回り研究所を守るのは自衛という義務なんだ。お前ならできるはずだ」
「……」
納得できないことだらけだが、父の持論にも一理ある。
節操の無い野蛮人にいくら道理を説こうと無駄だとわからない僕ではない。寧ろ僕と同じ水準で思考できないからこそ愚行に愚行を重ねている奴らだ。
「わかりました」
「わかってくれたか。よかった」
「手早く済ませます。一分一秒無駄にできませんからね」
「ああ。上辺だけでいいんだ。形だけ謝れば」
「はぁ」
全く承服しかねる由々しき事態だ。
何故この僕が人間未満の出来損ないに謝罪しなければならないのか。
父は金で黙らせる方法を取ったが僕は納得していない。こんな馬鹿な話は筋が通らない。
「よし。はっきり言ってやる」
僕は決意も新たに浅ましい下衆なホッブス伯爵夫妻の待つ応接室に向かった。
本来は価値ある賓客と意義ある歓談をする為の応接室だというのに、ホッブス伯爵夫妻に僕の研究所を穢された気分だ。
「ぅ……」
その顔を見ると吐気がした。
僕の元婚約者ウィンデイト伯爵令嬢カイラとそっくりそのまま同じ顔で、服装だけが違う女がいる。それは僕を睨み、野蛮な攻撃性を隠そうともしない。
隣の髭面は論外だ。人間以下の者と結婚する低能に用はない。僕はこの足であの淫らな温泉別荘地の土を踏んでしまった事実を心底後悔していた。
「話はなんだ」
顔を見ると益々謝罪したくなくなった。
この場で跪かせ靴を舐めさせその頭を踏みつけたいくらいだ。
「うぅーん……戦争かな」
髭面の男が面白くもない冗談を零し薄笑いを浮かべている。
「僕は忙しいんだ。話があるならさっさと──」
「よくも私を侮辱してくれたわね」
人間以下の女が口を開いた。
僕の認め難い過去の一つ、未完成な生き物と婚約してしまっていた過去を力強く掘り返すそっくりな声に、腹の底がぞわりと怖気だつ。
「関わったことを後悔している」
「普通、求婚する前に気づくと思うけど」
カイラ以上に生意気な口を利くこの女を今すぐ抹殺したいが、さすがにそうもいかないだろう。
「貴様のせいで大恥をかいた。もう二度と目の前に現れないでくれ」
「……なるほどね」
「君だって言葉くらいは理解しているんだろう?簡単なことだ。僕たちはもう何ら関係のない関係だ。付き纏うな」
鬱陶しい髭面のホッブス伯爵がカイラそっくりな女の肩に馴れ馴れしく手を置いて小声で何か言った。それが癪に障り僕は叫んだ。
「おい!」
女がホッブス伯爵に頷き返し席を立つ。
僕に見せつけるような密談を目の当たりにし気づいた。
「!」
全ての謎が解けた!!
いつもながら素晴らしい快感が僕を貫いた。
「あまり事を荒立てないでくれ。潤沢な研究資金を確保する為には何一つ問題が起きてはならんのだ」
「問題を起こしているのは僕ではありません!」
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