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出会ったばかりである。
片方は自由に動けない状態である。
互いを知り合う為の会話だけで時間は飛ぶように過ぎていった。
「ホッブス伯爵には大変可愛らしい婚約者がいるという話を本当によく聞いたものだけど、双子というからには、その印象はホッブス伯爵によるものだね」
「え?」
「あなたは美しい。眩しい程に」
マテウスがふいに目を閉じる。
「あなたという光を追い求める人生はどれほど幸せだろうかと考えてしまう。こうして目を閉じるとあなたの微笑む顔が浮かぶ」
「私も寝る前に目を閉じてあなたの笑顔を思い浮かべているわ」
「本当に?」
「ええ」
「カイラ」
「なに?マテウス」
「おかしな出会いだったけど、こうして一緒にいられるのは奇跡と思っていいだろうか」
「少なくとも私の親族が加担する程の喜ばしい奇跡ね」
「そうか。よかった」
今わの際でもないのに仰向けに横たわったまま愛の言葉を囁くわけにはいかないという考えに至るのは至極当然。私たちは焦らなかった。
マテウスは宮廷付の騎士ではあるものの湯治が済み次第ペベレル伯領に帰る。
私は首都の別荘住いだが、現実的に交流が続けられる距離である。
その上、様々な用事で頻繁に首都に訪れるマテウスを招くこともできる。
顔が広く信頼されているマテウスが破談直後の令嬢と軽々しく遊ぶというのはあまりに現実味がない話だ。
それ以前に私たちの間にはなにかがあった。
言うなれば元婚約者ブライトマン伯爵令息との間にはなかった心の交流や、心の和む会話がある。それでも単なる友情ではない。
正直なところ私はこの出会いにかなり舞い上がっていたのだが、後からマテウスにそうは見えなかったと言われてしまった。だかそれも先の話だ。
「ペベレル伯領に来たことはある?」
とりとめのない会話に於いて話題は変幻自在に移り変わる。
「いいえ」
「此処のように観光地として発展しているような場所はないにしろ、葡萄園は立派なものだよ。あなたに見せたいな」
「是非見たいわ」
「私が乗馬できるようになったらご案内したいと言ったら、あなたは頷いてくれるだろうか」
「喜んで」
「本当に?」
「ええ。とても楽しみ」
穏やかに探り合いながら確実な手応えを感じているのは、私だけではないはずだ。
「ウィンデイト伯領は温泉もなければ余所より抜きん出る規模の農園もない上に一年の九割は私もいないけれど、長閑ないいところよ」
「あなたのお気に入りの場所を見てみたいな。森でも、湖でも」
「叶うと思うわ。マテウス」
「カイラ……あなたが今、此処にいてくれて……本当に……」
眠気で言葉が不明瞭になっているというわけではなさそうだった。
寧ろ眠気であれば、激痛で睡眠が妨げられる時期を越えたのだから喜ばしい。
しかしそうではない。
迷いながら言葉を選び、選んだ言葉を口に出していいものかと悩み、その答えを私の瞳の奥に探している。私も同じだった。
私たちは暫し無言で見つめ合い、どちらが先に口を開くか待った。
そして、マテウスが言った。
「カイラ。あなたを迎えに行きます」
片方は自由に動けない状態である。
互いを知り合う為の会話だけで時間は飛ぶように過ぎていった。
「ホッブス伯爵には大変可愛らしい婚約者がいるという話を本当によく聞いたものだけど、双子というからには、その印象はホッブス伯爵によるものだね」
「え?」
「あなたは美しい。眩しい程に」
マテウスがふいに目を閉じる。
「あなたという光を追い求める人生はどれほど幸せだろうかと考えてしまう。こうして目を閉じるとあなたの微笑む顔が浮かぶ」
「私も寝る前に目を閉じてあなたの笑顔を思い浮かべているわ」
「本当に?」
「ええ」
「カイラ」
「なに?マテウス」
「おかしな出会いだったけど、こうして一緒にいられるのは奇跡と思っていいだろうか」
「少なくとも私の親族が加担する程の喜ばしい奇跡ね」
「そうか。よかった」
今わの際でもないのに仰向けに横たわったまま愛の言葉を囁くわけにはいかないという考えに至るのは至極当然。私たちは焦らなかった。
マテウスは宮廷付の騎士ではあるものの湯治が済み次第ペベレル伯領に帰る。
私は首都の別荘住いだが、現実的に交流が続けられる距離である。
その上、様々な用事で頻繁に首都に訪れるマテウスを招くこともできる。
顔が広く信頼されているマテウスが破談直後の令嬢と軽々しく遊ぶというのはあまりに現実味がない話だ。
それ以前に私たちの間にはなにかがあった。
言うなれば元婚約者ブライトマン伯爵令息との間にはなかった心の交流や、心の和む会話がある。それでも単なる友情ではない。
正直なところ私はこの出会いにかなり舞い上がっていたのだが、後からマテウスにそうは見えなかったと言われてしまった。だかそれも先の話だ。
「ペベレル伯領に来たことはある?」
とりとめのない会話に於いて話題は変幻自在に移り変わる。
「いいえ」
「此処のように観光地として発展しているような場所はないにしろ、葡萄園は立派なものだよ。あなたに見せたいな」
「是非見たいわ」
「私が乗馬できるようになったらご案内したいと言ったら、あなたは頷いてくれるだろうか」
「喜んで」
「本当に?」
「ええ。とても楽しみ」
穏やかに探り合いながら確実な手応えを感じているのは、私だけではないはずだ。
「ウィンデイト伯領は温泉もなければ余所より抜きん出る規模の農園もない上に一年の九割は私もいないけれど、長閑ないいところよ」
「あなたのお気に入りの場所を見てみたいな。森でも、湖でも」
「叶うと思うわ。マテウス」
「カイラ……あなたが今、此処にいてくれて……本当に……」
眠気で言葉が不明瞭になっているというわけではなさそうだった。
寧ろ眠気であれば、激痛で睡眠が妨げられる時期を越えたのだから喜ばしい。
しかしそうではない。
迷いながら言葉を選び、選んだ言葉を口に出していいものかと悩み、その答えを私の瞳の奥に探している。私も同じだった。
私たちは暫し無言で見つめ合い、どちらが先に口を開くか待った。
そして、マテウスが言った。
「カイラ。あなたを迎えに行きます」
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