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「見て!このドレス素敵でしょう?お姉様」
「そうね」

鏡を覗き込み身支度を整えていた姉のイーリスが、無表情のまま生返事している。
そんなに必死で見つめていても美人になれるわけでもないのに。

私はこの姉が大嫌いだった。
何をされたわけでもないが、真面目で勤勉で、見ているだけで息苦しくなる。しかも姉本人はそれが美徳とでも思っている様子で、価値観の違う私をまるで奇妙な生き物でも見るように無言で凝視するものだから不気味でしかない。

私から言わせてもらえば、姉は生まれた瞬間から老婆だ。
人生は楽しむためにあるというのに、常に、人に褒められる死を迎える準備をしている。

二つ違いの姉とは、五年間、修道院の運営する寄宿学校で教育を受けたのだが、あれが姉の最盛期だっただろう。
シスターに持て囃され、貴族令嬢のお手本として持ち上げられ、求婚が殺到し、ノルドマン伯爵家の令息エディと婚約した。

姉には勿体ない素敵な男性だった。

「今日、エディをいただくわ」

私は姉に宣言した。
姉は鏡の中で硬直し、それからゆっくりとこちらに振り向いた。

「ノーラ。正気?」

こういうところが本当に嫌い。
私は言ってやった。

「ええ。だって、正直お姉様には勿体ない男性だもの」
「……」
「神話に出てくる天使のような美しいお顔に、絶えず注がれる優しい笑顔、上品だけどユーモアもあって、決して私を馬鹿にしない」
「オペラの主役気取りね」
「そう。私こそが主役!お姉様が舞台の真ん中に立っていたって誰も喜ばないわ」
「現実はそう甘くないのよ」

私は姉に人差し指を突き立てた。

「僻んでんじゃないわよ、ブス!」

同じ親から生まれてきたのだから実際はそこまで醜いわけではない。
人によっては整った顔立ちに見えるだろうし、私という存在がなければ決定的な老化が見られるまで美女のつもりでいても個人の自由と言えるだろう。

どうせ他人はあれこれ言うものだ。

只、神様は私に美貌を与えた。
美しい私こそエディには相応しいのだ。

「エディだって『実物を見てがっかりした』って言ってたのよ。そりゃそうよね。神との結婚なんて嘯いて女としての魅力がない自分から目を逸らしたお婆ちゃんたちの集まりだもの、そんな枯木婆たちが褒めちぎるお姉様がまともな人の目に美しく映るわけないじゃない!悪いけど、お姉様には墓守くらいがお似合いよ」
「はしたない。口を慎みなさい」
「命令しないで!」

つい大声をあげてしまった。
次の瞬間、笑いが洩れた。

「?」

姉は怪訝な顔をして僅かに首を傾げている。
いつまで余裕ぶっていられるだろうか。見物だ。

なぜなら……

「私は趣味でおめかししたわけじゃないのよ。エディはね、今日、お姉様とお別れしてこの私に求婚するの!」
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