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12-2(エディ)※

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父の言葉が僕とノーラの愛の営みに関する干渉であることは一拍遅れて理解できた。
僕が父の年老いてからの子どもであることから、緩やかな時代の流れの中でも価値観にズレが生じているのだと思う事もできた。実際、そう思わされることは生活の中で何度かあった。

だが、違う。
決定的に違う。

一度目は失敗。
本番の前にもう一度、練習。

不吉な言葉の連続に僕は不快な緊張を覚え、固唾を飲んだ。

「練習?」

やっとそれだけ問い質しながら軽い眩暈に襲われる。
父はなんでもないように、さも普通のことのように、いつもの静かな口調で言った。

「全ての妻が安産型とは限らない。良い跡継ぎを産むためには、一度練習して道を広げなくてはならない」
「……は?」
「お前ももう大人だ。妻を愛するなら、その体を正しく管理する事だ。時には情けを捨てねばならん。難産は赤ん坊を虚弱体質にする」
「姉上の死は、母上のせいではありません」

咄嗟にそんな事を言っていた。
愛妻家と信じて疑わなかった父が、心の底では母を憎んでいたのだと、瞬間的に理解したつもりになっていたのだろう。

だが真実はより恐ろしく、悍ましいものだった。

「そんなことは言っていない。ティルダはやり遂げた。お前の姉は失敗作だったが、ノーラは心配ないだろう。イーリスよりずっといい」
「ノーラは健康ですが、イーリスも健康ですよ?」

混乱した僕はそんなことを口走っていた。
父は目尻を下げて微笑んだ。

「健康。素晴らしい。ティルダも教え甲斐があるだろう」
「な、なにを教えるんです……?」
「お産だよ」

目が回りそうだった。
だが僕は持ち直した。

残酷な現実だが、父は僕が物心ついた頃には既に年老いており、今では立派な老人だ。僕に爵位を継承させるという安堵が引き金となり、呆けてしまったのだ。
そう考えると、妻とは跡継ぎを産む道具であるとでも考えていたような発言には息子ながら傷つきはしたが、ノーラに実害があるわけでもないと一安心できた。

だが、気になった。
聞かなかったふりでは済まない気がした。

十二年という具体的な数字には、何か意味があるはずだ。

「何が十二年なんですか?」
「お前の姉が──」
「姉上が亡くなったのはもっとずっと前の話でしょう!」
「ふむ。そういうことにした」
「え?じゃあ実際は違うのですか!?姉上が生きているなら、何故そんな酷い嘘を!?」
「ティルダがそう望んだ」
「はあっ!?」

声を震わせながら僕は大声で父に問いかける。
次の瞬間、真実が牙を剥いた。

「お前の姉は練習で生まれたから家族には加えなかった。男児を埋めたら考え直せたが、十二年前に産んだのも女の子だった。その時、お前の姉はお産に耐えられず壊れたのだ。手が付けられない失敗作だった。お前の誕生を機に姉の方を夭逝ということにしておいたティルダは賢かったよ。狂った伯爵令嬢など災い以外の何物でもないからな」
「……」

父は呆けて、悪魔に憑りつかれでもしているのだろうか。
今の話が本当なら自身の娘に対して残酷すぎるし、もし本当に姉が存命であり十二年前には出産に臨める年齢だったのならば、母は何才で姉を産んだことになる?

「嘘だ」

こんな話が真実なわけがない。
悲しいが、父は老化による痴呆で半狂人と化してしまったのだ。

「嘘なものか。お前も会ったことがあるぞ。だが、幼かったからな。忘れたか?」
「え?」

狂気が僕を蝕んでいく。
父は、穏やかな、静かな、優しい微笑みで僕を見つめる。

「なんて顔をしている?父親になるんだ、負けていられないぞ」
「……な、何に、ですか……?」
「あの子とノーラ。ティルダの腕の見せ所だ。全ての成功は失敗を経て成し遂げられる。何人男児ができるかな。ああ、長生きしてよかったよ。エディ、私が死んだ後も頑張るんだぞ。歴史あるノルドマン伯爵家を永久に──」

僕は父の言葉を振り切りその場から逃げ出した。
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