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11(ブライトマン伯爵)
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脱走した息子が数日ぶりにやっと姿を見せたかと安堵した矢先、衝撃的な事実を告げられる。
私は愕然とせざるを得なかった。
「お前はペベレル伯爵も知らないのか……!?」
それもそうだが現在の自身の圧倒的窮地をまるで理解していないことが私には信じられなかった。だから一番些細な驚きを言葉にしてこの問題を少しでも軽いものであるかのように錯覚したかったのだ。
失敗した。
私は息子を神童に仕立て上げ後継者として教育したつもりだったが、出来上がったのは自惚れが過ぎる阿保息子でしかない。
あの頃、王立研究所の立場はあくまで教会が保有する修道院研究所の補佐的なものでしかなかった。
現実的に再現性のある理論より神の奇跡ばかり口にして碌な研究も行えない狂信者共にどうしても勝利する必要があったのだ。
私は徹底的に結果を暗記させた上で5才になったばかりのアーノルドを実験に参加させ、天才的な神童の誕生を皆に信じ込ませた。教会は神の奇跡だと煩かったが、そんなものは起きていないことは私が誰よりもよく知っていた。馬鹿な狂信者共め。
さて、私の計画が見事に成功し、王国の未来を担う研究所として王立研究所は経費を五倍に増やし、その後八倍に膨らませ今に至るのだが……
アーノルドは自身を天才と思い込んだ他、取り立てて目立つ結果を出せていない。
客観性に欠ける独自理論を構築しふんぞり返る以外に何もできない高慢な馬鹿息子を表に出せず、結果的に研究所で軟禁するようにしてここまで育ててしまった。
結婚すると言い出した時は、これで少しは普通に……人間として普通寄りの感覚になってくれるかと期待したが、結果は相手を怒らせブライトマン伯爵家の地位を危うい低さまで貶めただけだった。私は泣いた。
今日もまた息子は意気揚々と自身の狂気的独自理論に酔っている。
「そんなくだらない事柄にかまけていられませんよ。僕には王国の未来が掛かっている。この王国を発展させるために、あの野蛮な騎士という制度は廃止すべきです。必要ありません」
体内のあちこちが軋むように痛い。胃に、胸に、肺に、頭……数えては悲しくなるばかりだ。
「お前、王国が有する領地名を把握しておくのは貴族の義務だぞ」
「そんなこと誰が決めたのです?聞いたことがありませんね」
大前提すぎて誰もわざわざ口に出したりしない。誰かに教える必要すらない。
しかし息子には貴族としての感性が欠如している。これは認め難い事実だが、私はこの苦難を数年前にやり過ごした己の判断を今になって酷く後悔している。
教育し直すには遅い。
それこそ神の奇跡で人間をそっくりそのまま造り変えるくらいのことをしなければどうにもならない。だが神など何処にいる?私は終ぞ対峙したことはない。
当然だ。存在していないものとは対峙できない。
神など、弱く無能な人間の空想に過ぎないのだ。
「僕は体制が古いと思います!騎士などと呼び野蛮人をさも価値ある人間かのように錯覚させのさばらせ、そいつらに貴族の安全を守らせるなど可笑しくて笑いが止まりませんよ。普通に暮らしていれば危険などないですから。貴族はその尊い存在だけで人生を保証されている。騎士など無駄です」
「アーノルド、お前……」
どこから手をつければいいか皆目見当がつかない。
この失敗作を二度と世に晒さない為に研究所で監禁し続けるとしても私も不老不死ではない。私が死ぬ時、事故に見せかけて殺すしかないだろうか。
秘密など隠し通せばいい。
だが私の亡き後、息子は確実にブライトマン伯爵家を滅亡させるだろう。
生かしてはおけない。
私は愕然とせざるを得なかった。
「お前はペベレル伯爵も知らないのか……!?」
それもそうだが現在の自身の圧倒的窮地をまるで理解していないことが私には信じられなかった。だから一番些細な驚きを言葉にしてこの問題を少しでも軽いものであるかのように錯覚したかったのだ。
失敗した。
私は息子を神童に仕立て上げ後継者として教育したつもりだったが、出来上がったのは自惚れが過ぎる阿保息子でしかない。
あの頃、王立研究所の立場はあくまで教会が保有する修道院研究所の補佐的なものでしかなかった。
現実的に再現性のある理論より神の奇跡ばかり口にして碌な研究も行えない狂信者共にどうしても勝利する必要があったのだ。
私は徹底的に結果を暗記させた上で5才になったばかりのアーノルドを実験に参加させ、天才的な神童の誕生を皆に信じ込ませた。教会は神の奇跡だと煩かったが、そんなものは起きていないことは私が誰よりもよく知っていた。馬鹿な狂信者共め。
さて、私の計画が見事に成功し、王国の未来を担う研究所として王立研究所は経費を五倍に増やし、その後八倍に膨らませ今に至るのだが……
アーノルドは自身を天才と思い込んだ他、取り立てて目立つ結果を出せていない。
客観性に欠ける独自理論を構築しふんぞり返る以外に何もできない高慢な馬鹿息子を表に出せず、結果的に研究所で軟禁するようにしてここまで育ててしまった。
結婚すると言い出した時は、これで少しは普通に……人間として普通寄りの感覚になってくれるかと期待したが、結果は相手を怒らせブライトマン伯爵家の地位を危うい低さまで貶めただけだった。私は泣いた。
今日もまた息子は意気揚々と自身の狂気的独自理論に酔っている。
「そんなくだらない事柄にかまけていられませんよ。僕には王国の未来が掛かっている。この王国を発展させるために、あの野蛮な騎士という制度は廃止すべきです。必要ありません」
体内のあちこちが軋むように痛い。胃に、胸に、肺に、頭……数えては悲しくなるばかりだ。
「お前、王国が有する領地名を把握しておくのは貴族の義務だぞ」
「そんなこと誰が決めたのです?聞いたことがありませんね」
大前提すぎて誰もわざわざ口に出したりしない。誰かに教える必要すらない。
しかし息子には貴族としての感性が欠如している。これは認め難い事実だが、私はこの苦難を数年前にやり過ごした己の判断を今になって酷く後悔している。
教育し直すには遅い。
それこそ神の奇跡で人間をそっくりそのまま造り変えるくらいのことをしなければどうにもならない。だが神など何処にいる?私は終ぞ対峙したことはない。
当然だ。存在していないものとは対峙できない。
神など、弱く無能な人間の空想に過ぎないのだ。
「僕は体制が古いと思います!騎士などと呼び野蛮人をさも価値ある人間かのように錯覚させのさばらせ、そいつらに貴族の安全を守らせるなど可笑しくて笑いが止まりませんよ。普通に暮らしていれば危険などないですから。貴族はその尊い存在だけで人生を保証されている。騎士など無駄です」
「アーノルド、お前……」
どこから手をつければいいか皆目見当がつかない。
この失敗作を二度と世に晒さない為に研究所で監禁し続けるとしても私も不老不死ではない。私が死ぬ時、事故に見せかけて殺すしかないだろうか。
秘密など隠し通せばいい。
だが私の亡き後、息子は確実にブライトマン伯爵家を滅亡させるだろう。
生かしてはおけない。
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