元婚約者様の勘違い

希猫 ゆうみ

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ホッブス伯爵家での内輪のパーティーを満喫し、王立図書館での職務の為に父が一足先に首都へ帰った。
私は大詰めを迎えたハリエットの結婚準備を手伝いつつ、かなり元気になった叔母の姿に喜び、そして母と共に帰宅した。

この数日の間に元婚約者ブライトマン伯爵令息アーノルドの父親が謝罪に来ていたらしいと知り、私は帰宅早々、早速、内心冷笑するに至った。

「神童と持て囃された過去の栄光に酔い、過度に研究に没頭させ人間性の成長を阻害したと嘆いていた」
「教育を怠ったのね」
「貴族として王国の現状に常に関心を持つべきであるという根本的な精神を叩き込み、二度と他者を不快にさせないよう社交性を備えさせるまで研究所から出さないとのことだ」
「つまり何も変わらないと」
「そうなる」

父は慰謝料を受け取り、その額を私に明かした。

「裕福ね」
「お前の好きに使いなさい」

アーノルドは私から不貞行為の慰謝料を取れる前提で激昂していたが、当然、事実無根の勘違いによる一方的な婚約破棄なのであちらに受け取る資格はない。
寧ろ払う側であるということを父親のブライトマン伯爵が弁えていてくれたのが不幸中の幸だった。

穏やかな日常の中でハリエットの結婚式が迫り、親戚の中でも特に親しい家々がトムリンソン伯爵家に集う。当然、私たちウィンデイト伯爵家も合流した。
結婚式ともなれば父も長い休暇が取れる為、和やかな祝福ムードはかなり長く続いた。

私とそっくりなハリエットが幸せな花嫁の姿を見せてくれて、喜びは数倍にも膨れ上がった。
いつも以上に笑顔が溢れてしまった私は度々ハリエットに間違われたが、両親やホッブス伯爵はその点をかなり心得ていると言える。

ホッブス伯爵が人気者であることから参列者は思ったより多く、続くパーティーの招待客もまた大勢だったが、当然ながらブライトマン伯爵家はそのどちらにも招かれてはいなかった。

「あなたとハリエットを間違えて婚約破棄なんて神童も落ち目ね」
「というか、知らない方がいらっしゃるなんて驚きよ」

振られる会話には度々現れる元婚約者である。

「そんな変な男は忘れましょう」
「きっとすぐ素敵な方が現れるわ」

数多の妹への祝福に、数多の私への励まし。
私は定番となりつつあるやりとりにも喜びを噛み締めた。

「ありがとうございます。皆様にも更なる祝福がありますように」

結婚式と七日間のパーティーの後、初々しいホッブス伯爵夫妻の新婚旅行の時がやってきた。
ホッブス伯領は温泉別荘地である為、招待客のほとんどが流れるように温泉別荘地へと移動する。私たちウィンデイト伯爵家は叔母夫婦に招かれてトムリンソン伯爵家の別荘へ移動し、二週間の間、ほぼ家族水入らずのめでたく穏やかな日々を送るはずだった。

アーノルドが現れたのはトムリンソン伯爵家で寛ぎ始めて十一日目のことだった。
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