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二時間ほどでグレッグは戻った。
それは思いがけず短い待ち時間であると同時に、熟考するには充分な時間でもあった。

「レーラ、本当にすまない。あなたを傷つけてしまった」
「……」

グレッグの声は低く掠れ、後悔の念が窺える。
私は声のほうには振り返らず、ベッドにじっと座ったまま黙り込んだ。声が出なかった。

「言い訳はしない。ただこれだけは伝えさせてほしい。私は、あなたの敵にしかなれないのだとしたら、ミランダと今後一切の交流を持ちはしない」
「……」
「そしてあなたに見限られたとしたら、その後、再婚はしない。この生涯で私の愛する妻は、愛しい女性は、あなただけだ。レーラ」
「……グレッグ」

静かな呼びかけにはグレッグの苦悩と覚悟が溢れている。
たっぷり時間をかけて体の向きを変え、夜の暗がりの中に力なく佇むグレッグを見つめた。

私の中に、夫を疑う気持ちはない。
今もグレッグを愛している。

「あなたは、共に乗り越えさせてほしいと言わなかった?」
「言った。だが、それはあまりにも虫が良すぎるだろう」
「たまには甘えたら?」

自分でも意外だった。
私は微笑んでいた。

グレッグはまるで叱られた子供のように立ち尽くしている。私はベッドを叩き、隣に座るように促す。

この機会を逃しはしないという意思がしっかり伝わる速度で、グレッグは私の隣に迅速に腰掛けた。

「レーラ」

肩が触れると、そのぬくもりに嬉しくなる。
私を抱き寄せて撫でてくれるその大きな手は、いつも愛と幸せを与えてくれた。

私はグレッグの手に自らの手を重ねた。

「あなたと乗り越えるわ。ミランダは、落ち着いた?」
「……」
「何か言いなさいよ」

グレッグが緩やかに私を抱きしめた。

「終始無言で思い詰めた様子だったよ。だから父親に引渡した」
「オファロン伯爵を起こしたのね……こんな夜中に」
「苦労の多い人だ」

私も同じ事を考えていた。
オファロン伯爵が私の父とは違い、娘を愛し守ろうとしたからそれを比べてミランダは大丈夫だと思い込んだ。

だけど本来は痛みを比べるべきではないのだ。
私は無神経だった。

パトリシアを持ち出さなければいけないくらいには、ミランダにとって私は敵になってしまった。

「私は嫌われてしまったけれど、あなたまでミランダの敵にはならないで」
「レーラ……」
「幼馴染に裏切られるのは辛いのよ」
「私は、あなたの夫だ。あなたの傍にいるよ」
「だったら手紙くらい書いてあげて。あなたの励ましなら、ミランダにとって力になるでしょうから」
「……」

グレッグが抱擁を解いた。
私の肩に手を置いて、戸惑うように言葉を絞り出す。

「あなたがそう言ってくれて、正直、嬉しいよ。言葉にできないほど」
「あなたを愛してるから」
「本当にすまない。あなたは強くなったからこそ誤解しているんだ」
「え?」

それからグレッグは強い眼差しで私の目を覗き込んだ。

「あなたを貶めるためにパトリシアの名を出したのではないんだよ」
「……」

私は言葉を失った。
嫌な予感が私をすっぽり飲み込んだ。

グレッグは辛そうに目を眇め、恐ろしい事を口にする。

「パトリシアはミランダに接触している」
「!」

どくん、と。
心臓が怯えたように脈打った。

息が震え、私はグレッグの目を見つめ返したまま震え始めた。

「……嘘よ。ミランダがそう言ったの?」
「言わない。だが否定をしなかった」
「そんな……!」
「聞き出そうとしたが呆然自失で会話が成立しなかったんだ。明日の朝オファロン伯爵が報告してくれる」
「……」

怒りと不安に圧し潰されそうになった私を、グレッグが再び抱きしめた。
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