元婚約者様の勘違い

希猫 ゆうみ

文字の大きさ
上 下
5 / 27

しおりを挟む
ホッブス伯爵家での内輪のパーティーを満喫し、王立図書館での職務の為に父が一足先に首都へ帰った。
私は大詰めを迎えたハリエットの結婚準備を手伝いつつ、かなり元気になった叔母の姿に喜び、そして母と共に帰宅した。

この数日の間に元婚約者ブライトマン伯爵令息アーノルドの父親が謝罪に来ていたらしいと知り、私は帰宅早々、早速、内心冷笑するに至った。

「神童と持て囃された過去の栄光に酔い、過度に研究に没頭させ人間性の成長を阻害したと嘆いていた」
「教育を怠ったのね」
「貴族として王国の現状に常に関心を持つべきであるという根本的な精神を叩き込み、二度と他者を不快にさせないよう社交性を備えさせるまで研究所から出さないとのことだ」
「つまり何も変わらないと」
「そうなる」

父は慰謝料を受け取り、その額を私に明かした。

「裕福ね」
「お前の好きに使いなさい」

アーノルドは私から不貞行為の慰謝料を取れる前提で激昂していたが、当然、事実無根の勘違いによる一方的な婚約破棄なのであちらに受け取る資格はない。
寧ろ払う側であるということを父親のブライトマン伯爵が弁えていてくれたのが不幸中の幸だった。

穏やかな日常の中でハリエットの結婚式が迫り、親戚の中でも特に親しい家々がトムリンソン伯爵家に集う。当然、私たちウィンデイト伯爵家も合流した。
結婚式ともなれば父も長い休暇が取れる為、和やかな祝福ムードはかなり長く続いた。

私とそっくりなハリエットが幸せな花嫁の姿を見せてくれて、喜びは数倍にも膨れ上がった。
いつも以上に笑顔が溢れてしまった私は度々ハリエットに間違われたが、両親やホッブス伯爵はその点をかなり心得ていると言える。

ホッブス伯爵が人気者であることから参列者は思ったより多く、続くパーティーの招待客もまた大勢だったが、当然ながらブライトマン伯爵家はそのどちらにも招かれてはいなかった。

「あなたとハリエットを間違えて婚約破棄なんて神童も落ち目ね」
「というか、知らない方がいらっしゃるなんて驚きよ」

振られる会話には度々現れる元婚約者である。

「そんな変な男は忘れましょう」
「きっとすぐ素敵な方が現れるわ」

数多の妹への祝福に、数多の私への励まし。
私は定番となりつつあるやりとりにも喜びを噛み締めた。

「ありがとうございます。皆様にも更なる祝福がありますように」

結婚式と七日間のパーティーの後、初々しいホッブス伯爵夫妻の新婚旅行の時がやってきた。
ホッブス伯領は温泉別荘地である為、招待客のほとんどが流れるように温泉別荘地へと移動する。私たちウィンデイト伯爵家は叔母夫婦に招かれてトムリンソン伯爵家の別荘へ移動し、二週間の間、ほぼ家族水入らずのめでたく穏やかな日々を送るはずだった。

アーノルドが現れたのはトムリンソン伯爵家で寛ぎ始めて十一日目のことだった。
しおりを挟む
感想 26

あなたにおすすめの小説

(完結)その女は誰ですか?ーーあなたの婚約者はこの私ですが・・・・・・

青空一夏
恋愛
私はシーグ侯爵家のイルヤ。ビドは私の婚約者でとても真面目で純粋な人よ。でも、隣国に留学している彼に会いに行った私はそこで思いがけない光景に出くわす。 なんとそこには私を名乗る女がいたの。これってどういうこと? 婚約者の裏切りにざまぁします。コメディ風味。 ※この小説は独自の世界観で書いておりますので一切史実には基づきません。 ※ゆるふわ設定のご都合主義です。 ※元サヤはありません。

私達、政略結婚ですから。

恋愛
オルヒデーエは、来月ザイデルバスト王子との結婚を控えていた。しかし2年前に王宮に来て以来、王子とはろくに会わず話もしない。一方で1年前現れたレディ・トゥルペは、王子に指輪を贈られ、二人きりで会ってもいる。王子に自分達の関係性を問いただすも「政略結婚だが」と知らん顔、レディ・トゥルペも、オルヒデーエに向かって「政略結婚ですから」としたり顔。半年前からは、レディ・トゥルペに数々の嫌がらせをしたという噂まで流れていた。 それが罪状として読み上げられる中、オルヒデーエは王子との数少ない思い出を振り返り、その処断を待つ。

【完結】我儘で何でも欲しがる元病弱な妹の末路。私は王太子殿下と幸せに過ごしていますのでどうぞご勝手に。

白井ライス
恋愛
シャーリー・レインズ子爵令嬢には、1つ下の妹ラウラが居た。 ブラウンの髪と目をしている地味なシャーリーに比べてラウラは金髪に青い目という美しい見た目をしていた。 ラウラは幼少期身体が弱く両親はいつもラウラを優先していた。 それは大人になった今でも変わらなかった。 そのせいかラウラはとんでもなく我儘な女に成長してしまう。 そして、ラウラはとうとうシャーリーの婚約者ジェイク・カールソン子爵令息にまで手を出してしまう。 彼の子を宿してーー

婚約破棄してくださって結構です

二位関りをん
恋愛
伯爵家の令嬢イヴには同じく伯爵家令息のバトラーという婚約者がいる。しかしバトラーにはユミアという子爵令嬢がいつもべったりくっついており、イヴよりもユミアを優先している。そんなイヴを公爵家次期当主のコーディが優しく包み込む……。 ※表紙にはAIピクターズで生成した画像を使用しています

わたくし、残念ながらその書類にはサインしておりませんの。

朝霧心惺
恋愛
「リリーシア・ソフィア・リーラー。冷酷卑劣な守銭奴女め、今この瞬間を持って俺は、貴様との婚約を破棄する!!」  テオドール・ライリッヒ・クロイツ侯爵令息に高らかと告げられた言葉に、リリーシアは純白の髪を靡かせ高圧的に微笑みながら首を傾げる。 「誰と誰の婚約ですって?」 「俺と!お前のだよ!!」  怒り心頭のテオドールに向け、リリーシアは真実を告げる。 「わたくし、残念ながらその書類にはサインしておりませんの」

王女と婚約するからという理由で、婚約破棄されました

マルローネ
恋愛
伯爵令嬢のミレーヌと侯爵令息のバクラは婚約関係にあった。 しかしある日、バクラは王女殿下のことが好きだという理由で、ミレーヌと婚約破棄をする。 バクラはその後、王女殿下に求婚するが精神崩壊するほど責められることになる。ミレーヌと王女殿下は仲が良く婚約破棄の情報はしっかりと伝わっていたからだ。 バクラはミレーヌの元に戻ろうとするが、彼女は王子様との婚約が決まっており──

婚約なんてするんじゃなかったが口癖の貴方なんて要りませんわ

神々廻
恋愛
「天使様...?」 初対面の時の婚約者様からは『天使様』などと言われた事もあった 「なんでお前はそんなに可愛げが無いんだろうな。昔のお前は可愛かったのに。そんなに細いから肉付きが悪く、頬も薄い。まぁ、お前が太ったらそれこそ醜すぎるがな。あーあ、婚約なんて結ぶんじゃなかった」 そうですか、なら婚約破棄しましょう。

婚約破棄が国を亡ぼす~愚かな王太子たちはそれに気づかなかったようで~

みやび
恋愛
冤罪で婚約破棄などする国の先などたかが知れている。 全くの無実で婚約を破棄された公爵令嬢。 それをあざ笑う人々。 そんな国が亡びるまでほとんど時間は要らなかった。

処理中です...